第256話

「……」

 どこにいくべきだ…?

 僕は椅子に座り、シオンさんが皆と話し合ってるのを眺めていた。アリスはこっちを向くと僕の隣に座った。

「ねえ…アルはどこにいくのが正解だと思う?」

「……」

 正解か…。今の状況をRPGゲームで例えれば、ラスボス戦まで順調に進んでいるって感じだろう。ただ…あまりにも順調だ…。順調すぎる…。

 僕は先程までなにも感じていなかったが、次の目的地を冷静に考えれば考えるほど気持ちの悪い違和感が湧いてきた。

「…ねえ、聞いてる?」

「ああ…」

 なんで…ヨルムンガンドを俺はすでに倒してるんだ…。あいつなら海中で隠れてる事もできたはずだ…。ユキの力を封じたかった…? いや、そうじゃない…。なにか…なにか引っかかる…。やっぱり…これは時間稼ぎじゃない…。俺はなにか見落としてる……。まさか……。

 アリスは僕の脇腹をチョンっとつついた。僕はビクッとなった。

「…えい!」

「うっ…。なっ、なにするんだ…」

「…ねえ、ここにいつまでいるの?」

「そうだな…。よし…。勇者の祭壇にいってみるか…」

「わかった…勇者の祭壇だね…。…勇者の祭壇? 勇者の祭壇!?」

「ああ…。皆、聞いてくれ…。勇者の祭壇へいこうと思う…」

 シオンさん達は話をやめてこちらに近づいてきた。

「…勇者の祭壇にいってなにをするつもりなんだ?」

「ゼロが呼んでたんだ…」

「…ゼロが?」

「ゼロはスキルかなにかで敵の居場所がわかるみたいなんだ…。多分、そこにいるはずなんだ…。サーティスが…」

「…なるほどな……。…だが、どうやっていくつもりだ?」

「…ノスク、なにか知ってないか? 皆も…」

 皆の方を見ると首を横に振ったが、アリスは大きな声をだして立ち上がった。

「いこうよ、エルフの王国に! 精霊達がなにかヒントをおいてるかもしれないよ!」

「…そうだな……。なら、船は自動操縦でエルフの王国に向かわせよう…。…皆、準備してくれ!」

「うん!」

 僕達はこうしてエルフの王国に戻ると、エルフの城にちょうど朝日が差し込んでいた。僕はふと太陽を見上げた。

 

「……」

 あいつ…昨日見たときよりもでかくなってる…。

 太陽の中に浮かぶ巨体は上半身が完全に形作られていた。完全に修復されるのも時間の問題だろう…。

「アル…。早くいこう…」

「ああ…」

 城に戻ると顔色を悪くした王様がシワになった服を着て駆けつけた。王様はアリスを見ると膝をついて抱きついた。

「アリス…無事だったか…」

「やっ、やめてよ…。お父様…時間がないの…。聞いて…」

「…どうしたのだ?」

「えっと…」

 

 結論からいうと、期待していた答えは帰ってこなかった。王様に話を聞いてみたが、城の中では特に変わった事もなかったようだ。

「ねえ、なにもなかったの!?」

「なっ、ない…。今から城中の兵士をかき集めて探ってはみるが…。もう少し、待ってくれ…」

 王様は部屋からは貴賓室へ案内されたが、こんな豪華な部屋の中にいても虚しなで満ち溢れていた

「ごめん…」

「アリスが謝ることじゃない…」

「うん…」

「……」

 でも…どうする…。どうすればいい…。なにか…なにか…きっとヒントがあるはずだ…。ゼロがこいっていったんだ…。行く方法もきっとあるはず…。考えるんだ…。

「皆さん、ご無事でしたか!?」

「…アナスタシアさん……。…ええっ!?」

 王様がでていった直後、アナスタシアさんは悲しそうな顔をしながら部屋に入ってきた。そして、僕と目が合うなり泣きながら抱きついてきた。

「勇者の祭壇へいくつもり…なんですね…」

「はっ、はい…」

 アナスタシアがなんで知ってるんだ…。そうか…。王様に聞いたのか…。

「私…ずっと後悔してたんです…。アル様にいえなかったこと…」

「…えっ、えっと……」

「あの時…二人きりになった時…伝えておくべきだったんです…。私が弱いばっかりに…」

「えっ…ええっ!?」

 ふと、下をみるとシャルと目があった。すっごく呆れていた。

「アルって…意外と手広くやってるよね…。二人っきりでなにしてたの…」

「りょっ、料理を作ってただけだ…!」

「聞いて…ください…。私は…私は……!」

 でも…まさか…これは告白!? これが…人生初めての…。…ダメだ……。こんな…話で浮ついている場合じゃない…! 早く断らないと…。

「えっと…。ごめん…。今はそんな話をしてる場合じゃ…」

 僕が断ろうとするとシャルは僕のズボンを引っ張った。僕はもう一度下を見ると、シャルは仏のような顔をしていた。

「アル…こんな時でしかいえないこともあるよ…。もしかしたら、これで最後かもしれないんだよ…。黙ってきいてあげて……」

「…そっ、それは……」

「それにね……。泥沼って…最高だよ…」

「……」

 こいつ…。

 シャルはものすごく悪い顔になっていたが、確かにシャルのいうことは一理あった。

 でも…確かに…そうかもしれないな…。アナスタシアさんが勇気を振り絞った告白を僕は聞くべきだ…。例え断るとしても…。

「…私…扉を守る一族だったんです!」

「俺もアナスタシアのこと…! …ん? …扉を守る一族?」

「はい…」

「…もしかして…勇者の祭壇にいく扉を守ってるってこと?」

「はい…」

「…なるほど……」

 これが…人生初の告白か…。告白といえば告白だけど…。

 

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