制服
これで三回目。
この人の制服のサイズアップ申請。
スカートのウエストの部分を見せてきて「もうボタンの繋ぎのヘアゴムでも限界なんです…苦しくて…」って泣きそうな顔で言ってきた。
ヘアゴムがなくてもスカートが落ちたりなんかしないと思うけれど。苦しくて泣きそうなのはヘアゴムの方だと思う。
「これ以上に上のサイズとなると特注になってしまうのですが…」
「えっうそ。何とかなりませんか!?」
「部長に聞いてみますので少々お待ちください。お返事は今週中に出来るかと思います」
「そんなに!?あっごめんなさい。待ちます。よろしくお願いします」
そもそも貴女が痩せれば問題解決なんですが。とは言えず。
「分かりました」
お昼の鐘が鳴る。午前中もどうでもいい仕事しかしてないな。午後もきっとどうでもいい仕事しか来ない。
この会社のいいところは食堂のメニューが格安でどれも美味しいこと。今日は、サバ煮定食にしようかな。
「サバおいしい〜」
やっぱやめた。生姜焼き定食にする。
美味しいという単語しか知らなそうな甘ったるい声はさっきのあの人だ。
こういうのは社会人になってもリア充グループとでも言うのだろうか。似たような髪型の女が群がってどこの課の誰がカッコいいだとか、誰が誰と浮気しているのだとか。高校生から成長していないようなそんな集まりの中心にあの人はいつもいて、いつも誰かから施しを受けている。
「山ちゃんブロッコリーあげる」
「え!?いいの!?ブロッコリー大好きなんだ〜」
「私の生姜焼きも一枚あげるよ」
「ほんとに!?お肉貴重じゃん!」
「いいのいいの〜食べて」
「おいしい〜」
アホくさ。自分で頼んだものぐらい自分で完食しろっての。だからあの人が太るんだ。
「生姜焼きお待ち」
「あっどうも」
一人で食べても生姜焼き定食は美味しい。それでも食事はさっさと済ませて喫煙所に行く。職場での唯一の癒しの時間だ。
「あいつよくあんなに食えるよね」
「しかも食った後にすぐ寝るからね。そりゃああなるわ」
さっき施していた女たち。いつもはもっと時間がかかるはずなんだけど、今日は早いな。あの人はタバコを吸わない。
うるさいので早々に退散する。癒しの時間を奪われるのは忍びないがこれ以上は聞けない。
その足でいつも通り休憩室に行く。
休憩室ではあの人が机に突っ伏して寝ていた。腹の肉に机が挟まれて可哀想に。
周りに誰もいないことを確認すると椅子の横にしゃがんでみる。腹の段にどれだけ指が埋まるか試してみる。大気圏を抜けて、第二関節突破しました。
「ぬっ…なんだあーちゃんか」
「会社では武田さん」
「はーい…武田さん。なんですかーまたタバコ臭いし」
「うるさいな。また今日もあいつらの食べてた。痩せなさいよ」
「だってーしょうがないじゃん。くれるんだもん」
「だから特注になるんだよ。今日は豆腐ハンバーグにする」
「え、やった。あーちゃんの豆腐ハンバーグ美味しいから好き」
「会社では武田さん。痩せる気ある?」
「あんまりー。あーちゃんがこのお腹を好きなの知ってるもん。今もほらー」
私の手は正直だな。埋まる感覚が快感。内臓と骨は宇宙にでも行ってるの?
まったくしょうがないな。今日はチーズの入ったハンバーグにしてやる。
問題はない。私の仕事が増えるだけだ。
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