第233話

「……」

 …どうした? 何故動かないんだ…。…こっちがどうでるか待ってるのか? なら、お望みどおり…。

「アル、目の前!」

「えっ!?」

 僕は咄嗟に剣をあげると、鋭い衝撃が走った。いつの間にか、奴は目の前まで接近していた。

「ほう…。これをとめるか…」

 僕はどうやって攻撃されたかが理解できず、シャルと共に空中へ逃げた。

「…だっ、大丈夫!?」

「なっ、なにが起きたんだ?」

「アルの前にスキルが次々現れたの…。それで…」

 スキルの方が先に表示されたってことか…。でも…。

「俺にはずっと止まっているようにしかみえなかった…」

 …幻術の類か? …いや、そうじゃない。体には異常はなかった…。

 僕が考えていると、シャルが驚いた声をあげた。

「えっ!? ねっ、ねぇ、みて! ルアが二人いる!」

「なに?」

 下を見ると確かに二人立っていた。

 そうか…。わかったぞ…。ドゥラスロールに近い能力を持っているのか…。だとしたら、あれは分身であり本体…。もし、瞬間移動までできるなら…。

「くっ…!」

 …ヴェズルフェルニルが効かない!

「ねぇ! どうするの!?」

 どうするといっても一つしかない…。ラタトスクを発動して反応速度を限界まであげる。そして、同時にドゥラスロールも発動して同条件まで持っていく…。これしかない…。これしかないが…。

「シャル…。…搭乗型のゴーレムを作れるか? 外から影の入らない密閉された空間…。これが最低条件だ…。」

 まずはシャルのガードだ…。正直、戦いながら守り切れない…。

「わっ、わかった…。…やってみる! 二人で入って戦うんだね!」

「違う…。あくまでシャルは俺の援護だ。機動力がなくなれば…この勝負は負ける…。…シャル、早く!」

「うっ、うん!」

 できなければ…逃げるしかない…。

 僕は警戒しながら下をみていると、ゲームにでてくるようなロボットが出来上がった。どうやら、空も飛べるようだ。

「でっ、できたみたい…」

「シャル…。なにがあっても、そこからでるな…。いいな?」

「うっ、うん」

 僕は警戒しながらゆっくりと下に降りていると、奴の分身は土に帰った。

「…準備はできたか?」

「……」

 次の攻撃に備えているのかもしれないとも思ったが、奴は特になにもせず話しかけてきた。

「おいおい…。待ってやったんだ…。なんとか言ったらどうだ?」

「…ずいぶん、お喋りなやつだな」

「はははっ…。まあ、話したくもなるさ…。口で話すなんて久しぶりだからな…。……意味がわからなかったか? 前の体は、もうなくなってたんだよ。口がね…」

 奴は口元を触りながら、ニヤッと笑った。

「今なら、お前の本体…。…その大剣を壊さないでおいてやる。お前の弱点はわかってる…」

「…雷魔法とでもいうんだろ? あれはお前の体を手に入れる為にワザと負けたんだ…。まあ、結果的には逆に喰われてしまったが…。ふっ…。確かにお喋りが過ぎるな…。…さて、次の攻撃は防げるかな?」

 奴の周りに黒い剣が次々に現れた。僕は奴がなにかする前に高速で近づき、フェイントを入れて真上から剣を叩き切ろうとした。

「くらえっ!」

「そんな攻撃…。なっ! 消えっ…」

 僕はドゥラスロールを発動して、奴の死角に入り剣を叩き斬った。ルアはバタッと地面に倒れた。

 …以外に簡単だったな。

「……ルア、大丈夫か!?」

 僕は倒れたルアに駆け寄った。

「ああ…。大丈夫…」

「…アル! 離れて!」

「えっ?」

 シャルの大声が後ろから聞こえ、僕はなにも考えず瞬時に下がった。その瞬間、黒いものが腹の下を過ぎ去った。それは奴の黒い大剣だった。

「ふっ…」

「なにっ!?」

 なぜかわからないが、大剣は元通りになっていた。

 なっ、なんでだ…。確かに真っ二つに折ったはずだ…。まずいっ! ラタトスク発動!

「はははははっ!」

 奴は怒涛の攻撃を繰り出してきた。金属同士がぶつかり合い火花が散った。

「ぐっ!」

「これだ、これだ!」

「…っ!」

 奴の攻撃が少し腕にあたり、服が千切れた。

 …さっ、三倍だぞ! 三倍で追いつけないなんて…! 出力をあげ…。くっ…! いや、そろそろ限界だ…。一旦解除しないと…。

 僕は奴にラタトスクを発動して、電撃で動きを制限しようとした。だが、少し速度が遅くなっただけで、あまり変わらなかった。

「雷魔法など私には効かん!」

 僕は一旦後ろに退避して、自分の出力を抑えた。

「はぁ…はぁ…」

「休憩には早いぞ?」

 そうか…そういうことか…。

「雷魔法を分散しているのか…」

 奴は尻尾達を一振りして、消し去った。

「はははははっ…。…正解だ。そして、更にこの…」

 奴が何かをいいかけると、キラキラと奴の周りが光りだした。

 まさか…あれは…。

「…リカバリー?」

 間違いない…。リカバリーだ…。

「この魔法は素晴らしい…。ふっははは…。さあ…今度は避けられんぞ!」

 僕は上空に逃げると、無数の剣が地面から飛び出してきた。

「なっ、なんて、数だ!」

「アル! 私が防いでる間になんとかしてっ!」

「シャル!」

 シャルは向かってくる剣に向かって、鉄の槍を次々に打ち込んだ。

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