第257話

 僕がそんな事を思っていると、アリスに肘で脇腹をドンッと突かれた。

「ガッカリしてる場合じゃないでしょ!?」

「ガッ、ガッカリなんかしてない…! ちょっと驚いてるだけだ…」

「ふーん…」

 アリスに疑いの眼差しで見られていると、シャルは僕のズボンを引っ張った。

「アル…この人…鑑定眼のスキル持ってる…」

「やっぱり…そのスキルってレアなのか?」

「うーん…。効果は同じだけど、同じ名前のスキルは初めてかもしれないよ…」

「そっか…」

「アナスタシアさん…。なら…扉の場所を教えてくれるってことでいいのかな?」

 僕は二人から離れてアナスタシアさんに近寄ると、アナスタシアさんは涙を流して僕の胸に飛び込んだ。僕は背後から沢山の視線を感じていた。

「うっ…。ごっ、ごめんなさい…! 扉は壊れてしまったんです…」

「えっ!? とっ、扉が…!?」

「うっ…うっ…!」

 僕は振り返ってリアヌスの方を見ると残念そうに首を横に振った。アナスタシアさんは噓をついていないようだった。

「……」

 そうか…。ウルのやつが…。

「私の…私のせいで…」

「アナスタシアさんのせいじゃないよ…」

「うっ…。初めて…アル様を見た時に思ったんです…。なんて…なんて…裏スキルの多い人なんだろうって…」

「……」

 いや…まあ…確かに…。

「こんな裏スキルが多いって…前世でとんでもなく悪いことしてたんじゃないのかって…。ごめんなさい…。そんな浅はかな考えをしていた私がバカだったんです…。アル様は私を助けてくれたのに…」

「…気にしなくていいよ……」

 そんなふうに思われてたのか…。

「…アル様……」

「…えいっ!」

 アナスタシアさんの顔が近づいていると、シャルが僕のズボンを見えそうなくらいに引っ張って下げた。僕は慌ててズボンを上げた。

「なにするんだ、シャル!」

「お取り込み中悪いんだけど…。王様がきてるよ…」

「えっ!? ああっ…。えっと…」

「ごほっん…。アル殿…。一応、各所に連絡をしたがそのような話はなかった…。時間が経てばでてくるかもしれんが、期待は薄いだろう…」

「そうですか…」

「では…私は…」

 気まずそうに王様は部屋からでていった。僕は気を取り直して、アナスタシアさんの一族や扉の現状について話を聞いた。

 

「…ということなんです」

「なるほど…」

 …ん? でも…やっぱりおかしい…。ウルの事を皆は忘れていたはずだ…。そういえば、王様にもすんなりと話が進んだし…。…どうしてだ? 考えられるとしたら…。

「…誰かがリカバリーをかけた?」

「はい…その通りです…。その方は……」

「…私よ……」

 声のする方を見るとシルフィが包帯を巻いてでてきた。シオンさんはスッと立ち上がると、シルフィの体を支えた。

「シルフィ様…!? まだ…休まれていたほうが…」

「もう大丈夫…。なんとか病室から抜け出してきたわ…」

「シッ、シルフィ様!?」

 シオンさんはシルフィの体をみながらアタフタしていた。

「…でも、シルフィ…おかしくないか?」

「…なにが?」

「多分…シルフィが目覚めたのも、ついさっきってところじゃないか?」

 僕はあの時にシルフィのケガは治したが、シルフィは気絶したまま深い眠りについていた。

「ええ…。さっき起きたばっかりよ…」

「なら…リカバリーをかけるのにしても全員は無理だ…。優先順位をつけるとしたら、王様はわかる…。でも、メイドであるアナスタシアさんをあえて先に治すなんてしないはずだ…」

「普通ならそうね…」

「なら…どうして…」

「私が幽霊になっている時に見たのよ…。やつが勇者の祭壇へいくところを…。そして、その子もリカバリーをかけなければいけない状況になっているってこともね…」

「……」

 そういうことか…。

「私もシルフィさんにリカバリーをかけてもらい驚きました…。その使命を忘れていたことに…。私は結局守れなかった…。これじゃ…五十年前の再来ですね…」

 …五十年前? 五十年前…。…ん?

「それって…もしかして…。シルフィのおば…。むごごごご…」

 僕がシルフィのお祖母さんのことじゃないか?と言おうとしたら、シルフィとシオンさんに口を塞がれて小声で注意された。

「…君は何を言おうとしているんだ!」

「…その話は伏せてるのよ!」

「ごっ、ごめん…」

「…どうかされました?」

「いっ、いえ、なにも…。それで…五十年前のことって…?」

 僕は二人の手を離して、アナスタシアさんの話の続きを聞いた。

「はい…。私の祖母から聞いた話ですか…過去にとあるエルフが異空間を切り裂き、無断で勇者の祭壇へ侵入したそうです…」

「へっ、へえ…そうなんだ……」

「はっ、初耳ね…」

「そっ、そんにゃことが…」

「はい…。本来は道標であるその青き剣と、鍵である鑑定眼を使わなければ開けないはずなのに…」

 僕達はわざとらしく知らないふりをした。なかなか名演技?だったと思う。

「ごほっん…。まっ、まぁ…そんなところにいかなくても私はこうして生き返ったし、気にしなくていいわよ…。……あれ? …皆、変な顔してどうしたの?」

「いや、それが…」

 僕はその勇者の祭壇へ行く方法を探しているのだとシルフィに伝えた。

 

「まいったわね…。お手上げじゃない…」

「ああ…。…シルフィはなにか知らないか?」

「知らないわね…。まぁ、あなた達は少し休んでなさいよ…。その飛空艇がくるのも、もう少しかかるんだから…。おっとと…」

「シルフィ様!?」

 シルフィはよろけて僕にもたれかかった。やはり、まだ本調子ではないようだ。

「…大丈夫?」

「でも、ダメね…。十年も寝てたから、体が全く動かないわ…」

「…休んでたほうがいいよ」

 僕が後ろの椅子に座ろらせようとすると、シルフィは抵抗して座らなかった。

「いえ、私に休んでる暇なんてないわ…。急いで奴の魔法を解かないと…」

「それはそうだけど…」

「でも、頑張ったらご褒美がほしいな…。あの時みたいな…」

「…あの時?」

 …なんのことだ?

「ほら…。ホッペでいいから…」

 シルフィは小声で僕にそういったあと、ニコッと笑い僕のホッペをツンツンと突いてきた。

「ばっ、ばか!」

「もう…冗談よ…。じゃあ、私は引き続き城のみんなにリカバリーをかけてくるから…。あなた達は部屋で休んでなさい。アナスタシアさん、あとはよろしくね…」

「はっ、はい!」

「あと、シオン…。あなたはついてきちゃダメよ…」

「はっ、はい…」

 シルフィが部屋をでるとシオンさんは心配そうな顔をしていた。

「では、皆さん…。こちらへ…」

 アナスタシアさんは僕らを部屋に案内してくれた。僕はベッドで一人横になり寝ていた。

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