毀壊の魔王国編

第159話

 僕は通路を歩いていき、重っ苦しい雰囲気が漂う扉の前に立った。

「はぁ…。…ここだよな?」

 …胃が痛い。

 僕はドアに手をやり、ゆっくり開けていった。

 いや、待てよ…。あれだけ扉があったんだ。アリスが教えてくれた場所と間違えてるかもしれない。ここの部屋じゃない可能性も…。

「…まってたよ。…早く中に入ったらどうだ?」

 …ですよね。…いますよね。

 僕は重い空気の中、倉庫らしき部屋の中に入った。シオンさんは立ち上がり、こちらを一目見ると部屋の奥へと進んでいった。

 …ついてこいってことか?

「はぁ…」

 気が重いな…。

 部屋の奥につくとそこは広場になっていた。なにもない広い空間に木刀が床に二本置かれ、シオンさんはその内の一つを取ると僕にポンっと投げた。


「…さて、剣を交えようか?」

 僕はその木刀を棚に置くとシオンさんに近づき話しかけた。

「シオンさん、話がしたいんだ。やめよう…こんなこと…」

 シオンさんは僕の周りを当たらないように高速で剣を振り回し、剣先を僕に向けた。

 なんて速さだ…。動きが全然わからなかった…。

 僕が驚いているとシオンさんは話しだした。

「シルフィ様がいっていた…。剣を交えればその人の心がわかると…。そして、己の心も…。アル…すまない…。今のお前になにをいわれても私は信じれない…。頼む、戦ってくれ…」

 なんかこう…あるよな…。ゲームだけじゃなく絶対にやらざるを得ないイベントっていうのが…。

「わかったよ。シオンさんがそれで納得するなら…」

 僕は棚においてあった木刀を手に取った。

「ありがとう…。じゃあ、始めよう…」

「ちょっ、ちょっと待ったー!」

 目の前のシオンさんは一瞬で視界から消え、ふと横を見ると僕の左腕を思いっきり叩こうとしていた。

「…どうした? 今更やめるとかいわないよな?」

 いいたい…。いいたいが…。まあ、いえないよな…。それよりも…。

「ふっ、服を着替えたいんだ」

「…服を?」

「邪魔な剣だってあるし…。すぐに着替えるからさ?」

「…まぁ、好きにするといい」

「ありがとう…」

 効果があるのかないのかわからないけど、やっぱり神様の装備をきて戦うのは違うと思う。

 僕はそう思い倉庫の影に行き、着替えながら作戦を考えた。

 あの攻撃は防げない…。だとしたら、あれしかないか…。

「…終わったか?」

「始める前に聞きたいことがあるんだけど…。…回復魔法は使ってもいい?」

「好きにしろ…。…準備はいいか? 次は止めないぞ?」

「ああ…」

「…いくぞ」

 シオンさんは、ゆっくりとこちらに進み木刀を振りおろした。僕はそのままガードしたが、あまりの強さに手が痺れ木刀を離しそうになってしまった。

「ぐっ…」

 シオンさんはそのまま攻撃を続け、僕の木刀をなんども揺らした。

 さっきから一回も本体を狙ってきていない…。…手加減されてるのか? くそっ…。神様の装備がないだけでここまで動けなくなるとは…。

 僕はよろけながら間合いを取った。

「アル、戦う気がないのか? …それとも、私が弱いから手加減しているのか?」

「するわけないだろ!」

「…なら、なぜ攻撃してこない?」

 シオンさんを傷つけたくない気持ちは確かにある…。だが、それ以上に僕は攻撃を防ぐので精一杯だ…。

「…これが俺の全力だ」

「…ふざけているのか?」

「ふざけてなんかいない! 俺の力は神様の装備で強くしてもらってるだけなんだ!」

 僕はシオンさんの胴体目がけて木刀を振り下ろすと軽々と止められた。やはり、こんな勢いだけの攻撃は通じないようだ。

「そうか…。だからか…。やはり、やめよう…。私が悪かった…。アルは異世界から来たんだから知らなかったんだろ? でもな、あいつは…。あの竜人は私の国を滅ぼした張本人なんだ…。さっきの戦闘だって何度あいつを…」

「…知ってたよ」

 僕のその言葉に空気が更に張り詰め、シオンさんの表情が明らかに変わった。

「…なに?」

「…全部、本人から聞いた」

「聞き間違え…じゃないよな?」

 …いわなければよかったか? でも、そういうわけにもいかないよな…。

「ああ…。でも、あいつはそんなに悪いやつじゃなっ…」

 鈍い音が響いた。あまりの出来事に僕は気付くことができなかった。左手がダランとたれ尋常じゃない痛みが走り、僕は膝をついて理解した。

「…立て」

「…ぐっぅぁあああ!」

「…あいつが悪いやつじゃないだと? ...本気でいってるのか!? …なにも悪くない? …みんなを殺したんだぞ!」

 僕は痛みに堪らえて立ち上がった。

「確かにシオンさんの言うとおり、あいつは…あいつは…やっちゃならない事をした。シオンさんがあいつを倒したいんなら…僕は止めない…。シオンさんにはその資格があると思う」

「…なら、なんでだ!?」

「でも、神族もやっちゃならない事をした…。人間達を使って…人体実験をしてたんだ…」

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る