第2話 文化祭も謎文字もキョーミない
クラモトが教室を見廻した。
「それで、出し物のほうはどうなんだ? 先生なりに各案考えてみたんだけどな、それぞれクリアしなきゃならない問題点があると思う。まずは反町案、馬場は頼めばピアノ弾いてくれるのか?」
「弾ける曲なら。歌うよりいい」
馬場君はぼそっと呟いた。日本語の読み書きは一通りできるのに、海外で同年代の話し相手がいなかったらしく、会話はひどく苦手なようだ。王子様キャラとのギャップに、女の子たちは母性本能をくすぐられる。「萌え〜」という言葉が無かった時代だから、「カワイイ♡」というしかなかったが。
「そうか。富田案、おまえたちはまだ中一でディスコには入れない。誰が振り付けするんだ? 富田が教えてくれるのか?」
皆がどっと笑った。硬派で通している彼が、クラス全体に「おゆうぎ」の指導をする場面を想像して可笑しかったのだ。
「映画とか参考にして兄や友人に見てもらう。オレが三人に教えてそれぞれが次の三人に教えればいいだろ?」
ムスッとしたまま富田は答えた。
「では植村案、おまえら短歌作れるのかー?」
またどっと笑いが起こった。
「五七五七七で風流に学校生活を詠う。国語の松田先生に全員一度は添削してもらう。だがそれだけじゃ、誰も見に来てはくれんぞ? 張り出した短歌のどれが好きか人気投票、票を投じてくれた人には何か景品を出すとでも宣伝しないと。ただ景品には学校からお金は出せない。自分たちで作るか、うちから要らないものを持ち寄るしかないな。それから、おまえたちがいい加減な歌作ると先生が恥ずかしい。本気を出してもらうために、人気投票で一位になった者は掃除当番を一週間先生が代わってやろう。これでどうだ?」
「先生、人気投票好きだね」
そんな声が上がった。
「いや、これを考えてたから黒板の字もそうかなと思っただけだ。では帰りの学活で意見聞くから今日一日考えておけ。多数決で決めてしまうからな」
昼休憩に圭子が親友とお弁当を食べていると、馬場君が植村の机の前に立った。植村は訝しげに昼食から顔を上げた。初めてみるツーショットだ。
「手伝う? 探すの」
緊張しているのか馬場君はいつもより片言だ。
「何を?」
植村はぶっきらぼう。
「誰が書いたか」
「手伝わない。キョーミない」
「キョーミ? Not interested?」
馬場君が敬遠されるひとつの理由はこんな風に英語で聞き返されるからだ。本人は誤解してないか確認が欲しいだけでも、英語で話しかけられて焦らない中一はいない。まだその頃、小学校で英語は習っていない。
植村は英語ではノーというべきところを、
「うん、キョーミない。Not interested」
と言った。
馬場君は理解できたのか、自分の席に戻った。
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