第252話

「シオンさん、今はどの辺かな?」

「……」

 操縦席に座ったシオンさんはこちらを振り向き、なぜかジトッとした目で見てきた。

「…君は治療をしていたんだよね?」

「…えっ? そうだけど…」

「…少し…時間かかり過ぎじゃないか?」

「話ししてて…」

「……私も腕をケガしてるんだけどな」

「ごっ、ごめん…。すぐ治すよ…」

 僕は腕を治したが、シオンさんは僕の顔をジッーと見ていた。

「……」

「…シオンさん?」

「…にゃ!? ああ…。ごっほん…。もう少しで竜族の王国を抜けるところだ…」

「そういえば、どうしてわかったの?」

「なにがだ?」

「俺達が竜の王国にいったこと…。…マイクでも間違えて入れてた?」

 僕は頭を掻きながら操作盤を見て、あの時の操作を思い出していた。

 やっぱり、間違ってないはずだ…。ちゃんと説明書通りにやったけどな……。

「いや、マイクは入ってなかったよ…」

「うーん…。…でも、飛空艇できたんだよね? …だとしたら、体に発振器でもついてるのか?」

 僕は服の辺りを触ってみたが、なにもついてなさそうだった。

 やっぱりないな…。いや、でも…飛空艇にしてはかなり早かったような…

「うーん…。それはだな……」

「それはこういうことだ!」

「…うお!?」

 突然、エリックは操縦席の下の床板を外して出てきた。シオンさんは思いっきり、床板を踏んだ。

「うごぉおおおー! あっ、頭がぁあああー!!」

「…君が無茶しちゃいけないから秘密だ」

「…いや、完全に見えたよ」

 なるほど…。エリックが床下で僕達の話を聞いてたのか…。

「…うーみゅ……」

 エリックは床板を強引に持ち上げて出てきた。

「うーみゅ…じゃねえよ! なにすんだ!?」

「なにって…。アルにバレたらまずいかなと思ったんだが…」

「いいだろ! ったく…。結局、俺達は邪魔しただけなんだから…」

 エリックはシオンさんを指差して怒った後、頭をさすっていた。

「…確かに…そうかもな……」

「いや、それは違うよ、エリック!」

「…なにがだ? 助けにいくつもりが、助けられてよ…。情けねえ…。完全に戦いの邪魔になっちまった…。俺達がいかなかったら、もっと簡単に倒せてたんだ…。俺があの水の中に入ろうって、言い出したばっかりに…。俺の責任だ…」

「エリック、あれは皆で決めたことだ…」

「違う! 俺の…」

「二人ともストップ!」

 僕は両手を前に出した。二人は話をやめて、僕の方を向いた。

「……」

「…どうした?」

「…エリック、本当に助かったんだ。嘘じゃない…。あの時…皆が来てくれなかったら、俺は自分の力に飲み込まれていた気がするんだ…」

 僕は近くの椅子に深く座って、下を向いて片手で顔を力強く押さえた。

「…自分の力に飲み込まれる? どういうことだよ…」

「…あの時、僕は憎しみと怒りで心を支配されてた。あいつを傷つけるたびに妙な高揚感もあった…。正直、気持ちよかったよ…」

「おいおい…」

 エリックは心配そうに僕を見つめた。

「力が段々と暴走し始めて、記憶がなくなりそうになっていた…。それでもいいと思ってた…。あいつを倒せるなら…」

「……」

 僕は片手を離して、顔を上げて二人をみた。

「…でも、それじゃダメなんだ。なんか…よくわかんないけど…あのままフォーの奴を倒してたら、終わってた気がする…。エリック達、皆があの時に来てくれたから、本当の目的を思い出せたんだ…。自分を見失わずにすんだ…。本当に…本当にありがとう…」

「おっ、おい!」

「アル…!」

「俺は…皆が笑ってる世界を守りたい…。この世界を…。だから、力を貸してくれ!」

 僕は立ち上がり自分の足が見えるまで、深く深く頭を下げた。

「ばかやろう…。お願いするのは俺達の方だよ…」

「そのとおりだ…。…んにゃ!?」

「…そうだにゃ!」

「…そうね!」

「…そうだよ!」

「…そのとおりだ」

 シオンさんの驚いた声で顔を上げると、皆はホコリまみれで床板を外して出てきた。

「…みんな、床下にいたのかよ! リアヌスまで…。くっ、はははは…。…ん? でもさ…飛空艇は誰が運転してたの?」

「こいつさ…」

 エリックは胸から妙な機械を取り出した。ピコンピコンと光っている。

「…ん? なにそれ…」

「このボタンを押すと、ボタンを押した箇所に飛んでくるんだ。まぁ、この船の隠し機能ってやつだよ」

「…ったく、なんで俺より詳しいんだよ!」

 僕は操縦席に座り、グルリと回転させて外をみた。すると、視界の端に妙な光が見えた。

「ふっ…、隠し通路の探検歴が違うからな…! まぁ、この船には他にも隠し機能があってな…。あとは…。…どうした?」

「……」

「おっ、おいおい、大将…。なに、外見てんだよ! なんかいいものでもあるのか?」

 エリックは笑いながら、肩を組んできた。僕は口を開けたまま、一点を見つめていた。

「…エリック……」

「…どうした?」

「…太陽がなくなったら、この世界ってどうなるんだ?」

「…太陽? そりゃ、死ぬだろ…。氷の世界になって…」

「みんな…月を見てくれ……。…この世界じゃあ…あんな消え方するのか?」

「月って…。…なっ、なんだ、あれ!?」

「…どうした!? …月が……」

「なっ、なんだにゃ!?」

「なによあれ!?」

「お月さまが丸くないよ…」

 月は歪な形をしながら、輝きを少し失っていた。

「みんな…。あんまり、残された時間はないのかもしれない…。急ごう…」

 

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