第214話

「…って、ことなんだよ」

「なるほど…。そんな事になっているなんて…」

「まっ…そういうわけだから、お宝はいらないよ」

「でも、聞けば聞くほどアル様にはなんのメリットもないじゃないですか…。やはり、少しでもいいので受け取ってくれませんか?」

「いや、別にいらな…」

「お願いします!」

 ユキは僕にグッと迫ってきた。

「うーん…。わかったよ…。じゃあ、記念にちょっと寝っ転がってもいい? 昔、ゲームのエンディングでみて…。一回やってみたかったんだ…」

「はっ、はい…。そんな事なら別に…」

 僕は金貨のベッドに寝っ転がって、シャワーをあびた。

「ふはははははは…」

 いたい…。想像以上にいたい…。でも、最高だ…。

 僕はしばらくそれで楽しんだ。


「満足した…。十分です…」

 僕はシオンさんに返してもらったバッグから、コーラを取り出し飲み始めた。

「あの…」

「ごっ、ごめん! ここ…飲食禁止だった?」

「いっ、いえっ…。そうではなくて、一つでもいいので…受け取って…。いえ、交換しませんか? 魔族の国と神族の国の友好の証として…」

 そういわれると断りづらいな…。

「でも、俺にはあげれるものが…」

「うーん…。では、それでいいです…」

 ユキの目はコーラのビンを見ていたようだった。

「…コーラ? もっと、なにかキチンとしたものが…」

「そっ、それで構いませんから! ちょっと待っててください…。とりだします…」

 ユキは右手を前に出し、呪文を唱えるとぼくの目の前に小さい箱が飛びだしてきた。

「おっと…。…開けていい?」

「はい…。その中には…」

「…ん? …なにも入ってないよ?」

「そうです…。なにも…。えっ!? そんなはず…。本当になにも入ってないですか!?」

「うっ、うん…」

 僕が箱を見せるとユキは中を覗き込んだ。

「あれ…。どこか別の場所にしまいましたかね…」

「なにが入ってたの?」

「太古の時代より伝わる魔法の指輪です…。大変貴重なものだったのですが…」

 そんな物を渡すなよといいかけたが、僕は言葉を飲み込んで一枚のコインを手に取った。

「じゃあ、これにしよう…」

「そんなもので…。もっと高価なものが…」

「これがいいんだよ。さっきの記念にさ…。はい、もう返品は不可だからね!」

 僕はコーラをユキに手渡した。

「わっ、わかりました。では、乾杯です!」

 ユキは思いっきりコーラを飲み込んだ。

「おっ、おい…。いきなり、そんなにのむと…。あれ…大丈…」

「ぶっ、ぶっはっ! けほっ…けほっ…。なんですか、こっ、これは! 私が寝ている間にこんな凶悪な飲み物が…。…いや、こっ、これは美味しいです。って、アル様そんなにベトベトになってどうしたんですか!?」

「……」

 僕はタオルを取り出して拭いた。

 

「…すいません」

「まぁ、いいって…。…コインは拭かなくても大丈夫?」

 僕達はコインに座ってコーラを飲んでいた。

「はい、大丈夫です…。でも、不思議な飲み物ですね」

「うん…。でも、おいしいんだよね…。クセになるっていうか…。まっ、話も終わったし…。…そろそろいこうか?」

 僕が立ち上がると、ユキはコインに座ったままだった。

「……」

「どうしたの?」

「アル様に聞きたいことがあるんです…」

「…聞きたいこと?」

 ユキは深刻そうな顔をしていた。

「はい…。…アル様はわかっていたんですか? サーティスや前魔王が正統な後継者でないことを…」

「えっ? あれは僕の作り話で…。…本当にそうだったの?」

「知らなかったようですね…」

「うっ、うん…」

「実はあれから、アル様が寝ている間に少し調べていたんですが…。ここ数十年で大きく変わっているんです…。ありえないような人事配置…。軍の構成…。侵略行為…」

「…革命とかおきたんじゃないのかな? 僕の話がホントっていうなら…」

「私も初めはそう思いました…。ですが、内乱や革命が起きたという記録もありません…」

「じゃあ、やっぱり正統な後継者なんじゃない?」

「いえ、それだけは違います…」

「なんで、断言できるの?」

「先程、ある場所から遺体がみつかりました。それは、前魔王だったはずのものです…。ですがそれは、死後十年以上はたっていました…。魔力の質から考えると間違いないでしょう」

「前魔王だったはずって…。じゃあ、今まで誰が…」

「わかりません。誰も覚えていないのです。前魔王の事を…。まるで誰かが歴史を変えて王になったかというぐらい不自然なんです」

「……」

「…まぁ、考え過ぎかもしれません。話も終わったので帰りましょう。そろそろ、夕飯の時間です」

 

 僕は夕飯を食べたあとに部屋に戻った。

「よしっ…。寝るか…」

「おい…。…開けろ!」

 聞いたことのある声が、ベランダのドアを叩く音と共に聞こえた。

「シオンさん? いや、ゼロか…」

 僕はベランダの大きなドアを開けた。

「なんだ? あいつのほうがよかったか?」

「どうしたの? こんな夜に?」

「そろそろこの国をでようと思ってな…。一言、挨拶をな…」

「以外に律儀なんだね…」

「なんだと!?」

 ゼロは僕の胸ぐらを掴んだ。僕はその手を握っておろした。

「ほっ、ほめたんだから怒るなよ! げほっ…。…それでゼロはこれからどうするの?」

「まっ…。風にでもながされて旅でもするさ…」

「そうか…。なら、ゼロ…。お願いがあるんだ…。僕のかわりに神族の王様になってくれないか?」

「なんで私なんだ? あいつに頼めよ…」

「シオンさんはきっとやりたくないと思うんだ」

「…あいつの代わりか?」

 僕は首を横に振った。

「違う…。俺はゼロにやってほしいんだ…。ゼロなら残された人間達の気持ちわかってあげられると思う…。まっ、強制じゃないし…。すぐに答えをくれってわけじゃないから…。考えてみてくれ…」

「まったく…。挨拶なんてくるんじゃなかったな…。まっ、考えておくが、期待はするなよ。じゃあな…」

「うん…。元気で…」

 僕は別れを告げた後、ベッドにもぐりこんで眠りについた。

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