第264話
「これは…」
地下に降りると数え切れないほどの小さな石碑が波のように乱雑に立っていた。えぐられた地面は城を元の場所に戻したせいなのかもしれないが、誰かの手で掘り返したような感じもした。
「まるで…お墓みたいですね…」
墓か…。
僕は目の前の石碑をしゃがみこみ見てみると、上で見かけた同じような文字が彫られていた。
「神族……。こっちは…コビット…。魔族に竜族…。エルフにドワーフ…。猫族まである…」
「…一体、なんなんですか?」
「…ほんとにお墓みたいだ……」
「こっ、この城の地下にですか!?」
…いや……。
僕は掘り返した中を見てみたが、墓と言うにはそれらしいものはなにもなかった。
「うーん…。そうなんだけど…。なんだろう…。少しちがう気がするな…」
「…といいますと?」
ユキは少しホッとしていたような顔をしていた。
「なんていうか…。そもそも中身がないっていうか…。そうか…これは…」
「…これは?」
「…全ての種族が滅びるってことなんだ……」
「…そういうことですか……。…彼は一体なにを見たのでしょうか?」
「わからない…。進んでみよう…」
「はい…」
僕は奥にある巨大な十字架の石碑に近づいた。僕は船のような建造物の上に立って、その石碑に書かれた文字を読んだ。
「折れた枝は元に戻らない…。ならば…私は禁忌を侵す…。最果ての先…永久の世界より戻りし事を願う…。これで終わりみたいだ……」
「…それはどういった意味なのでしょうか?」
「…うーん……」
これもわからない…。…扉を開くヒントなのか? でも、鍵って鑑定眼だったんじゃ…。
「…ところで、その石碑にはなんと書かれているのでしょうか?」
「…どれ?」
「アル様が踏んでるそれです…」
僕は段差から降りると、確かにそれは石版のように少し見えた。ただ、そこにはなにも書かれていなかったのでちょうどいい足場かと思っていたのだ。
「…もしかして、この石版を鑑定眼でみればいいのか? いけるか…? ……ノーム!」
僕が地面を触って名前を呼ぶと、モコモコと土煙があがってシャルが現れた。どうやら、成功したようだった。
「あれ…。ここ…どこ…」
「おい…シャル…」
「…ぎゃああああ! …って、アル? どこなの…ここ?」
「魔族の城だよ…」
「…魔族の城…?」
「こんにちは…」
「…えっ? …ぎゃああああ!」
シャルは驚いた声をだして僕に抱きついてきた。僕は勢いよく飛びつかれたのでコケそうになった。
「…だっ、大丈夫ですか?」
「はぁ…はぁ…。心臓が止まるかと思ったよ…。えっと…こんにちは…」
シャルはユキに挨拶をしたあと、僕の方を見つめてきた。
「なんでこんなとこにいるの! …また、皆に黙って抜け出したの!?」
「えっと…ごめん…。皆には休んでてほしくて…。それよりも、シャル…ここになんてあるか教えてくれないか?」
シャルはジッーと石碑を見たあとに腕を組んで、今度は僕の方を怪しそうな目で見てきた。
「教えてあげてもいいけど、皆がくるまでは教えてあげない…」
「頼むよ…。ノスクは、気絶して上で寝てるんだ…。…その間、なにもするわけにはいかないだろ?」
「…気絶!? 一体、なにがあったの?」
「実は…」
僕は扉がもしかしたら二つあるかもしれないと思い、猫の国にある遺跡に行った事を伝えた。そこで、なんとかヒントを見つけたものの、ノスクが朦朧とした意識の中でここに空間移動したせいで、今に至ることを…。
「うーん…。わかったよ…。…でも、紙かなにかない? あと、書くもの…」
「…紙?」
僕はバッグから取り出してシャルに渡すと、シャルはどこかで見たようなことのある妙な文字を五線譜の上に書き出した。
「灯りを照らしてて…」
「うん…」
僕はシャルが暗がりの中で書き写すのを黙って眺めていた。
「はい…。できたよ…」
「ありがと…」
シャルは僕に書き記した紙を手渡してたので受け取ってみたが、そこに書いてる文字の意味はわからなかった。
「…なにかわかった?」
「いや……。…ステータス……」
「……」
ステータスはだめか…。僕の予想が正しければ、ここに書いてる文字の音を考えないといけない…。いけないが…。これはかなりマズイ状況だ…。
僕は音を出してもらう為に、ダメ元でステータスを呼んだが何も反応がなかった。僕はその紙を見つめて考えていた。
どうすればいい…。ステータスが目覚めるまでまつか…。いや、決めつけたらダメだろ…。他の可能性だって…。
「……うーん…」
「…えっ!?」
「…どうした?」
急にシャルは驚いた声をあげていた。シャルはなぜか目の前の石碑を見ているようだった。
「ごっ、ごめん…。なんでもないよ…」
「そっか…。…うーん……」
「…光った!?」
シャルは石碑をガシッとつかんだあとに、僕の持っていた紙を引っ張って文字の一つを指差した。僕はしゃがみこんで、シャルに問いかけた。
「…どうした?」
「この文字が光ったんだよ! …今は消えてるけど……」
「…気のせいじゃないよな?」
「…ホントだよ!」
「…うーん……なにも…」
「まっ、また、光った…。うーん…。そっか…。アル…うーん…っていって!」
「…うーん……」
「あれ…光らない…。もしかして、音に反応してるんじゃないかと思ったんだけど…。やっぱり、気のせいか…」
「なんだって……! そうか…やっぱりそうなのか…。まずいことになったぞ…」
「…えっ? …どうして?」
僕は昔やった音楽作るゲームを思い出していた。そのゲームでは登録されている音声を組み合わせて、曲を作るといったものだった。しかし、それをこの場で再現するとなるとかなり難しい…。音程…音色…音の大きさ…もしそれら全てが揃わなければ開かないのだとしたらとんでもない時間がかかる。
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