第225話

「…断る!」

 奴は剣を離した後、顔を押さえて笑いながら僕の後ろへ歩きだした。

「はははっ…。そういうと思ったよ…。自分に振られるなんてね…。なかなか貴重な経験だ」

 …今なら、やれるか? …いや、やるしかない!

 僕は奴が余所見している間に、全ての属性魔法を剣にチャージして、奴の背中を斬ろうとした。だが、振り下ろした直前で急に目の前が青く光った。僕はそこに現れた人物をみて、剣を止めた。

「…神様?」

 そこにはなぜか庇うように神様が手を広げて立っていた。

「…勇者様には手をださせません。…消えなさい!」

「…くっ! …どうして庇うんだ! 神様! どうして…。…いや、違う。…操られてるのか!?」

「ふっ…。ははははっ…。この子はいるんだよ…。あの扉を開くにはね…。それとも殺してみるかい? 未来が変わるかもしれないよ。……ノルン、彼にあれをみせてやるんだ」

「はい…」

 神様はふわふわと浮かびだし、僕に近づいてきた。僕は警戒しながら後ろに一歩下がった。

 なにをする気だ…。みせろって…。

「背後がガラ空きですよ…」

「…なに!?」

 神様が二人いる!? いや、違う! 前のは幻影だ! まずいっ! 体が動かない! なにかの魔法が発動した!

「…あなたには本来進むはずだった未来をみせましょう。…後悔しなさい」

「…くっ!」

 僕の視界は急に真っ暗になった。再び気がつくと、僕は魔王国にいた。

 

 …空間移動? いや、これはあの時の魔法…。なら、言葉通り未来をみせてるのか? でも、これはいったい…。

 そこでは大陸が海へと沈み、ヨルムンガンドが全てを飲み込もうとしていた。そして、大陸が沈んでいるのにも関わらず、兵士達は戦っていた。ヨルムンガンドではなく、愚かにも他種族達と…。

 …みんな、やめろ! にげるんだ!

 僕の声は全く聞こえてないようだった。何度止めても無駄で、ヘルは更に大きくなり命を飲み込みこんでいた。僕はその光景をみて膝をついた。

 なんで、そうまでして戦う…。命よりも大切なのか…。

 次に顔を開けると場面が変わっていた。周りをみると大地は滅び、海は枯れていた。もう、なにも生きてはいなかった。

 

「…愚かだろ?」

 …お前! ウルか!?

 その声は奴だった。姿こそ見えないが、近くに気配を感じる。

「僕は少しだけ押しただけ…。僕が押さなくても、いずれこうなる…。彼らは破滅する運命なんだ…。他の未来もそう…。奴らを生かしておいても、何度だって殺し合う…。僕がやろうとしているのは、彼らの為でもあるんだ…。さぁ、理解してくれ…。僕とともに全てをリセットするんだ」

「…確かに…そうかもな…。こうなったら、仕方がないのかもしれない…」

「そうだろ!?」

 僕はゆっくり立ち上がり、左での腕輪を触った。

「でもな…。お前が決めるな…! リセットは絶対にさせない…! 俺達は俺達で答えをだす。…そうだろ? 神様!」

 …リカバリー発動!

「…残念だよ。…ん?」

 左手の腕輪が金色に光り輝くと、目の前に神様が現れた。

「その通りです…。ふぅ…。お待たせしました」

「まだ、生きていたのか…。残骸ですら殺せないとは…。もう少し時間がいるかもしれないな…」

 奴がスッと消えると、周りの景色は崩れだした。神様はこちらの方へ歩いてきた。

「よかった…。元に戻って…」

「…そういうわけでもありません。あなたのおかげで一時的にでてこれただけです…。元の世界に戻れば私は異空間に閉じ込められてるでしょう…。意識ももう…」

「そんな…。どうすればいいんだよ…。俺…」

 僕が弱音を吐くと神様は励ましてきた。

「大丈夫です…。あなたなら、きっと…」

「…気休めならよしてくれよ」

「いえ、気休めではありません。あなたには…」

 なにかを言いかけると、神様の声が乱れなにも聞こえなくなった。

「おい、俺にはなんなんだ! 俺にはなにがあるって!」

 神様はニッコリと笑った。すると、景色がガラスのように完全に崩れ元の景色に戻った。


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