第263話
「……」
「ノスク…! 起きてくれ…。…ダメか……」
ノスクは深い眠りについているようだった。体の回復はしたが、精神力まではやはり回復できなかったのだろう。
「…どうしたコン?」
「…忘れ物かポン?」
僕が城の入口に立って、ノスクを背負ったまま迷っていた。
「…悪いんだけど…この子をベッドに運んでくれないか?」
「了解だコン…!」
「頼む…。…なあ、ユキはどこにいるんだ? 用事があるんだけど…」
「二階で休んでるポン…」
そうか…。なら…起こすのも悪いか…。
「…どうされましたか?」
振り向くとフラフラしながらユキは階段を降りてきていた。
「まだ…寝てないとだめだコン!」
「そうだポン!」
「今はそう言っている場合でもありません…」
「起こしてごめん…。……ユキにお願いがあるんだ」
「…お願いですか? いいですが…今の私にそこまでのことは…」
「いや、大したことじゃないんだけど…。少し聞きたいことがあるんだ…」
僕は魔王城の地下空間にある遺跡について聞いた。千年前のことなら当事者に詳細を聞いたほうが早いだろう。
「それは…ヘイムダルの作ったものですね…」
「…ヘイムダル?」
「はい…。勇者様の生き写しともいうべきでしょうか…。相当な力を引き継いでいました…」
「…子供ってこと?」
僕がそう尋ねると悩ましい表情をしてユキは目を瞑った。
「うーん…。どうなんでしょうね……。まるでなにかをコピーしたような…。いえ…話がそれましたね…。出生については私も知りません…。ですが、彼が作ったものに間違いはありません…」
「…そいつはなんの為にあれを作ったんだ?」
「…下にいきながら話しますか?」
「ユキが大丈夫なら…」
「はい…!」
元気の良い返事をすると、ユキは倒れ込むように僕の腕にくっついた。僕はユキとともに地下の遺跡へ足を進めた。
「…話は変わるんだけど、よくあんなもの城の地下に作らせたよな…」
俺だったら、自宅の下に作るなんていってきたら絶対に断ってる…。
「…そうなんですか?」
「…そうなんですかって……。その時…魔王だったんだろ?」
「はい…そうですね…」
「…ん?」
なにか話が噛み合わないな…。
僕がそんなことを思っていると、初めの部屋についた。僕は松明に灯りをつけて一つ手渡すと、ユキは手を離した。
「それにしても、すごい作りですね…」
「…ん? …見たことなかったのか?」
「はい…。できたのも少し前ですし…。なにより立入禁止の上に土砂で入口に蓋をしていましたからね…」
「ユキなら空間移動とかでいけそうな気もするけど…」
「そうですね…。あの言葉をいわれるまではコッソリ覗いて見ようかとも思いましたけどね…」
「…あの言葉?」
「君の好奇心で世界を滅ぼすかい?って…。おや…ここに階段がありますね…。降りましょう…」
なんだ…今の言い方…。まるで…。
ユキは大きな木の中にある螺旋階段を降りていった。僕があとをついていくと、ユキは辺りを歩いていた。
「おっ、おい…。危ないから先にいくなって…」
「すいません…」
「さっきのことなんだけど…。もしかして、そいつも未来を見れたのか?」
「いえ、彼は勇者様と違い未来を見る事はできませんでした…」
「そっか…」
予想が外れたな…。なら…勇者の未来予知に従ってこの建造物を作ったってことか…。
「ですが…未来の音を聞くことができたのです」
「…どういうこと?」
「彼は視覚はなく、聴覚で未来を聴くことができました。その光景は…まるで一つのメロディーを奏でるようでした…。彼はそういった方法で、いくつもの未来を作曲していったのです…。下にいきましょう…」
「ああ…」
…未来のメロディーか……。
僕達は更に下の階層へ足を進めた。そこに行くとユキはある一つの銅像に近づいていった。
「この方ですね…」
「こいつが…ヘイムダル…。でも、一体なにがしたかったんだ…。…なんていうか…不必要なものが多すぎないか?」
「そうですね…。勇者様に頼まれた事ともう二つの目的があったと言っていました…。勇者様に頼まれた事は何回聞いても教えてくれませんでしたが、しつこく尋ねると残りの二つのヒントは教えてくれました…。一つ目は未来へつなげるメッセージだと…題名は…確か…」
僕は大きな笛を持ったその銅像の目を見たあと、僕は石版に手を触れた。
確かにこいつがなかったら僕はここにきていないかもしれないな…。
「終わりの笛か…」
ウルは勇者の力に反応して、このメロディーが流れていると言っていた。ただ、そうだとしたらここにその楽譜を残すということは、その力に近づくものがここにあるということなのではないか…。勇者の祭壇への入口が…。
「…なぜ知っているのですか?」
「なぜって…。…ここに書いてあるだろ?」
「うーん…。…不思議な言葉ですね……。私にはなにが書いてあるかわかりません…」
「そんなはずないよ…。だって、古代語って言ってたし…」
まぁ、色々種類はあるのかもしれないけど…。
「私はこう見えて、あの当時の言葉はすべて知っています…。このような言葉は見たこともありません…。考えられるとしたら、彼が文字を作ったのでしょう…。アル様にはきっと文字を読み解く不思議な力があるんですね…」
「そうなのかな…。まっ…いいか…。…それで二つ目は?」
「二つ目は…懺悔だと言っていました…。生まれなかった未来への…」
「…どういう意味なんだ?」
「それ以上は教えてくれませんでした…。下に降りてみましょう…。なにかわかるかもしれません…」
「そうだな…」
僕が思い出せなかったのには一つ理由がある。あの時はこの下の空間が遮断されていたのだ。僕が初めてこの下の空間に入った時に少し上と比べて狭いと思ったのは確かだ。可能性の話だが、もしかして遮断していなければ元々の空間にはなにかあったのかもしれないと、少しだけ思っていた。ただ…あの時はそれどころじゃない…。この大陸をいかにこの位置に留め続けるか…。魔物達の洗脳解除…。その後もヨルムンガンドの襲来…。魔族の解放と戦争回避…。立て続けにイベントが発生したせいで、僕はそれ以上に深く考えるのはやめてしまったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます