第163話
随分と乙女チックな部屋だな…。
「…これがどうしたんだ?」
「聞きたいのは俺だよ! べっ、別に嫌いじゃないんだけどな…。その…相棒…いつから俺はこんな趣味に走りだすんだ?」
僕の目をジッと見ながらルアは不安そうに尋ねてきた。
「俺の部屋じゃねぇよ!」
「相棒…。気持ちはわかるよ…。でも、教えてくれよ…。…俺にも知る権利あるだろ?」
「…あれは…中学にあがってすぐの事だった…」
「そんな早いのか!?」
「じょ、冗談だって…。でも、誰の部屋なんだろうな…」
部屋の中を物色して歩くと、どれもこれも見たことのないものばかりで何故こんな部屋があるのか僕には理解できなかった。
本当に見覚えがないな。なんでこんな部屋が…。
「相棒…。そろそろ教えてくれよ…。相棒の心の中に他のやつの部屋があるわけないんだから…。もう、覚悟できてるからさ…」
「だから違うって…。あれ? このマグカップ、みたことあるぞ…」
「やっ、やっぱり…」
「ちっ、違うって! やっぱりこれはシオンさんのマグカップだ。なら…ここはシオンさんの部屋? …っていうか心の中なのか?」
ため息をつきルアは僕に話しかけてきた。全く信用していない顔だった。
「はぁー…。…人のせいにまでして誤魔化したいのか?」
「…ったく…違うっていってるだろ…。待ってろ…。なにか証拠が…。ほら、あったぞ。これ見てみろよ…」
棚に立て掛けてあった写真立てを取ると僕はそれをルアに見せてやった。そこにはシオンさんが小さい頃の家族写真が飾られてあった。
「こっ、これは…!? 俺…コスプレもしてるのか…」
「違うって…。でも、確かに小さい頃のシオンさんと少し似てるな…」
僕はルアと写真の中のシオンさんを見比べた。
「…やっぱり、そうなんだ……」
「あのなぁ…。ほら、ここみてみろよ…。…知らない人だろ?」
「…コスプレ仲間だろ……」
しゃがみ込んで僕はルアの肩をガシッと掴んで話しかけた。
「…いいか、よく聞け」
「…うっ、うん」
「自分でいうのもなんだが…。もし、俺の心の中にあるとしたら、魔導書だらけの部屋か、ゲームソフトだらけの部屋だ…。…ごめん……。ゲームソフトだらけの部屋はあった…。…でもな、そんな俺の心にお前が違和感を感じるような部屋があるなんておかしいだろ!」
「…確かに!」
「それにな…俺がコスプレするなんて絶対にない…!」
…数えるほどくらいしか!
「……」
「…信じてくれたか?」
「……」
「おっ、おい? どうしたんだ?」
急にルアはボッーとして焦点の合ってない目で遠くを見つめていた。そして、僕の方を向くと口調を変えて話しかけてきた。
「…数えるほどくらいはあるんじゃないのか? …コスプレというのは私は知らないけどね」
「あっ、あれは少しお試しでやっただけで…。でもな、ほんとにこの部屋は知らないんだよ。…っていうか、どうしたんだよ? …急に変な話し方して? …怒ってるのか?」
「…ルア? ああ、この子の名前か…。君の名前は…アルか…。いや、名前が二つあるね…。アルは仮の名前か…。ふっ、面白い偶然だ…。私と同じ名前とはね…」
「…おい、なにいってるんだ?」
「…ん? …少しこの子の体を借りているんだ」
「……」
確かにさっきまでの雰囲気とは違う…。小さい頃の僕がこんな細かな芸ができるとも思えないし...。
「…おっ、おい! …って、どこにいくんだ?」
「外だよ…。まぁ、君のことも気になるが先に状況が知りたい…」
そういって、スタスタとどこかに行ってしまった。僕は焦って追いかけると彼はベランダのある窓を開けて外にでていた。
「…おっ、おい! 危ないから勝手に外にでるなって!」
「…なるほど。こっちもこうなっているのか…。ますますわからんな…」
「一体、どうしたんだ…。…本当にルアじゃないのか?」
「…空を見てごらん」
「…空? …ってなんだ、あれ!?」
ありえないことに空の上には一際大きな城が存在していた。他にも小さすぎて、よく見えないが、その辺りには建物らしきものが無数に建っていた。
…あれも俺の心だっていうのか? …ゲームの世界か?
「…あれは私の世界だ……。寒いな…。中で話そう…」
「おっ、おい! …なんなんだよ」
茫然として僕はしばらくその城をみていると、不思議な事に何故か懐かしいようなそんな気持ちが湧いてきた。
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