第232話
「貴様らにふさわしい死に場所を用意してやった。フハハハハ…。さあ、始めよう…」
黒騎士はでかい剣をこちらに向けてきた。僕は前にでて言った。
「…下手な演技はやめたらどうだ? …ルア?」
「ちぇっ…。なんだよ…。バレてるのか…。シャルがいるから、薄々そうだろうと思ったけど…」
「…ごめん」
シャルが泣きそうな顔で謝ると、黒騎士の鎧は崩れて中からルアがでてきた。
「シャル、泣くなって…。別に怒ってねえよ」
「ルア…」
僕が近寄ろうとすると、ルアは黒い大剣を地面に刺した。禍々しいオーラを放っていた。
「相棒、それ以上近づくな…」
「シャルから話は聞いた…。急にお前が黒騎士になったって…」
「…なら、その続きも聞いたよな?」
「おっ、俺にはできない…」
僕が力なく答えると、ルアは元気よく笑った。
「だっ、大丈夫だって! 俺を倒したって、相棒の魂や精神には影響ねえよ! …前にも言っただろ? 俺が消えても、相棒の中に戻るだけだって…。だから…」
「…なら、なんで震えてるんだ?」
「…えっ?」
僕は目の前で小さく震えるルアを、なんとも言えない気持ちでみていた。
「ずっと、疑問に思ってた…。お前が勝手に現れたこと…。そして、消えないこと…。もっと…もっと早く気付くべきだったんだ…」
「なっ、なにいってんだよ…。俺は相棒の魔法で…」
「俺はあの時、魔法を発動してない…」
「そっ、それは…」
「お前…本当に生きてるんだろ?」
むしろ、僕の中には戻れないというべきか…。あのタイミングなら、勇者がなにかしたに違いない…。
「…バッ、バカなこというなよ!」
「シャル、協力してくれ…。しばらく、ルアをだせないように檻を作る。やつを倒したら、きっと…」
「そっ、そうだね!」
僕とシャルが檻を作ろうとすると、ルアは激しく怒鳴り声をあげた。
「いい加減にしろよ、相棒! もう、わかってるんだろ!? 俺を倒さきゃいけないこと…!」
「……」
ゲーマーとしての勘を信じれば全て倒さないといけない…。でも、そんなの…。
「…聞いてんのかよ!」
「そんなのただの勘だ…。ゲーマーとしての…。そんなもので、お前を…」
「でも、それが一番真実に近い…。これは奴にとって遊び…。世界を壊すゲームなんだ…。…相棒もそう思ってるんだろ?」
「……」
僕はルアの問いかけに、なにも答えることができなかった。
「俺だって死にたくない…。死にたくないよぉおおー! でも…。うっぐっ…。うっ…。…なっ、なにかが話しかけてくる!」
急にルアは両手で頭を抑えて苦しみだした。
「ルア、どうしたんだ!?」
「ならば悩まなければいい…。目の前にいる男を殺せ…。そうすれば、お前は死の呪縛から開放される…」
どこからかわからないが、聞いたこともないような恐ろしい声が聞こえた。
「なっ、なんだ、今の声…。…ルッ、ルア!?」
前を見ると剣から解き放たれた禍々しいオーラがルアを覆っていた。僕は嫌な予感がしたので、即座に緑色のオーラを発動した。
「アル! あの剣、おかしいよ…。どんどんスキルが変化してる…」
「なんだと!?」
「なに…これ…。まさか、スキルを偽造できるの!? いや、偽造というより…。これは…!」
ルアは顔をあげると、大剣を持ってこちらに歩いて来た。
「ほう…。スキルがみえるのか…。そうだ…。私のスキル…チープエディション…。これにより私の全スキルは任意のスキルへ劣化させる事ができる…」
「劣化だと…」
「まあ、劣化といっても効果は同じだ。元のスキルより効果が弱ければいい…。ふぅ…。魂が定着してきた…。なかなかいい体だ…。これなら相当持ちそうだな…」
「ルアをどこにやった!?」
「ルアは私だ…。感じるぞ…。お前を殺したくてたまらないようだな…」
黒騎士に操られたルアは目を閉じた。
「そんなの嘘だよ! アル、騙されちゃダメだよ!」
「…わっ、わかってる。…おい、黒騎士! ルアの体を返せ!」
「…動揺……」
「なにっ!?」
操られたルアはゆっくりと目を開いた。そして、淡々と語りだした。
「焦り…恐怖…後悔…。お前の心が手にとるようにわかる…。いっただろう…。私がルアなんだ…。私は魂の扉へ干渉することができる…。それを少しだけ開いてやっただけだ…。小娘…。スキル…マリシアウルサードパーティーをみろ…」
僕は横目でみながら、シャルの顔色をうかがった。
「こっ、こんなの、ただの偽造だよ!」
「シャル…。…あったのか?」
「うっ、うん…」
「わかってもらえてなによりだ…。これで…。…なにっ! まだ、意識があるのか? くっ…!」
ルアはしばらく下を向いたあと、胸を押さえて息を切らしていた。
「はぁ…はぁ…はぁ…。久しぶりだな…相棒…」
「ルア…なのか?」
「久しぶりじゃなくて、さっきあっただろとか言えよ…。冗談…言うのも…きついんだぜ…。そうだよ、相棒…。俺だよ…」
「ルア…」
「少し…真面目な話しするとな…。正直…ちょっとだけ…。いや、かなり恨んでた…。相棒の事が羨ましくてたまらなかったんだよ…」
「……」
僕はルアの言葉が心に突き刺さった。僕はルアの心の声を黙って聞いた。
「でも…この世界を救いたいってのは…ホントだ…。相棒…。相棒は…約速も守れない…ダメな大人なのか…。俺は…そんなダメな大人になるのか? …違うだろ!? なあ、答えろよ! 相棒! ぐっ…。ぐぅああああ…!」
「ルア!?」
「…ここまで抵抗されるとは驚いたな。なるほど…。つまり、このスキルを完全に掌握できていないのか…。ならば、お前達を殺すか…。そうすれば、二度とでてくるようなことはあるまい」
「…絶対許さない。…アル、あの剣を壊そう! もしかしたら、元に戻るかもしれない!」
シャルは精霊のような姿になった。僕は頷いて剣を抜いた。
「…ああ!」
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