嫉妬

 彼女の事が嫌いだった。

 いつでも私の目の上に居座ってはその整った顔の一部のスッと流れるような冷たい目で見下してくる。


 一度だけ一緒に踊った事がある。


 高校二年生の夏だったか。猛暑で体調を崩す生徒が多く、彼女のペアの男子も猛暑にやられて学校を休んでいた。

 私のペアは過酷な練習に耐えきれず熱中症で倒れ、致し方なく彼女とペアで練習する事になった。


 顧問は「相手の動きを覚える事で自分の動きの見直しする事が出来る」なんて言っていたが今思うと生徒が倒れた事を責任問題にしたくなかったのだろう。


 課題曲の曲目はタンゴのジェラシー。

 私にとっては彼女を抜くためにうってつけの曲だった。何故なら彼女はタンゴが苦手だった。


 それでも完璧主義者の彼女は苦手なタンゴも必死に練習していたようで悔しいぐらいに完璧だった。そして私も男性パートだって完璧だった。

 完璧な二人が合わされば完璧になるのは当たり前の事で、私たちはお互いにお互いが嫌いだったけれどその時だけは何度も目を合わせて、息の合うダンスの楽しさを感じていた。


 その後、三人目が倒れて流石に練習は中止になった。

 それからというものの、私の彼女に対しての憎悪は増していった。


 それ以降、彼女が踊る姿を見るたびに腹の虫が暴れだすような感覚に苛まれて、それを押さえつけるように必死に練習した。


 三年生の最後の大会で私は彼女を抜いて一位になることが出来たけれど、彼女のペアの足の故障が原因だったことは知っている。「おめでとう」という彼女の顔にはペアの怪我さえなければ勝てたのにと書いてあるような微笑みだった。


 そのまま不完全燃焼で私たちは別々の大学に行き、私は彼女のことを思い出すことも少なくなり、就職して他の悩みが増えたここ最近では忘れていた。


 結婚式の招待状が来るまでは。


 何故私が呼ばれたのか分からない。またあの見下したような冷たい目で見るつもりなのか、幸せな自分を見せつけたいのか。それでも逃げることは私の性に合わないので一ヶ月前から入念に肌を整えて参加した。


 久々に見た彼女は腹が立つくらいに綺麗だった。私は冷たい目の時しか見ていなかったのかもしれない。笑顔の彼女はこの世の幸福を一挙に手にしたように幸せそうで美しかった。


「来てくれてありがとう」


 新郎新婦がテーブルを一席一席回る時間に、親しかった友人を差し置いてわざわざ私の元に来て手を握り彼女はそう言った。

 その時間はほんの一瞬だったけれど、それでも充分だった。全体が幸せムードの中できっとただ一人、私は数年振りに腹の虫を感じていた。


 生まれついた肉体の違いだけで、私の乗り越えられない壁をやすやすと超えていく。私がペアだったなら彼女のことを一位にすることが出来たのに。きっと今でも二人で踊っていた。


 練習場に置いてきたはずのジェラシーが私の中で流れ出す。

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