第157話

 僕はハッチのハンドルから手を離し小学生のような神様をもう一度よく見た。

「なっ、なんですか? ジロジロとみて…」

 うーん…。なんかシャドウがいってた気がするな…。なんだったかな…。確か…運命の女神だったか? まぁ、いいか…。バレたらバレたで説明しよう…。教会もあったし、ひどい扱いは受けないだろ…。

「いや、なんでもない。時間もないし船の中に入ろう…」

「そうですね…。よいしょっ!」


 僕達は船の中に入りハシゴを降りていくと、通路にはシャルが立っていて心配そうにこちらを見ていた。

「ぶっ、無事でよかったよー」

「ごめん…。心配かけて…」

「いいんだよ。あっ、あれ、その子、誰!? ルアは一緒じゃないの!?」

「えーと…ルアは…」

「なにかあったの!?」

「いや、そうじゃなくてだな…。実は…」

 …ここは正直に話すか……。

 僕は罵声を浴びせられる覚悟でルアの正体が僕だという事と、もう会えない事を話した。


「そうだったんだ…。確かに急に現れておかしいなとは思ってたんだけど…。まあ、無事ならいっか…」

「…無事? あいつは…」

「正体はアルなんでしょ? なら、無事だよ」

「…俺の説明、聞いていたのか? あいつは俺が…」

「…アルは嫌だった? この世界にきて…」

 悲しげな表情をしながらシャルは急に妙な質問を僕にした。

「まあ、嫌な事もあったけど、それだけじゃないっていうか…。…それがどうしたんだよ?」

「そっか…。なら、ルアもそういうと思うよ」

「……」

 確かにそんな事をいっていた。でも、あれは俺の為に嘘をついていたのではないかと思ってしまう…。

「…どうしたの?」

「いや、なんでもない…」

 それでもあの約束だけは守りたい。あいつとの約束だけは…。

 僕は通路を進み操縦室に向かっていった。


「…みんなは?」

「…あっ!」

 シャルは何故か立ち止まり、オドオドして僕にしがみついた。

「…これじゃ歩けないだろ? …どうしたんだ?」

「じっ、実はね…。シオン様が暴れてるの…」

「シオンさんが暴れてる!? なんで?」

「わっ、わかんないよ! アルを助けにいってから様子がおかしいの…」

「…シオンさんはどこに?」

「…わっ、わかんないよ」

 僕は急いでフロアに走って行くと、そこにはノスクやエリックが床にバタンっと倒れていた。


「…大丈夫か!?」

 僕は二人に声をかけると痛そうな顔をしてゆっくりと起き上がった。

「…ひどい目にあったにゃ」

「…同感だな」

「…なにがあったんだ?」

 二人は顔を見合わせると困ったような顔をしていた。

「うーん…。多分、アルのせいだにゃ…」

「おっ、俺!?」

「…だな。俺もそう思う…。下のフロアで待ってるってことを伝えておけって言ってたし…。ちゃんといってくれよ…。おっ、俺は伝えたからな…」

 …なにかしたか? 

「…ケガはないのか?」

「大丈夫だにゃ…」

「でも、疲れたからソファーで寝とくよ…」

 二人はヨロヨロとソファーに寝っ転がりスヤスヤと眠りだした。僕はそれを見ると少し安心し、操縦席に向かうと見慣れたエルフの女の子が座っていた。

「アリス、色々と本当にゴメン!」

 くるりと椅子が回転し操縦席に座ったアリスはこちらを見て、ため息をついた。

「色々といいたいことがあるけど今はやめとく…。ほっ、ほんとにいっぱいあるんだからね!」

「ごっ、ごめん。アリスは知ってるか? シオンさんが怒ってる理由…」

「うーん…。わかんないよ…。でも…」

「…でも?」

 アリスはうつむいて考えたあと、大きなモニターへ目を向けた。

「あのモニターをみてからかな」

「…なにが映ってたんだ?」

「だから、アルだよ…」

「…おっ、俺?」

 俺が映ってた? なっ、なにかしたかな…。

「誰かがアルの無事な顔がみたいって拡大して…。確かその後…」

「…その後、なにがあったんだ?」

「…なにもないよ」

「なにもないって…。なにかあったから怒ってるんだろ?」

「でも、本当になにもないんだよ。アルが笑ってたからみんなで喜んでたんだけど…。様子がおかしいかったのは、あの辺からかな」

「…全然わからないな」

 僕は考えてみても、なにも思いつかなかった。話だけ聞いていればシオンさんが怒る理由なんてなにもない…。そう思っていた時にアリスがつぶやいた。

「そっか…。もしかしたら、シオンさん…竜族にもひどいことされたのかもしれない」

「…なんの話?」

「なんの話って…。アルがいってたんでしょ? 神族の国の近くから魔族に追われて逃げてきたって…。もしかしたらその時に…」

「…えっ!?」

「…どうしたの?」

「いっ、いや…」

 僕は頭を押さえて近くの椅子に座った。

 なんで…なんで…俺は忘れていたんだ…。そんな大事な事忘れないだろ…。リアヌスはシオンさんの仇じゃないか。

「どっ、どうしたの!? もしかして、怪我してるの!?」

「ちょっ、ちょっと、立ちくらみがしただけだよ」

「そう…なの?」

 なんだか、そこの記憶だけモヤがかかったような感じがする…。…いや、そこの記憶だけじゃない。

「アリス、俺と初めてあった時って…。なにしてたかな…」

「なにって…私をゴブリンから助けてくれたんじゃない…。…ねえ、どうしたの? 急にそんなこと聞いてきて?」

 

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