第162話
僕はシオンさんを引き寄せて抱きしめた。それくらいしか今の僕にはできなかった。
「アル、最後まで聞いてくれ…。私の先祖は禁忌の技で命を永らえさせたんだ…。だがら、私にもその力が少し引き継がれている…」
「……」
「ウインディーネに聞いたから間違いない…。魔王が欲しがっていたのはそのスキルだったんだ…。魔王に悪用される前に私を殺してくれ…。シルフィ様を頼む…」
「なにいってるんだ! そんなことする必要ない! 魔王は最後の四天王に異空間へ閉じ込められたんだ…。だから、そんなことする必要なんてないんだ」
「あっ、あの魔王がか!?」
「その四天王に聞いたから間違いない。そいつさえ倒せば後は俺がなんとかする。だから、シオンさんがそんな心配する必要なんて…。……ぐっぁあああ!」
「…アル、どうしたんだ!?」
なにもしていないのに右腕の鎖が締め付けられていき、僕はあまりの痛さに膝をついた。
「…くそっ! …はっ、外れない! あっ、頭が痛い! …あがぁぁあああ!」
「アッ、アル!?」
僕は痛みに耐えて叫び声をあげながら、手に巻きついた鎖をなんとかして外そうとした。
「…外れろ! 外れろぉおお! …ぐっ! はぁ…はぁ…はぁ…」
おかしい…。外してもないのに痛みが消えた…。…あの一瞬だけだったのか? いやそれよりも…。…まさか、さっきのやつが!?
恐る恐るまぶたを開けると、僕は驚いたことに自分の部屋のベッドで横になっていた。
僕は窓ガラスに映る自分を確認した。すると驚くべきというか、本来は驚くようなはずでもないが、元の世界の姿が映しだされていた。
「…えっ! ゆっ、夢だったのか!?」
「馬鹿だな、相棒…。自分の着てる服見てみろよ…。こんな大人になるなんて…。はぁ〜情けないぜ…」
聞き覚えのある声が聞こえ、僕は声の主を探した。そこにはもう一人の僕…。ルアが立っていた。
「おっ、お前、死んだんじゃ!?」
「かっ、勝手に殺すなよ…。…ったく、なんとかでてきたっていうのに…。…ほんと押入れからでるの大変だったんだからな! …って、抱きつくなぁあ!」
「…押入れ?」
「そうだよ…。あそこの押入れだよ…。つうか、そろそろ離せって…」
ルアが指差す方向には見覚えのある扉があった。でも、それは本来の世界では存在しているが、存在してないものだった。僕は立ち上がり扉を開けて中を確認した。
「この部屋…このオモチャの剣…それにこのゲーム…。懐かしい…。昔の僕の部屋だ…」
「あいつが俺をこの押入れに閉じ込めたんだ! 全く、酷いことしやがる! 暗いとこ苦手なのに…」
「…あいつ? 黒騎士…っていうかシャドウの事か?」
「そうだよ…」
そういえばシャドウのやつ会話の途中でなにかを見てたな。…ルアのこと見てたのか?
「…でも、なんでこんなとこに?」
「…相棒の精神なんだから相棒の心の中にいて当然だろ? まぁ、いつか消えるのかもしれないけど…」
「…ごめん」
「…気にすんなよ。消えても相棒の中で生き続けるだけだ…。それに相棒の部屋にはコーラもポテチも、なんていったって最新式のゲームが何個も置いてあるから、俺からしたらここは天国なんだよ…。だから、そんな顔すんなって…!」
僕はルアの笑顔が痛かった。きっと、僕に気を使わせないようにしているんだろう。
「……」
「…っていうか、さっき見たんだけど、テーブルの上に山程置いてあるゲームソフトなんなんだ? 全部未開封なんだけど…多すぎじゃねぇか?」
「…ん? ああ、あれか…。残業続きでやる暇がないんだ…」
「…やる暇もないのに買うのか?」
ルアは僕がそんなことをいうと、眉間にシワを寄せていた。確かに昔の僕ならありえないと思うだろう。
「まぁ…買う事で満足するというか…。積みゲーっていうか…」
「…とっ、とりあえず、残念な大人になっているのはわかった……。…そんなことよりも、世界は救えたのか?」
「まだだ…。ルア、教えてくれ…。…これなんなんだ?」
ルアならこの力の正体や激痛の原因がわかるかもしれない…。
黒い鎖を見せるとルアは小さなベッドに座り黙り込んだ。なにかを考え込んでいるようだった。僕は椅子に腰掛け、ルアが答えるのを待った。
「うーん…。正直いうとわかんねぇ…」
「わかんねぇって…。なんだよ…」
「わかんねぇもんはわかんねぇよ…。ただ…かなりヤバイものだってのは感覚でわかる…。あんまり使いすぎたらヤバいのもなんとなくだけどわかる…」
「…全部、勘なのか?」
「そうだ…。勘でいうと…。…いや、なんでもない」
「…勘でもいいから教えてくれ」
「なんかさ…。すごい前から持っていたような気がするんだ…」
「……」
…すごい前? そういえば、神様も妙な事いってたな…。ステータスは昔から持っていたとか…。やっぱ勇者に聞かないとわからないか…。
「…あっ! 忘れてた」
「…どうしたんだ?」
「相棒に聞きたいことがあるんだ…。大事な…大事な話だ…」
「…どうしたんだ? そんな改まって?」
「…将来の話だ。ついてきてくれ…!」
「…将来の話? …おっ、おい!」
急におかしなことをいうルアに手を引かれてついていくと、廊下の端にある謎の扉の前についた。
…なんだこれ? こんな扉見たことないぞ…。
「はっ、入るぞ…!」
二人で中にある部屋に入ると、そこにはクマやウサギのヌイグルミや可愛い服が置いてあった。
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