第213話

 僕は辺りにいる魔物達にユキの居場所を聞いた。どうやら、一階のどこかにいるそうだ。僕は階段を降りて通路を歩いていた。

「…ん? いたいた…。おーい!」

「アル様、お目覚めになられたのですね。本当によかった…」

「なにか俺に話があるんだって?」

「いえ、その話は…。きっ、気にしないでください……」

 ユキは下を向いて急に黙り込んだ。

「うーん…。そういわれると気になるんだけど…」

「実は…その…お願いがあるんです…」

 …お願い?

「もっ、もしかして、縛ってくれとかじゃないよね。はははっ…」

 僕は冗談っぽくいってみると、アリス達が急に反応した。

「ねぇねぇ、アル…。…縛るってなに?」

「えっ? いや、その…」

 アリスは本当にわかってないような表情だったが、神様はその一言で気づいているようだった。

「…アリスさん、私達は離れましょう。私達が知るには早すぎる世界もあるのです…。では、ごゆるりと…」

「いっ、いや、冗談だって! ユキからもなにかいってよ!」

「そうですね…。離れてもらったほうがいいかもしれません…」

「そう…離れて…。…えっ? まっ、まさか…本当に縛って…」

「ちっ、ちがいます! あの時は回復魔法のせいで妙な気分になっていただけです! はやく忘れてください!」

「じゃあ、一体…」

「…じっ、実は、あまり聞かれたくない話があるんです」

「でっ、では、私達はいきますからっ! まったく、アリスさんの前で…。教育に悪いですよ…。でもまさか、そんな高度なプレイヤーだったとは…」

「ちげぇわ!」

「ねぇねぇ、アル…。縛るって…」

「いや…その…」

「アリスさん、後でこっそり教えてあげますからいきましょう」

 僕はアリスを連れて行こうとする神様をサッと掴んだ。

「おっ、おい!」

「まっ、まさか…。この私にも毒牙を…」

「違う! 余計な事をいうなよ! 絶対だからな!」

 僕は神様に念押ししていった。

「……はい」

 妙に間があいた答えだった。神様とアリスがどこかにいくと、ユキはとある場所についてきてほしいと言いだした。僕は案内され古い地下通路を降りた。


「…それがここ?」

「はい…。あけてみてください…」

 古びた扉を開くとそこには山のように宝物が積み重なっていた。

「すごいな…。これ…」

 ユキは金貨を手に持ち、ジャラジャラと下に落とした。

「売れば人生を何十回も豪遊できると思います…」

 何十回ってレベルじゃない気もするけど…。

「へぇ…。でも、こんなところにきて…。一体、なんの話なの?」

 僕が尋ねると、ユキは表情を曇らせていた。

「アル様にはこの国を救っていただけました。感謝の気持ちを込めて、ここの宝を全てあげます…。ですから…その…」

「全てって…。…感謝の気持ちにしては多すぎないか?」

「そんなことはありません…。助けてもらわなければ、全て異空間に飲み込まれているのですから…」

「でっ、でも、そもそも城のもの勝手に持出しちゃダメだろ?」

「それなら、問題ありません…。ここは、私の宝物庫なのです。私が魔王だったときの…」

「へぇ…。魔王だったときの…。まっ、魔王!?」

 僕はその言葉に反応して剣の柄を握った。

「そんなに警戒しないでください…。敵意はありません…」

「ユキが…前魔王なのか?」

「いえ、私は初代です」

 …初代?

「なっ、なんだよ! 冗談か…。ビックリした…」

 僕は剣の柄から手を離した。

「いえ、冗談ではありません。私が初代魔王…ユキ・ヴァナへイムです」

「…つまり、おばあちゃんってこと!?」

「しっ、失礼な事をいわないでください! 私はまだ二十代です! いっ、一応…」

「でも、初代って…」

「じっ、実は…」

 僕は神族の国にいたヨルムンガンドを封印する為、ユキが精霊と共に氷漬けになった事をきいた。

 

「じゃあ、君がシオンさんの言っていた氷漬けになった魔王ってこと?」

「そうです」

「…でも、どうやってでてきたの?」

「…それはわかりません。記憶が抜け落ちているところがあるんです…。少しずつ思い出していますが…」

「……」

 なるほど…。まさか、ユキの正体が魔王だなんて思わなかったな…。

「…わかってもらえたようなので、私の説明は終わりです。…この宝物を受け取ってくれませんか? そして…そして…。この国からでていってほしいのです…」

「俺、魔王なんだけど…」

「はい…。ですから、この宝と引き換えに魔王の座を私に譲ってほしいのです」

「……」

 ユキは僕の目をまっすぐ見てきた。

「無理をいっているのはわかっています…。ですか、恩人である貴方をこれ以上巻き込むわけにはいかないのです…」

「巻き込むって…」 

「先程、貴方は私に剣をむけようとしました…」

「あっ、あれは…。ごめん…」

 僕は誤魔化そうとしたが言葉が見つからなかった。

「いいんです…。あれが普通なんですよ…。それほど、今の魔王国には信頼がないんです。ですから、貴方が魔王になれば今度は貴方が向けられるかもしれない…。もしかしたら、魔族側からも…」

「……」

「ですが、貴方が地位や権力を求めるのであれば私は止めません。…でも、受け取ってくれませんか? お願いします…」

 ユキは深々と頭をさげた。

「悪いけど…受け取らないよ…」

「そう…ですか…」

 僕は辺りをキョロキョロとみた。どうやら、誰もいないようだ。

「ユキ…お願いがあるんだ…。誰かにお願いしようと思ったんだけど…。魔王…やってもらえないかな?」

「わかりました…。私もできる限り、魔王を…。…はっ、はい? 魔王を!?」

 僕の言葉にユキはキョトンとしていた。

「うん…。実は誰かに渡そうって初めから考えてたんだよ。あの時は言わなかったけど…。でも、ユキならいい気がするんだ。…」

「でも…今、受け取らないと…」

「だから、こんなにすごいものもらえないって…。国を立て直すのに使ってよ…。それに今は俺、神族の王だからさ…。昔、助けてもらったんだから、こんなもの受け取っちゃ悪いだろ?」

「貴方が神族の…。ゆっ、勇者様の子孫なのですか?」

「いや、その人は別にいるんだけど…。まぁ、成り行き的に神族の王になってしまったというか…。今回のような感じで…」

「どっ、どういうことですか?」

 僕は簡単にだが、現在の神族の国について説明した。

 


 

 

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