第156話

「…姿?」

「召喚したんじゃないのか? こんな感じで、イフリート!って? …ん?」

 僕が右手をあげると、リアヌスの体から赤い光が飛びだし可愛らしいトカゲのようなものが現れた。

「なんだ、これは?」

 …もしかして、僕が召喚したのか?

 神様はちょこんと僕の脇腹をつつき小声で話しかけてきた。

「なっ、なんですかこれ!? 貴方、こんな事ができるんですか!?」

「まあ…」

 神様を見ると開いた口が塞がらないほど驚いていたようだった。僕はトカゲのようなものに話しかけた。

「…君は精霊?」

「……」

 無言か…。いや…。

「ノームやヴォルトみたいに話せない感じの精霊か……」

「そうだ…」

「……」

 …今、話したよな。

「リアヌス、さっさと行くぞ…」

「…話せてんじゃねえか!」

 僕は去ろうとしているトカゲのような精霊に話しかけた。その精霊は嫌そうな顔をしながら、振り返って再びこういった。

「…話せない」

 なんなんだこいつ? 変わった奴だな。いや、そうか…。

「わかったよ…。…じゃあ、俺はいくよ」

 僕は神様の手を握って飛行船に行こうとすると、慌ててリアヌスが声をかけてきた。

「おっ、おい!? 説明もなしにいくのか!?」

「僕が説明するより、直接聞いたほうが早いよ」

「そっ、そうなのか?」

「うん…。色々と知ってそうだから、僕が戻るまで聞いておいてよ…。じゃあね…」

 僕は神様の手を引っ張り、空へ飛び立つと神様は僕の袖を何度も引っ張った。

「あっ、貴方、空を飛べたんですか?」

「うん…。やっぱり、フルスキルフルがなくなっても、ある程度の魔法は使えるみたいだ」

 まあ、飛び心地は少し悪いが…。

「わっ、私のいるメリットが…。すっ、捨てちゃダメですからね!」

「……」

「なんで、返事がないんですか!?」

「じょ、冗談だよ…」

「なっ、ならいいんですけど…。それより、よかったんですか? あの精霊に話を聞かなくて?」

 僕は下にいるリアヌス達を見て答えた。

「多分、神様がいるからなにも答えてくれなかったんだ」

「そっ、そうなんですか? それならそうといってくれれば、どこか遠くに移動したんですが…」

「いや、あの感じだときっと僕も疑われてるみたいだったし別にいいよ。そんなことよりも、いつから俺の様子をみてたんだ?」

 ピンク色の髪を揺らしながら焦った様子で神様は答えた。

「みっ、みてはいません!」

「……」

 僕は黙ったまま神様の目をジッーと見つめた。しばらくすると諦めた様子で神様はため息をついた。

「はぁ〜…。じっ、実はその金色のブレスレットは貴方の心が読めるようになっているんです」

「ふーん…」

「でっ、ですけど! ずっと心を読んでいたわけではありません…。でも、そんな大事なこと黙っててごめんなさい」

「…それで?」

「…あっ、あれ? おっ、怒らないんですか?」

「怒らないよ。頼んだの俺だし…」

 まぁ、今思うと悪い事の定義ってのも難しい気もするな…。

「じっ、実はある時に変なノイズが聞こえるようになり始めたんです」

「よっと…。…変なノイズ?」

 僕は船のハッチ付近に降り立ち止まった。

「はい…。最初はあまり使ったことのない魔法なので、そういうこともあるのかと思っていたんですが…。あれは今思うと黒騎士…。いえ、シャドウが貴方に接触していた時に起きていたのかも知れません」

「なるほど…。それが気になって調べてたってことか…」

「いえ、違います」

「ちっ、違うのか?」

 僕はガクンっと肩を落として返答を待ったが、神様はなかなか答えてくれなかった。

「……」

「どうしたんだ?」

「その…怒りませんか?」

「…内容による」

「…でっ、ですよね。実は…」

 神様は下を向きゴニョゴニョとなにかを言いだした。

「なんだよ? 全然、聞こえないんだけど…」

「その…正直にいいますと…。貴方が世界を滅ぼす未来が見えたその少し後にノイズが聞こえて…。何故か勝手に魔法が発動して心の声が聞こえ始めてから…。そこからは特に悪い事も、考えていたわけでもないのにずっと聞いてました」

 なるほど…。割と最近ってことか…。

「…それで?」

「おっ、怒らないんですか!? 貴方のことを信用してなかったんですよ!?」

「…まぁ、いいんじゃないか?」

 実際、その未来にならなかったとはいい切れない…。でも、神様が見てくれていたのなら、やはりあの未来は可能性がかなり低いのだと思う…。というかそう考える方が心が救われる。

「貴方って達観しているんですね。絶対に怒られると思ったのに…」

「いや、ずるいだけだよ」

「そんなことはありません。貴方はとっても優しい人です」

「…じゃあ、優しくてずるい人間だな」

「そっ、そんなことは…」

 神様がなにか言っていたが、気にせず僕は移動してハッチのロックを解除した。

「まぁ、他にも聞きたいことがあるけど…。えーと…。…神様の名前ってそういえばなんなの?」

「私の名前ですか? 私はノルンといいます」

「ノルンか…」

 

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