第251話

「動くなよ…。リアヌス…」

「なかなか、むず痒くてね…」

 リアヌスの状態は決してよくはなかった。元気そうに見えるよう振る舞ってたんだろう。

「よくこんなケガで、あの時立てたな…」

「ふっ…。愛の力さ…」

「……」

 僕は思いっきりリアヌスのキズを押した。リアヌスはバタバタと動いていた。

「いたたたたっ! だっ、ダメだって…!」

「冗談いえるくらいは元気だな…」

「…君って実はSっ気が強いな」

「…もう少し強く押してみようか? …この辺とか?」

 僕は脇腹の部分を少し押すと、更にジタバタした。別にリアヌスをイジメる為にやっているわけではない。本当に体の形が変わるほど、ひどい状態なのだ。

「…あたたたたっ! まっ、参った……。だが、これは…痛みとは別に快感をどこかで感じている…。もしかすると、リカバリーというのは鎮痛作用もあるのかもしれないな…」

「はぁ…かもな…」

「…クセになりそうだ」

「…多分ここ一番痛いぞ」

「まっ、待ってくれ…。まだ、心の準備が…。ぎゃああああ…」

 僕はリアヌスと格闘しながら、なんとか治療を終えた。

「はぁ…はぁ…。つっ、疲れた…。暴れるなよ…」

「はぁ…はぁ…。仕方ないだろ…。君があんなに強くするから…。でも、なかなかよかったよ……。…ん? ミリアか…」

 僕は汗を垂らしながら四つん這いになって振り向くと、アリスとシャルとミリアさんは顔を真っ赤にして入ってきた。

「おっ、お前達は、さっきからなにをしてるんだ!?  わっ、私が部屋の前で、どれだけ待ったと思ってる!」

 そんな事いわれても…。ケガがかなりひどいしな…。

「なにって、見てのとおりだよ…。…なぁ、リアヌス?」

 リアヌスは寝ながら僕の顔を少し見つめると、なぜか少し笑った。

「ふっ…。ああ……。見てのとおり…治療だよ…」

「そっ、そんなに、服を乱して…。…治療だと!? …治療?」

 ミリアさんは変な顔をしながら、アリスとシャルの方を向いた。

「多分、そうかなって思ってたんですけど…。ミリアさんが話も聞かずにドンドン奥に進むし…。すごすぎて…。ごほっん…。ミリアさんが静かにしろってジェスチャーするから、タイミングを逃したっていうか…」

「…もう少し聞きたかったよ」

 シャルはなぜか少し残念そうにしていた。ミリアさんは顔を真っ赤にして声を荒げていた。

「わっ、私もそうだと思っていたんだ! 治療の邪魔をしちゃ悪いからな…。ははははっ…。……バッ、バカ王子、王国は今のところ被害なしだ! …どこにでもいけぇええ!」

 ミリアさんはそう言い残して、走ってどこかに行ってしまった。

「じゃっ、じゃあ、私達はミリアさんを見送ってくるね!」

「…もう治療しないの?」

 アリスはシャルの頭を軽く殴った。

「…えいっ! 二人とも疲れてるんだから…。…いくよ、シャル!」

「…いてっ! りょうか〜い…」

 二人はミリアさんを追いかけていき、部屋のドアはゆっくりとしまった。

 

「なんだったんだ…?」

「ははははっ…。はっ、腹がいたい…。笑うと腹が…。ははははっ…」

「…大丈夫か?」

「ああっ…大丈夫…。二人っきりになれたんだから、このケガも悪くないな…」

「あのなぁ…」

「ははっ、冗談だよ…。君があんまりにも暗い顔をしているからね…」

 僕は嫌な気持ちになりながら、丸椅子に腰掛けた。

「リアヌス…。フォーの件…」

「気にするな…。…君のことだから、兄弟と聞いて罪悪感に浸ってるのだろ?」

「…うん」

「あれは本来…わたしの役目だったのだ…。二度もさせてすまなかった…」

 リアヌスは真面目な顔をしながら体を起こすと、僕に深々と頭を下げた。

「頭をあげてくれ…。リアヌス…」

「……」

「なぁ…リアヌス…」

「…どうした?」

「話し合いじゃ無理だったのかな…」

「無理だな…。どちらも譲らない平行線でいる限りは不可能…。…君は譲れたか?」

「無理だよ…。でも、議論できなければ戦争…か…。なんか…悲しいな…」

 僕はなんともいえない気持ちになっていると、リアヌスは少し天井を見上げた後に大きく息を漏らした。

「ふぅ…。議論しても戦争になることはある…。どうしても、お互いに譲れないものもあるんだ…。あいつは…あいつの考えで竜族を守ろうとしていた…。竜族にとって、それが正しいとも言わないし、間違ってるとも言わない…」

「……」

「あいつの考えで進めていたら、結果的に大きな戦いの火種を消したのかもしれないし、大きな戦いの火種を生んだのかもしれない…。そんな事は私もわからない…。なぜなら、未来なんて誰にもわからないからな…。…おっと、君はわかるんだったかな?」

「…今はわかんないよ」

 リアヌスは少し笑うと、真剣な表情をして僕の肩を持った。

「ただ、私個人は違う…。やはり、あいつの考えは間違ってると思う…。世界の人々と間違いながらでも話し続け、お互いに譲り合う…。それが大事なんだ…。議論という扉は開かれ続けなければならない…。それをどんなに周りから反対されてもだ…」

 そうか…。それで、リアヌスは王国会議に…。エルフの王国と同盟を結んだのか…。

「…リアヌスはカッコいいね」

 リアヌスは少し微笑んだあと、悲しいそうな表情をした。

「だがな…私もあいつとは変わらん…。無関係な神族まで殺したんだからな…」

「…リアヌスは違うよ」

「…なぜだ?」

「少なくともあいつとは違う…。俺はそう思う…。そう思うことが理由だよ…」

「そう思うことが理由か…。ふっ…。そうなら、いいな…。…疲れたから、私は少し寝るとするよ」

「おやすみ…」

 僕はリアヌスの部屋をでて、操縦席に向かった。

 

 

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