第254話

「…アニキー!」

「よかった…。みんな無事だったか…」

「はぁ…はぁ…。どこいってたんすか…! 俺達じゃあ無理ですよ…。ゼロの親分も急にいなくなって…」

「ゼロの親分って…」

「そういわないと殴られるんです…。でも、たまにアニキというくらいが、ちょうどいいんですが…」

 チンピラ達は顔を赤らめて、顔や腕やお尻を押さえていた。僕はそんな緊張感のない姿をみてガックリとした。

「おっ、お前たちな…。冗談いってる場合じゃないんだぞ…。状況を教えてくれ…」

「状況ですか…。まず、事務仕事が壊滅的です…」

「そうじゃなくて…。…被害状況だよ!」

「被害状況…? まっ、まさか…ゼロの親分がアニキの大切にしていた模型をブチ壊した話ですか!? 俺達も頑張って止めたんすよ!」

「…その件は今度聞く……。そうじゃなくて…この国の被害状況だよ!」

「…この国の被害状況?」

 チンピラは顔を見合わせて話をしていたが、話がまとまらないようだった。僕はその様子にピンときた。

「まさか…お前達…警備をサボってたんじゃないよな…?」

「いっ、いや…警備は常にやってますよ! ただ、悪さするようなやつはほとんどいません…。野盗や海賊も我がゼロ軍団に…。ごほっん…。アッ、アル軍団に入団させています…!」

 あいつ…俺がいない間に好き勝手やってるな…。まぁ…名前くらいいいか…。

「…って、そうじゃなくて……。妙な魔物とか現れなかったかって聞いてるんだよ!」

「…いや、いませんけど……。いたって平和です…」

 …いない? そういえば…今は反応してないとかシオンさんがいってたな…。でも…。

「シオンさん…もしかしてここじゃないのかな?」

「間違いなくここのはずだ…。ただ…ここにはもういないのかもしれない…。…魔族の国にいってみないか?」

 シオンさんは窓から外を見ていた。真っ暗な空に浮かぶ鎖を確認しているのだろう。

「…ノスク、いけるか?」

「了解だにゃ!」

 僕はチンピラ達に今の状況を軽く説明し、近隣の住民達を城の中に避難させておくように命令した。

 

「…って、ことなんだ……」

「まっ、まさか…そんな事態になっていたなんて…。わかりやした…。皆のことは俺達に任せてください…」

「頼んだぞ…」

「アニキ…お気をつけて…」

 僕達は飛空艇に戻らず、魔族の城の前に空間移動した。辺りはまだ日が落ちていなかったが、前も見えないほど真っ白な景色になっていた。

 

「さっ、さむっ!」

「こっ、凍りつくにゃ…」

「猫ちゃん…。…本当にここであってるのか?」

「あっ、あってるよ! …あと、猫ちゃんじゃ……。へっ…へっ…へっくしゅん!」

 前も見えないほどの吹雪に僕達が凍えていると、背後からどこかで聞いたような声が聞こえた。

「なんだ…。アル様たちでしたか…。誰がきたのかと思いましたよ…」

「その声は…ユッ、ユキ?」

「はい…。どうぞ…こちらへ…」

 ユキが手をかざすと城への入口が見えた。ユキについていき中に入ると、暖かな火が広間の中心で燃えていた。

 

「久しぶりだポン!」

「久しぶりだコン!」

「ああ…。…お前達も元気にしてたか?」

 僕がしゃがみ込んで柔らかな頭を撫でると、落ち込んだ様子で下を向いた。

「…今は大変なんだポン……」

「…そうだコン……」

「…なにかあったのか?」

 僕はこちらの方も異変が起きていないと思っていたが、そういうわけでもなかったらしい。深刻な表情をしながらユキは話しだした。

「…私から説明しましょう……。実は…ヨルムンガンドが復活したのです…」

「…なんだって!?」

「…やつが……」

「たっ、大変だにゃ…」

 僕達が呆然としていると、更に驚くような事をユキは言った。

「まぁ…それは倒したんですが…」

「そっ、そうか…。あいつが復活したなんて…どうすれば…。……えっ!? 倒したの!?」

「はい…」

「…ひっ、一人で!?」

「はい…」

 …さっ、さすが…魔王だな……。でも…。

 ユキはヨルムンガンドを倒したというわりには元気がなかった。もしかしたら、相当な被害があったのかもしれない…。

「ケガ人がいるなら俺が治すよ…! 一体、どこに…」

 周りを見渡したが、魔物達は警戒はしているもののケガなどは特にしていなかった。

「いえ…特には…ケガ人もいません…。しいていえば…私の暴走した魔力のせいで、外が荒れていることぐらいですね…。もう少ししたら落ち着くと思うのですが…」

「……この天気はユキのせいなの?」

「はい…」

 僕らはそんなすごい状況を聞いて、顔を見合わせた。

「シオンさん…この国の反応がないのって…」

「ああ…倒したからみたいだ…」

「すごいにゃ…」

「うっ…!」

「姫様、大丈夫だポン!?」

「大変だコン!」

「ユキ!?」

 ユキは辛そうな表情をしながら、ふらついて片膝を地面につけた。

「あの…アル様…。…少し辛いので、できればリカバリーをかけてくれませんか?」

「わっ、わかった…」

 僕がユキにリカバリーをかけると、吹雪は止まりうっすらとだが青い空が見え始めた。

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