第170話

「…って、ことなんだ」

「まずいことになってるな…」

「そんにゃ…」

「まっ、まぁ、そっちの方はリアヌスと俺でなんとかするさ」

 エリックはテーブルの上のタオルをノスクに一枚投げたあと、もう一枚タオルを手に取り自分の顔を拭いた。

「そうはいってもな…。それは世界を巻き込むんじゃないのか?」

「…世界を?」

「ああ…。まぁ、さっきの星が崩壊するなんて話は、言ったところで誰も信じないだろうし…。仮に信じて協力してくれもらってもだ…。できる事なんて限られてるし、本当にそんなことになれば…。残念ながら…みんな、仲良くお陀仏だ…」

「……」

「だが、戦争となれば話は別だ…。もし、さっきの崩壊が起きなくて生き続ければ必ず問題になる。そこまで大規模な戦争になる可能性があるなら他の国にも伝えておくべきだ。まぁ、リアヌスってやつがもうやってるならいいが…」

「でも、戦争ってすでにしてるんじゃ…」

 エリックはなんともいえないような表情をしたあと、濡れたタオルをテーブルに置いた。

「そうじゃなくてだな…。まぁ、なんていうか…。この星を救ってもらっても…今度はパワーバランスが崩れて、その勝った国と戦争になるかもしれないだろ?」

「そんなこと…」

「まっ、まぁ、なるかもってだけだけどな…。判断はその国に任せればいい…」

 エリックはそういいながら椅子についた。

 確かに…。でも、これじゃきりがないな…。

 僕はボッーとしながらテーブルの上のコーラを拭いているとシオンさんが話しだした。

「アル、氷の精霊は早く手に入れるほうがいいのか? 正直に答えてくれ…」

 普通に考えたら早いほうがいい気がするけど…。

「たぶん…そうですね…」

「わかった…。少し休憩にしよう…。なにかお菓子でも持ってくるよ…。アル、このバッグ…少し借りていいかな? …お菓子とジュースを運ぶのに使いたいんだ」

「ああ、いいよ」

 僕が神様からもらったバッグを手渡すと、シオンさんは立ち上がって扉の前に立ち急に謝りだした。

「…みんな…本当にすまなかった」

「もういいって…」

「そうだにゃ!」

「アル…。魔族の事なんて気にしなくていい…。君は君のやるべき事をするんだ…。…いいね?」

「…え? うん…」

 シオンさんは笑った後、部屋の扉を閉めた。

 …どうしたんだ? 急に…。変なシオンさん…。


「シオンさん、遅くないかな…」

 あれから十分程度はたっていた。

 迷ってるってことはないと思うし…。シャルにでも捕まっているのかな?

「確かに遅いな…。…どうしたんだ、あいつ? なんか…。いや、なんでもない…」

 エリックはなにかを言いかけて言葉を引っ込めた。

「…どうしたんだよ、エリック?」

「いや…疑うわけじゃないんだけど…。なんか、さっきから様子がおかしくないか? 俺の気のせいかな…」

「確かにそうだにゃ。まるで、お別れみたいなこというし…」

 …お別れみたいな?

「…まっ、まさか!?」

「…どうしたんだ? 急に立ち上がって?」

「…そうだにゃ?」

「…あっ、あかない!」

 僕は立ち上がり扉を操作したが、部屋の扉は動かなかった。

「壊れたのか? …ったく、しょうがないな。ちょっと待ってろ…。すぐ、直してやるよ」

「ちっ、ちがう! そうじゃなくて、きっと閉じ込められてるんだ!」

「なっ、なんだって!?」

「にゃあ!?」

「なんでだ!?」

 僕は思いっきり扉を横に動かしてみたが、ビクとも動かなかった。

「…シオンさんは一人で魔族の国に乗り込む気なんだ!」

「どういうことだよ!」

「そうだにゃ!」

「たぶん、シオンさんは責任を感じて…」

「…ウソだろ?」

「…かっ、考え過ぎなんじゃないかにゃ? お菓子をいっぱい持ってきてるから大変なんだよ」

 確かにそうかもしれない…。たまたま、扉が壊れただけなのかもしれない…。でも、なんだ…。嫌な予感がする…。このままじゃ、二度とシオンさんに会えないような…。

 僕は思いっきり扉に体当りした。

「クソっ…。なんて頑丈なんだ…」

 …でも、シオンさんは一体どうやって空の上からでるんだ?

 僕が何度も扉に体当たりをしていると、突然シャルの声が聞こえてきた。声が震えている様だった。

「アッ、アル…。…今の話、ほんと?」

「シャ、シャルか! そこからこの扉は開けれるか!? っていうか、シオンさんはそこにいるのか!?」

「ここからは無理みたい…。シオンさまは…さっき…小型船で…」

「…小型船?」

 エリックは思い当たることがあったようだった。

「まさか、あれを使うつもりか!?」

「…あれ?」

「この船内に小さな船があったんだ。まぁ、もしものために備えて動くか試してみたんだが…」

「…動くのか?」

「ああ…。出力を確認してみたが、速度もあっちの方が早い…。追いつくのは無理だ…。それに…こんな装備で魔族の国にいくなんて死ににいくようなもんだ…。そうか…それでさっきあのバックを…」

 くそっ…。なにかいい方法は…。


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