第253話

「みたいだな…。ところで、アル…。一つ提案なんだが…」

 シオンさんは右目を押さえながら話しかけてきた。今の様子を確認しているのだろう。

「うん…」

「こうして…皆も揃った…。今のところ妙な反応もない…。万全とはいかないが…今すぐにでも奴のところへいくべきなんじゃないのか?」

 シオンさんが右手を下ろすと、皆が僕を見つめてきた。僕は口元を押さえながら、もう一度考えを整理した。

「……」

 確かにこのままいっても問題はない気はする…。僕達を分断させたのは単純な時間稼ぎだったのかもしれない…。でも、奴のスキル…全知全能…。そして、バリアブルブック…。あの二つをすでに使われているなら、高確率で僕達は負けるルートを選ばされている…。どうあがいても…。

「…どうする?」

「…スキルの数と同じなら、あと一体……。いや、二体いるはずなんだ…。そいつらはやっぱり倒しておきたい…」

「…それをあえて無視するというのは…?」

「…ここで倒しておかないとダメな気がするんだ……。一体でもあの強さだ…。ウルを相手に二体も相手にできないよ…」

「…わかった……。アルの判断に任せよう…」

 全知全能とバリアブルブック…この二つのスキルを合わせれば、完璧なスキルのようだが実は穴がある…。まず、全知全能に関してはシルフィの事を見れていなかった…。…だとしたら、一番高確率な答えを予測するスキルなのではないだろうか? つまり、低確率な…。いや…予測できないことは予測はできない…。

「やっぱり少し変えよう…。……ノスク、今から神族の国に空間移動できるか?」

「いけるけど…。…今からいくの?」

「ああ…」

 一方、低確率な事も予測できるバリアブルブックに関しては範囲が広いがかなり荒い…。とんでもない数のルートがあるけれど、どれも直近のみ…。自分に少しでも関係ないルートは見れないことだ…。

 僕は操縦席を立って、エリックに操縦を任せることにした。船は段々と静かになっていき、動きを止めた。

「エリック、船をここに停めてくれ…」

「おう…」

 二つに共通していえることは、最適な未来を相手に選ばさせるにはなんらかの行動を自分主体で行う必要がある。それが悪魔のスキルの使える奴らを復活させたということになるのだろう。…であれば、無視するのもありな選択肢だと普通は思うが、全知全能で僕達の行動は全て筒抜けになっていると考えるとそんな選択肢も読まれている。僕達は予想通りに動くキャラクターってとこだろう。

「大将、とめたぜ…」

「ありがとう…」

 僕は月を見上げた。輪郭が不安定になり、まるで揺れた水の中に映る月のようだった。

 ただ…時間稼ぎだったなら、誰にもいわずに空間に閉じこもってるほうがいい…。でも、そうじゃない…。僕が一番気になるのはあの太陽の中にいたやつだ。あいつの出番はもう少し先と考えると奴はもっと先を見ている…。つまり、あいつと戦うまでは少し無茶をしても僕達はかなりの確率で悪魔のスキルを持った敵を倒せるということだ。

「よし…。ノスク、こっちにきてくれ…」

「うん…」

 僕とノスクは空間移動に巻き込まないように少しみんなから離れた。

 ここで重要になってくるのが、マリシアウルネクスト…。あのスキルは悪意を持っていればゆっくりとだが引き合う…。ドクターペインで無効化されているかもしれないが、俺ならしない…。なぜなら、自分に引き合うという行動をとってくると言うことはそれだけ全知全能のスキルの精度も上昇するはずだ。俺があいつに対して悪意を持っていれば、どちらにしてもあいつ自身に接触する可能性が高い…。なら、最速で奴の戦力を削ぎ落とすやり方がふさわしい。全てのイベントを潰せばやつはなんらかの行動を取らざるを得ない。もしくは…。

「アル、待ってくれ…。…私も連れていってくれないか?」

 シオンさんは皆を押しのけて前にでてきた。

 シオンさんも気になるか…。

「じゃあ、シオンさんとノスクでいってくる…」

「…私も!」

 アリスは手を胸に当てながら、前にでてきた。

「…残りの皆はここで待っててくれ……。一時間…いや、三十分以内に帰ってくるからさ…」

「…わかったわ……。無茶はしないでよ…」

 こうして、僕はノスクとシオンさんと共に神族の城に空間移動した。城に戻るとチンピラ達が血相を変えて走ってきた。

 

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