第255話
そして、その青い空の隙間からは水色の大きな鎖が見えた。
「アル様…もう大丈夫です…。きゃっ…!?」
ユキは立ち上がるとフラフラしながら僕に寄りかかった。ユキは顔を上げると、顔を赤くして目がトロンとしていた。触ってもいないが、スッと誤解のないように僕は背中から手をのけた。
「最悪だポン…」
「最低だコン…」
「だな…」
「間違いないにゃ…」
「…あっ、あのな……」
「すっ、すいません…。リカバリーのおかげで少しよくなりました…」
ユキの顔色はよくなったが、僕はまだ元気のない表情か気になった。
「まだ…悪いとこあるの? 元気なさそうだけど…」
「いえ…アル様のおかげで気力も戻りました…」
「そう…。それはよかったけど…」
「…どうされました?」
「……変なとこ触らないでくれる?」
ユキはさっきから僕のお尻をムニムニと掴んでいた。僕は皆から冷ややかな視線を感じていたが、被害者?は僕の方である。
「…子供の頃…ぬいぐるみをギュッとした事ありませんか?」
「…あったかもしれないけど……」
「…柔らかなものをさわると心が落ち着くんです……」
ユキは満足そうな表情をしながら小声でそう言った。僕はユキの両手を掴んでお尻から手を離すと、刺さるような視線を感じた。
「……ん?」
「…いたいです……。アル様…」
皆の方からみると、急に僕がユキの両腕を押さえて妙な事をしようとしていたと思ったのだろう。僕は急いで手を離して事実を話そうとした。
「なにしてるポン…」
「ドン引きだコン…」
「だな…」
「間違いないにゃ…」
「ちっ、違うならな! 実はさっきから…。…んぐんぐぐ…!」
ユキは僕の口元に指を当てると、パリッと凍りついた。ユキは小声で僕の耳元で囁いた。
「申しわけありませんが、私には魔王という立場があります…。周囲に誤解を招くような発言は控えてください…」
「…ぐっぐぅぐうぐぅぐぐ!」
…誤解じゃねえだろ!
僕はさっさと話に入りたかったので、頷いきながら口元を指差した。ユキはニコッと笑いながら、チョンっと指を離すと僕の口元の氷は溶けた。
「はい…。…解きましたよ」
「…たくっ……。あのな…」
「黙ってもらえるなら…今度は……」
……今度は…? いや、そんな話をしてる場合じゃない…。
「…ユキ、話を聞いてくれ……」
「…どうしましたか?」
「ここにきたのは遊びにきたわけじゃない…。今…世界がとんでもない事になろうとしているんだ…」
「…どういうことですか?」
僕が今までの事を説明すると、ユキは頭を抱えて再び深刻そうな顔をした。
「…であれば…あれは…まさか……」
「まぁ…ここは大丈夫だと思うよ…。…ん?」
入口の扉が開くと、雪だるま達が何体も入ってきた。その内の一体がユキに近づくと、コソコソと耳打ちをしていた。よく見ると、あの時のオークだった。
「…というところです……」
「…わかりました……。貴方達は魔法を解いて早く温まりなさい…」
「はっ…! …ん? 久しぶりだな…。お前がきたということは…またろくでもないことになりそうだな…」
「まっ、まあ…」
「…頼んだぞ……」
「ああ…」
オークは震えながら部下を連れて、広間の中心の火にあたりにいったようだった。城の中を赤い光が揺らいでいた。
「アル様…あの話には続きがあるんです…」
「…続き?」
「倒したまではよかったのですが…。禁術を使ったせいで、私は見ての通り役立たずです…。皆さんのお手伝いができればよかったのですが…」
「…禁術って…大丈夫なのか?」
「はい…。私のスキル…アンダークロックとオーバークロック…。それを織り交ぜて発動する究極多重魔法…。これを使ったせいで…今はほとんどの魔法か使えません…。そのような事態になっていると知っていれば、使わないという選択肢もあったのですが…。ただ…あれを倒すにはどうしても…」
「サーティス相手なら仕方ないよ…」
僕はあのとんでもないやつを思い出していると、ユキは予想もしていなかった事をいった。
「いえ…あれはサーティスではありません…」
「…えっ?」
「純粋なヨルムンガンドでしょう…」
僕は魔族の国で最後の四天王サーティスが復活しているのかと思っていたが、そうではなかったらしい。
なら、神族の国にいたやつがサーティスってことか…。
「そうなのか…。まっ、ここは無事そうだし…俺達は戻るよ…」
僕が振り返ってノスクに空間移動を頼もうとすると、ユキは僕の服を強く引っ張った。
「…まっ、待ってください! まだ…話は終わってません…!」
「…まだ…なにかあるの?」
「はい…。それが倒したと思っていたら、終わりではなかったのです…。突然、鳥のような形の核が飛び出てきて防御魔法を展開しました…。その魔法は固く…どんな攻撃も通しませんでした…」
「……」
…ってことは、ヴェズルフェルニルか……。
「そこで…私はその防御魔法ごと凍らせて、二度とでてこれないようにしたのです…。これくらいに…」
ユキは地面の雪を取ると雪合戦で使うような形の丸い雪玉にして僕に手渡した。
「なるほど…」
「…ですが、妙な剣士が急に現れてその核を奪い取ってしまったのです…。悪用される事はないと思うのですが…。絶対にないともいえないのです…」
…妙な剣士?
「…それってどんな剣士だった?」
「黒いフードを被った剣士でした…。顔は仮面をつけていたので見えませんでしたが…」
黒いフード…。それって…。
「…こんな感じの仮面だった?」
僕はゼロがつけていた仮面を顔にあててみた。
「そう…。そんな感じの…。…アッ、アル様だったんですか!?」
心配そうな顔をしながら、ユキは急にペタペタと僕の体を触ってきた。僕は急に触られたので、雪玉を落としてしまった。
「あっ…! まっ…いっか…。ユキ、俺じゃないよ…。俺の…仲間さ…」
「…アル様ではなかったのですね……。…その人…無事でした?」
「…えっ? 元気だったけど…。俺に会うなり、急に変なもの投げつけてきて……。…ん?」
…もしかして、ゼロがなげてきたあの塊はここにいたやつだったのか……。でも…そうだとしたら…なんで俺に倒させたんだ?
「…アル様のところに? …そう…ですか……。なら、空間移動して直撃をさけたのでしょうね…」
「たぶん…。じゃあ…そろそろいくね?」
「はい…。アル様…。どうか…ご無事で…」
「うん…」
僕達はノスクの空間移動で飛空艇に戻った。ただ、無事に戻れたのはよかったが、次の目的地を決めかねていたのだった。
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