毀壊の魔王国 シオン編

第194話

「あと少しだな…」

 あれから、三日間がすぎた。アルの持っていたバッグのおかげで順調にいっているが、それでも少しの不安と後悔があった。もし、あれが皆との最後の別れになるとしたら、これほど愚かなことはないだろう。

 …いかんな。

 私は無意識に通信機へ伸びていた手を引っ込めた。

「暗い顔してどうしたのよ。せっかく、ウィンディーネ様がきてあげたのに! 楽しく歌でも歌いなさいよ!」

「かっ、感謝はしてる。歌は勘弁してくれ…」

「…でも、よかったの? せっかく、呼んでもらったのに…。謝ればいいじゃない?」

「そういうわけにはいかない…。アルにはアルでやってもらわないといけないことがあるんだ」

「ふ〜ん…。…ん?」

「…どうしたんだ? …ウィンディーネ?」

「なんか変な気配感じない?」

「変な気配?」

 私は周囲を確認したが、周りは青い海だけだった。

 特に変わった様子はないようだが…。

「気のせいかしら…。あら、くもってきたのか…し…。らぎゃああああああー! にっ、にげてーーー!」

「おっ、おい! ハンドルを揺らすな!」

 ウィンディーネはなぜか急に興奮して私の腕を引っ張りだした。

「上を見なさいよ! うぇえー!!!」

「…うえ? なっ、なんだ、あの化物は!?」

 上を見ると、信じられないほど巨大な大蛇がでかい口を開けて飲み込もうとしていた。私は急加速してそれをかわした。

「なっ、なんで、あいつがここにいるのよ!」

「知り合いなら帰ってほいん…だがな!」

 急旋回して備え付きの小型銃で撃ち込んでみたが、まるで効果がなかった。

「知り合いじゃないわよ! おっ、追いついてくる!」

「…くっ! ウィンディーネ、攻撃をしてくれ!」

「ダッ、ダメよ! あれは私と相性が悪すぎる! にっ、逃げるわよ!」

「逃げるってどこにだ!」

「そっ、そりゃ、あいつのいるところによ!」

「そっ、それだけはダメだ!」

「いっ、意地張ってる場合じゃないって…。のっ、のみこまれるぅうー!」

「…くっ!」

 私はウィンディーネと共に突然現れた大蛇に飲み込まれた。


「完全にあんたのせいね…」

「すっ、すまにゃい…」

 バチバチと火花が飛び、小型船は大破した。私は諦めてバッグを手に取り小型船から降りることにした。

「どうするのよ…。これから…」

「…アルのところに戻るしかないよな」

「バカね…。戻れるならとっくに戻ってるわよ…。はぁ…」

「まっ、まさか、でれないのか!?」

「そうよ…。ここが神族の国なら私の力ももう少し強くだせるんだけど…」

「口が開いたときにでれば…」

「あのね…。ここはそういうところじゃないの…。さっきからあいつが泳いでるのに上下左右全く変わってないでしょ? ここはそういう異空間なのよ」

「そんな…」

 私は…なんの為に…。

 私は力なく地面に座った。ウィンディーネは、そんな私を励ました。

「なに辛気臭い顔してんのよ! ほら、魚でも探すわよ!」

「……」

「ほんと死にそうな顔してるわね…。うっほらっ、立ちなさい! …って、なにこの揺れ! まずい! なにかに捕まりなさい!」

 突然、とんでもない量の海水が流れ込み、私は更に奥へと流された。

 

「ここは…」

 顔をあげると、どこかでみたことのある少年が立っていた。

「よかった…。起きたか、ゼロ…。じゃなかった、シオンさん」

「君は…ルアくん? うっ…。なんで君がここに…」

「それはこっちのセリフだよ…。まさか、ここはここでこうなってるなんてな…」

 私はウィンディーネの姿がみえないことに気がつき、辺りを探すとバタンと私の真横に倒れていた。

「ウィンディーネ、大丈夫か!?」

「うーん…。ぐぅ〜…」

 ねっ、寝てるのか…。まぁ、無事ならいいか…。というか、なんでここは明るいんだ?

 周りを見ると不思議な事にいくつもランプがあちこちに散らばっていた。

「まぁ、先に今の現状を説明しとくか…。それともいわないほうがいいかな…。かなりまずい状況だし…。いっても仕方ないし…」

「いや、聞かせてくれ…」

「うーん…。じゃあ、説明するね…。実は相棒の作戦なんだ…」

「…アルの?」

「うーん…。作ったほうが早いか…。よっと…」

 少年は長い透明な筒と短い筒を手のひらから生成した。それを重ねて床に置くと今度は蛇と城の模型と板を四枚作りだした。

 

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