第224話

「お前…。いったい…」

 目の前の男はニヤッと不気味な笑みを浮かべた。

「僕はウル…。元魔王だよ…。これで自己紹介は二回目だね…」

「……」

 こいつが…あの…凶悪な魔王?

「みかけに騙されないで!」

 シルフィーは巨大な風の魔法剣をウルに叩きつけた。だが、奴は無傷だった。

「僕は死なない…。完璧なリカバリーを手に入れたからね…」

「くっ…。化物め…」

「…で、君は誰なんだい? 僕の予知には存在しなかったけど…」

「なっ、きえっ…。うっ…!」

 突然、姿がきえてたかと思うと、頭を鷲掴みにされ地面にシルフィーの頭を叩きつけた。

「まずは、さっきのお返しだ…」

「がはっ…!」

「シルフィー様!」

「シルフィー!」

 シオンさんと僕が前にでようとすると、奴は牽制してきた。

「動けば頭を吹き飛ばす…。それとも試してみるかい?」

「うぅ…」

「きさまっぁああ!」

「…なるほど……。面白いね…。君は死体だったのか…。それで僕の予知に狂いが生じたんだね…。ふっ…。それとも…」

「シルフィーを離せ!」

 僕が剣を抜き大声で叫ぶと、シルフィーの頭を持ったまま立ち上がった。シルフィーは悲鳴をあげていた。

「そうだな…。君との会話…。それが条件だ…」

「うっ…。うぅ…。…いっ…いやぁあああ!」

「…わっ、わかったから離せ!」

 奴はゴミを捨てる様に地面にシルフィーを投げ捨てて、少し後ろに下がった。僕は警戒しながらシルフィーの安否を確認した。どうやら生きてはいるが、かなりまずい状態だった。

「シルフィー! 今、回復してやるからな…。…リカバリー!」

「…アル、シルフィー様を頼む。…奴は私が殺す」

「シオンさん! 戦っちゃダメだ!」

 シオンさんは鋭い水の槍を各所から飛ばし、高速で剣を振り回していた。だが、奴は光る双剣を取り出して、空間移動を繰り返しながら視覚をついた攻撃を次々と繰り返し、シオンさんの体力を奪っていた。

 

「ふっ…。これで終わりだ…」

「ぐぅあああああ!」

 シオンさんは体中を雷撃で包まれ、バタッと倒れた。

「殺せないってのは、なかなか難しいゲームだね…。しかも、コピーと違ってオリジナルだから強いし…。コピーの方は楽だったけどさ…」

 …コピー?

「まさか…ゼロの事をいってるんじゃないよな?」

「…ゼロ? ああ…。コピーのことね…。殺したよ…。僕には必要なかったからね」

 僕はぶち切れて奴に襲いかかった。だが、奴は僕の攻撃を簡単にかわし、渾身の魔法もまるで効いていなかった。そして、数秒後には皆と同じように僕は地面に顔をつけていた。

 

「…くっ、くそぉおおお…!」

「じゃあ、話をしようか…。…っと、その前にこの耳障りな音を消すか…」

 奴が拳を握ると、ステータスから流れるあの妙な音がピタッと止まった。

「……」

 ほんとに止まった…。

「不思議そうな顔をしているね…。…教えてあげようか? これはね…。君と…ある人物に反応していたんだ…。今ならわかるよ…」

「…ある人物?」

「…僕だよ。…君と僕は勇者を通じて繋がっていたんだ。でもね…。繋がっているってことは、まだフェンリルが勇者を喰いきれてない証拠でもあるんだけどね…。ほんと忌々しいやつだよ…。はははっ…」

 こいつ…。勇者を…殺したのか…。

「なにがおかしい…。お前、なにがしたいんだよ!」

 僕はリカバリーをかけながら、剣で体を支えて必死に立ち上がった。

「…君に会えたから、魔族の国は滅ぼさないであげたんだよ?」

「…質問に答えろ!」

「…答えてあげてるじゃないか? 僕はね…。このクソみたいな世界を壊したいんだよ」

「……」

 なにいってるんだ…。

 僕は目の前の男の言っている事に理解が追いつかなかった。

「毎日毎日、この世界のどこかではクソみたいな繰り返しをしてる…。この世界は永遠に逃げられないループなんだよ…。誰かが死んでも、そのキャラクターが違うだけで別のキャラクターが代わりにそこに入る。せっかく文明が滅んでも、新たにどこかで文明ができる…」

「それのなにがいけないんだ…」

「…いつ終わるんだよ? 僕はね…。思うんだよ…。もし、神様と悪魔が生きていたなら、このクソみたいな終わりのないストーリーに満足できたのかなって…」

「…そいつらの為に滅ぼすっていうのか?」

 僕が尋ねると奴は無邪気に笑った後、無表情になった。

「はははっ…。違うよ…。そんなものに興味はない…。僕は僕の為にこの星を滅ぼすんだ…。神と悪魔をもう一度復活させてね…。…君なら僕を理解してくれるんじゃないのかな?」

「そっ…そんなふざけたこと…理解できっ…!」

「だって、君はもう一つの世界の僕なんだから…」

「……」

 …いま…なにをいった?

 僕は全身が凍りつくような気味の悪いものが全身を駆け抜けたのを感じた。

「鏡だ…。鏡の中の世界…。こことは正反対の世界…。勇者のいない世界…。君はそこからきた…。…違うかい?」

「…なっ!?」

 なんでこいつ…。そんなことを…。

「魔王国の一件…。妙だと思った…。いや…考えてみればもっと前からか…。まるで、僕の心が筒抜けになっているように作戦を全て潰されていた…」

 奴は一歩一歩こちらに近づいてきた。

「だっ、だったら、なんだっていうんだ…」

「でもね…。それはようにじゃなかった…。本当に筒抜けになっていたんだよ。君は無意識に潰していた…。つまり、君と僕は同じ心を共有していた同じ人間なんだ!」

「…そんなのデタラメだ!」

「…じゃあ、この世界の君は誰なの?」

「……」

 …この世界の俺? それは…。

「…勇者なんだよ。この世界の君はね…」

「…いってる事がめちゃくちゃだな。…それとも、勇者を吸収して自分が勇者とでもいいたいのか?」

「はははっ…。そうか…。まぁ、そうとるよね…。でも、真実は少し違う…。…僕もまた勇者なんだよ」

「……」

「オリジナルの勇者の魂が欠けていき、それが集まった存在…。勇者の無意識に眠る破滅の願い…。それが…僕なんだ…」

 僕は全身全霊をかけて剣を目の前にいる的に振り落とした。だが、奴は片腕でその剣を掴んだ。剣は少しもそれ以上動かなかった。

「なんでそんなことわかる…! お前に…!」

「スキル…全知全能…。これのおかげだよ…。そして、奴らを完全に喰らい尽くせば、僕は更に完璧な存在に近づく…。今一度問おう…。…僕と一緒に世界を壊さないか?」

 

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