第158話

 アリスは心配そうな顔をしてこちらを見てきた。

「いやっ、なんでもないんだ。はははっ…」

 僕は記憶を遡っていった。思い出せるギリギリまで…。

 やっぱりだ…。元の世界の事はよく思い出せる…。まあ、ろくでもない記憶だけど…。でも、この世界にきてからの記憶が…。なんでこんなことに…。まさか、あのスキルの影響か!?

「…ねえ、本当に大丈夫なの?」

 …アリスにこの事を伝えておくべきか? いや、心配させるだけか…。

「大丈夫だ…。シオンさんの怒ってる理由…なんとなくわかったよ」

「…そっ、そうなの?」

「ああ…。それで悪いんだけど、全速力でエルフの国に戻ってくれ…。あんまり時間がないんだ。俺はシオンさんと少し話をしてくる…」

「うん…。喧嘩しないでよ…」

「どっ、努力はする…」

「約束だよ…」

「ああ…」

 僕は振り向いてシオンさんに会いに行こうとするとアリスが呼び止めた。

「…アル!」

「…ん? なんだ?」

「言い忘れたんだけど、シオンさんは多分…下の階の突き当たりにある倉庫にいると思う」

「…そうなのか?」

「あそこが一番広くて喧嘩しやすいから…」

「えっ、縁起でもないこというなって!」

 僕は動揺してズッコケそうになり、アリスはそれを見て少しだけ笑った。

「アルはそんなことしないってわかってるよ。でも、シオンさんはすっごい怒ってて…。でも、でも、喧嘩しちゃダメだよ」

「わっ、わかってるって! 何度もいうとフラグがたつだろ!」

「…フラグ?」

「ごめん。なっ、なんでもない…」

「ふーん。フラグね…」

 ゲームだと、この展開って必ず戦闘が発生したり離脱したりするんだよな。まあ、現実だしそんな事はない…。とは言い切れないか…。今回に限っては特に…。

「アリス、下の階には誰もこさせないようにしてくれないか?」

「やっ、やめてよ。まさか、ほんとに喧嘩する気じゃないよね!? …わっ、私も行こうか?」

「そっ、そうじゃないけど…。大人の話ってあんまり聞かせたくないんだ」

「…わかった」

 アリスは少し頬を膨らませ不服そうな顔をしていた。嫌な予感がしたので僕は念を押して言う事にした。

「操縦、頼んだぞ…」

「…うん」

「絶対にくるんじゃないぞ」

「…うん」

「絶対に絶対にだからな!」

「…ねえ、アル?」

「…ん?」

「…これってフラグがたったっていうの?」

「行ってくる…」

 危ないからこのフラグはへし折っておこう。

「ねぇ、気になるでしょ! 答えってば!」

 僕は質問に答えず歩いてエレベーターに乗った。

 それにしても、なんで思い出そうとするとモヤがかかるんだろう…。…疲れてるのか? まあ、様子見だな…。

 このとき、僕はまだそこまで自分に起こった異変について深くは考えていなかった。いや、考えないようにしていたのかもしれない。

もしかしたら、みんなの事を…この世界の事を忘れてしまうかもしれないってことを…。


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