第58話R
「…シオンさん、もしかしてあれですか?」
「ああ…間違いない…」
「ワクワクするわね…」
僕達は上空から頑丈そうな城門の前にゆっくりと下降し着地した。まあ、ギルドの門番と同じく急に空から現れたのでびっくりしていたが、アリスのつけていた王家のペンダントを見せるとすぐに門を開けて入れてくれた。
「……なんかあっさり入れたな。……例のやつやりたかったのに…」
「……バカな事いってないで、さっさといくわよ」
「…とか、いいながら…あの時はノリノリだったじゃないか。…ん? …変な音が聞こえないか?」
「そんなことないわよ…。…って、確かに…なにかしら……。叫び声みたいな…。…シオンさん…急に立ち止まって、どうしたんですか?」
「あっ、あの声は…」
「…シオンさまぁあああー!!!」
突然、大きな声をあげながら、城の中から栗色の髪の小学生みたいな小さな女の子が全力疾走で出てきてシオンさんに抱きついた。女の子の格好から察するにこの国のお姫様だろう。
「シャ…シャルティーニュ姫…」
シオンさんの方を見ると顔が引きつっていた。例えるなら…なんというか犬が苦手な人に可愛い小犬が、かまってくれとお願いしているような光景だった。
「シオンさまぁあああー! やっぱり助けにきてくれたんですね!! わたし、嬉しいですぅー」
「いや、まあ私も助けにきたんだが…。こっ、こちらの二人も助けにきてくれたんだ…」
シオンさんが僕達の事を紹介すると、女の子は僕とアリスをじっと見た後にアリスの方へテクテクと歩いて目の前に立った。
「はっ、初めまして! シャルティーニュ姫、お会いできて光栄です。わっ、私は、エルフ王国のアリスと申します…」
ぎこちない動きでお辞儀していたので、つい笑いそうになってしまったが、人のことを笑ってる場合じゃないとふと思い、僕も慌ててアリスに負けず劣らずぎこちないお辞儀をした。目の前の彼女は、ジッーとこちらを見ていたかと思うと、急にグルグルと僕達の周りを品定めするように回りはじめ、アリスの目の前に立ち止まった。
「……ふーん…。あなたがアリス姫ね…。三十点ってとこかしら?」
「…はっ、はい?」
「……だからね、三十点…。なにその子供みたいな格好…。…ちょっと、その…センスないわね……」
僕はヤバいと瞬時に思ったが、止める間もなく、その許されざる発言をアリスは聞くと、震えながらとんでもないことをいいだした。
「…なっ、なんですって、このチビー!! わっ、わたしのお気に入り服に…。あっ、あんたの方がよっぽど子供じゃない!!!」
アッ、アリス…。おっ、お前…外交問題はどこにいったんだ…。まあ、相手が挑発してきたのが悪いんだけど…。
「あっ、あなたっ…。わっ、わたしが…気にしてることを…。うわーん…。シオンさまあああー…。この耳長女がいじめるぅ!」
シャルティーニュ姫はシオンさんの方に走っていき抱きついた。シオンさんの目の光はすでに失われていた。
「シャッ、シャルティーニュ姫…。今のは姫が悪いですよ。さて…寒いですし、お城に入りましょう。……二人は、少し後からきてくれ」
「…わかりました」
僕が返事をするとシオンさんとシャルティーニュ姫は城の中に入っていった。僕はなにか言葉をかけようと思ったが、いい言葉が浮かばない。アリスも僕がいわなくても、重々わかっているとは思う。だって、時間が経つに連れて、どんどん真っ赤な顔が青ざめていったから…。
「……」
「……」
「……ねえ、アル…。私…結構まずいこといっちゃったのかな?」
「まあ…普通に考えたら、外交問題に発展するよな…」
「そっ、そうよね…。私の旅もこれで終わりか…。アル…今までありがとう…」
「……」
「…って、いやぁああああー!! お父様になんて顔すればいいのよぉおおー!」
アリスは心の声を恥ずかしげもなく叫んで、僕の体をガンガン揺らした。僕の頭はグワングワンと揺れ、時折写るアリスの顔が歪んで見えた。
「ちょっ、ちょっと揺らすなって…。…まあ、今回はあっちが悪いんだし、シオンさんがうまくやってくれてるだろ」
「…そっ、そうよね。でも、入りづらいな…」
「…じゃあ、先にいってるからな」
「まだ、心の準備が…。…って私もいくから、ちょっと待ってよー」
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