第276話

「ぐっ…!」

 まただ…。また、妙な映像が…!

 耳鳴りとともに周りに見たこともないはずの映像が次々と浮かんできた。その映像が浮かぶたびに僕の頭は割れるような痛みが走った。

「まずい…。なんとかしないと…!」

 くそっ…。痛みが強くなっていく…! なんなんだ…これ…。

「ぐっ…。……がぁああああ!」

 くっ…くそっ…。これ以上はまずい…! まるで…大量のデータが送りつけられてるみたいだ…。……大量のデータ?

「そっ…そうか…。思い出した…。これが…オーバーフローってやつか…」

 僕は一つの仮説を立てた。この映像が情報の塊だというなら、僕の頭の中には強制的にそれが流れ込むようになっている。つまり、処理できない量の情報を処理しようとして溢れ出ているのだ。

「かなり…まずいぞ…。これは…」

 このまま放っておくと僕の頭はぶっ壊れる…。なんとかしないと…!

 この対処法はいくつかあるが、最も簡単な方法は入ってくる情報を遮断することだ。だが、そんな簡単なことが今はできない…。できない以上は別の方法を考える必要がある。

「なら…!」

 僕はラタトスクを発動して、認識スピードを高速化した。逆転の発想だ…。情報を処理できないなら、処理できるようにしてやればいい…。

 

「……」

 ふぅ…。なんとか…なったみたいだな…。……発動してるのか…これ?

 頭の痛みは消えて、辺りの映像はゆっくりと動き出していた。だが、別の通常の発動とは異質なものを僕は感じていた。

「……」

  ……声はでない…。…という事は間違いなく発動してるみたいだな……。

 僕は試しにあ〜…と声を出そうとしたが出なかった。間違いなくラタトスクの発動はしている…。しかし、本来ならバチバチと光るはずのラタトスクが、全く光り輝かずに発動しているのだ。

「……」

 まぁ…いいか…。発動しているなら…。それよりも、こっから…どうするかだな…。

 現時点ではオーバーフローによる破壊を防ぐ事はできた。だが、それはラタトスクを発動しているからだ。これが解けてしまえば再び激しい痛みが襲い、僕は壊れてしまうだろう。仮に解けないとしても、このまま流れてくる映像を動けもせず見ていなければならない…。まさにラタトスクのスキルの説明通り、永劫の時が過ぎていくって状態だ。精神が崩壊するのも時間の問題だろう…。いや、流れてないんだったな…。

 

〈……まずは…自我の崩壊を防ぐ事に成功したようだな…〉

 ……お前は!? お前…誰なんだ…。いや…今ならわかる…。シャドウに似てるその気配……。お前が…この星に住む悪魔なんだな…。お前の……お前の力がアリスを…!

〈私ではない…。こうなったのは…全てお前が弱いからだ…〉

 だまれっ…!

〈…お前は無力だ。お前には何も守れない…〉

 だまれ…だまれ…だまれ……! 俺はなにも悪くない…。お前とあいつらが…。

〈他者のせいにすれば楽だろう…。ただ…それは認識の違いだ…。結果としてはなんの違いもない…。お前の中に眠る私の力が暴走したのだ…。…なぜかわかるか?〉

 …そんなのっ……! ……………わかってる……。俺は………いい人間でいたかったんだ………。

〈そうだ…。お前のその中途半端な覚悟が…この結果を生んだのだ…〉

 僕はこうなることを理解するべきだった。全員無傷で帰れるなんてゲームだけの世界だ。いや、むしろゲームのようにプレイするべきだった。誰かの死を前提として戦うべきだったのだ。

 俺は無力だ…。なんで…なんで…こんなにも無力なんだ…。俺はこれっぽっちも守れない…。

〈だが…お前は…間違ってはいない…。この世界を満足できるならな…。ただ…お前が望んだのはこんな世界なのか?〉

 …違う…違う…違う……。…こんなの…違う…!

〈……お前は…何を望む…?〉

 …俺は……。俺は……。俺が望む世界は……。皆が生きてる…。幸せな世界だ…。

〈……ならば…この世界を否定しろ……。…ディナイアルグローリーを覚醒させ、お前の望む世界を手に入れるのだ…〉

 …それで…皆が助かるのか?

〈いや…ありとあらゆる生物は…死ぬだろう…。だが、お前の中で永遠に生き続けることができる…〉

 …どういう…意味だ…?

 僕がふと辺りを見ると、まるでRPGゲームのラスボス戦で流れるような映像が次々と浮かんできた。ゲームだったら大ヒットしてるかもしれない迫力満天の映像…。僕はそれを眺めながら理解した。奴の…いや…僕が持っているスキルの本当の恐ろしさを…。

 



 

 

 

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