肉
「ねぇ。花、太った?」
「えっ」
今何してると思う?今ね、休日の真昼間なんだけどそんな時間から愛を育んでいるの。まぁ育んでいると言っても女同士なんだけどね。その愛を育む行為の真っ最中にあーちゃんはさ…あっ、あーちゃんっていうのは私の彼女なんだけどね、すごく可愛いの。清楚系美人?色白でシュッとしててカッコいいし可愛いし綺麗だしスタイルいいし、なんなら仕事も出来るし料理もすっごい上手なの。でもね空気だけは読めないの。
「なんか…いつもより圧迫感が…」
「あーちゃんのおばか!」
あーちゃんの顔から降りてお風呂に逃げる。顔から降りるって不思議な日本語だね。でもねーその通りなの。五、六年も付き合ってるとさ、やること無くなってくるんだよね。だから半年ぐらい前にネットで調べた顔面騎乗位ってやつをやってみたらどっちもすごく燃えちゃって。これね、最初すごく抵抗あるけどめっちゃオススメ。それで、今回も自然とその流れになるじゃん?あーちゃんにさ「乗って」って言われたら燃えるじゃん?なのに急に「太った?」ってなんなの!もー怒ったよ。ホント空気読めなさすぎ。だから会社でもいっつも一人なんじゃん。
給湯器の電源を付けてシャワーを浴びる。お腹にお湯を当ててみると強めのシャワーの刺激で脂肪が細かく揺れている。んんん?やっぱり太ったのかなぁ?体重計は怖くて最近乗ってないんだよね。
そもそも、あーちゃんのご飯が美味しすぎるのが悪いんだ。なんなの?頭もいいし、顔もいいし家事も完璧って完璧人間なの?意味わかんない。ずるいなぁ。もう!好き!
「花、ごめんね。怒ってるよね」
あーちゃんがお風呂の扉の前にいつの間にか来ていたみたい。びっくりしたー。あーちゃんさ、たまに忍者みたいなんだよね。家でも会社でも物音もなくいつの間にかいるからびっくりしちゃう。
「怒ってるよ!分かるでしょ!」
反射でヒドい言葉を言っちゃったけどホントにプンプンなんだから。もー空気読めない。こういう時はお風呂に突入してその顔で見つめられながらギュッとされたら私なんてイチコロなのになんで分かんないかなー。でも鈍チンなところも好きなんだよねー。大切にされてる感じはするのー。
「本当にごめんね。あの、誠意見せる」
「えっ?」
あーちゃんはたまによく分からない事を言う。頭の回転が早すぎて口が付いていかない時があるみたいなの。上手く説明出来ない小さい子供みたいで可愛いんだけど、頭は全然子供じゃないから時々困る。蝶ネクタイは付けてないよ?
磨りガラスの向こうからあーちゃんの影が消えた。誠意って何?ヤクザなの?…ちょっと待って、小指落としたりしないよね!?やだよそんなグロテスク!
慌ててお風呂から出てあーちゃんを探す。まぁマンションの2LDKで探すも何もないんだけどねー。あーちゃんは案の定すぐに見つかってキッチンにいた。包丁を持って。
「あーちゃん!?指落とさないで!」
「え?落ちないよ?」
あーちゃんは分厚いお肉の下準備をしていた。なにそれ見た事ない分厚さ。
「そのお肉どうしたの…?」
「ネットで買った。本当は誕生日に食べようと思ってたんだけど」
「ちょっと待ってよく分からない」
私の根気と愛情によるあーちゃんカウンセリングによると、「太った」は褒め言葉。圧迫感が気持ちいいから。でも上手く伝えられなくて怒らせてしまったから誠意を見せるために再来週の私の誕生日用に取り寄せたとっておきのお肉をご馳走して「別に太っててもいいんだよ」って伝えたかった。
分かりにくくない?私の彼女。でもそんなところが可愛くない?
「怒ってないの?」
「お肉に免じて許す」
とりあえず全裸でカウンセラーしてた私はお風呂へリターンだよね。その間にあーちゃんは夕飯の準備をしてくれて、お風呂からあがると完璧な食卓。お肉とサラダと赤ワイン。シンプルイズベストアット私の好きなものばかり。やっぱりステーキには赤ワインだよね。この赤ワインも私の好きなアイスワインを取り寄せてくれたんだって。もー本当にダンケ!レッカー!って感じ。
そしてそして、何よりメインのお肉だよね。口に入れた途端にとろけるようなお肉。なんなのこれ。いつの間にお肉を上手に焼くスキルを会得していたの?肉焼きスキルガン積みなの?
分厚くって美味しいお肉と赤ワインですっかりご機嫌になった私を見てあーちゃんも真っ赤な顔でニコニコしてる。普段シュッとして部長に理詰めで攻めるようなタイプのくせに実はお酒に弱くて笑い上戸とかさーもう本当に可愛いんだから。
お肉は大変美味しくいただきました。ついでにあーちゃんも一緒に美味しくいただきました。というところで今日も私の彼女って可愛くない?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます