第171話

「エリック、小型船は二台ないのか?」

「船内を探したが、一台しか…」

「そうか…。…そうだっ! ノスク、空間移動で外にだしてくれよ!」

「ダメだよ…。実はこの剣、今はタダの剣なんだ」

 ダメか…。…神様に頼むか? …いや、なにかイヤな予感がする。なら…。

「シャル、アリスとピンクの髪の毛をした子に連絡を取れるか?」

「うん…。今、アルの部屋の前にいるよ」

 僕は壁をドンドンと叩いた。

「アリス、神様、聞こえるか!?」

「聞こえてるよ」

「はい、きこえています」

「神様、すぐに直せそうか?」

「厳しいかもしれません…。扉についた機械も壊されて、扉自体も強力な氷の魔法で扉を塞がれています」

 どおりで扉が少し冷たいわけだ…。

「神様でも無理なのか?」

「はい…。時間が経てば溶けるとは思いますが…」

 時間が経てば…か。船は操作できる…。このままエルフの国に行って準備していくか…。それとも引き換えして竜の国に…。いや、物資もないまま…。それにみんなを行くのは危険か…。竜の国にきただけでも…きっと…。

「みんな、少し離れててくれ…」

「…なにする気だ?」

「そうだにゃ…」

「まずは扉を壊す。アリス、神様! 扉を壊すから、離れていてくれ! 離れたらシャルに連絡を!」

「わかったわ」

「わかりました」

 僕は背後にエリックとノスクが移動したことを確認して、鎖をほどき剣を抜いた。

 集中しろ…。集中するんだ…。…ん?

「なっ、なんだ、これは!?」

 右腕の闇がドンドンと広がり部屋中に広がっていった。

「おっ、おい、アル!? なんなんだよ、これ!?」

「なっ、なんにも見えないにゃ!?」

 まずい…。この前となにかが違う…。力がとめどなく溢れてくる。…抑えきれない! …止めないと!

「…ない! …鎖はどこにいった!?」

「おっ、おい、なんか沈んでるぞ…」

「これ、なんなんだにゃ!?」

 くそっ…。左腕に持っていた鎖が見えない…。みんなの声は聞こえるけど…。…なんだ!? ポケットが光ってる?

「なんだ…これ…。これは…」

 僕はポケットから光るなにかを取りだした。それはカードだった。

 …ジャックのカード? …なんでこれが光ってるんだ?

「おっ、おい! アル、落ちてるぞ! 落ち、落ちるぅううううー!」

「助けてにゃぁあああー!」

 なにが起きてるんだ!? …ぐっ! まずい! 沈み始めた!

「みんな!?」

 僕が混乱していると、急にステータス画面が開き音声が流れ始めた。

 なんだ…。声が聞こえる…。いや、まるで…。

「…歌? なんで歌が…。まっ、まずい! おっ、落ちる! …うわぁああ!」

 僕はどこまでも続く闇の中に落ちていった。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る