第144話

「じゃっ、じゃあ、神族の国からでていってくれるんですね?」

「君が本当に望むのならね…。…まあ、その話はあとだ」

 男は剣を拾いあげ僕の鞘に入れたかと思うと急に抱きついてきた。

「あとって…。なっ、なにするんだ!?」

「…ミリア、後はよろしく頼むぞ」

 赤髪の男は抵抗する僕を抱きかかたまま、宙に浮き天井の窓ガラスを割って空に飛びだした。


「はっ、離せ! どこに連れてく気だ!?」

「どこって決まってるだろ? 私の国だ…。今からとばして一日ってところか…。…急ぐぞ」

「おっ、おい!? …なっ、なんだ、あれ…雲? いや、違う…」

 目の前には黒い雲のように集まったモンスターや魔物の大軍がこちらに向かって飛んできていた。

「毎年毎年、恒例行事のようにやってくるな…。ただ、今年はやけに多いようだ…。まあ、君のせいだろうがね…」

「…俺のせい?」

「君が神族の王だとかバカなこというからだよ…。しかも、あの場でね…。あの中には魔族に情報を垂れ流しているものもいるんだから、次からは気をつけるんだよ」

「おっ、俺のせいで…」

「そんな顔をするなよ。まあ、大丈夫さ…」

 男は片手をあげて先程の赤いオーラと電撃を混ぜ合わせ、敵の大群に向け解き放つとあっという間に灰となった。

「凄い…」

「私もそう思うよ」

「変な事をいうんですね…。まるで、自分の力じゃないみたいに…」

「実はこの力を手に入れたのは最近でね。まあ、詳しい話は飛びながら話すか…。ここに君がいたら、また敵がきそうだしね」

 赤髪の男が周りを確認していると、不気味な声が聞こえてきた。

「ゲヒヒヒ…。もうきているんだけどね…」

「なるほど…。どおりでさっきからドブの匂いがするわけだ」

 声のする方を見るとカマを持った死神のような男が空中に立っていた。赤髪の男はそれを見ると、なぜか海面に炎の球体を連続発射し水柱をあげた。

「おっと、流石に二度は通用しないか。ハハハッ…残念…」

「…なら、現われたらどうだ?」

「ゲヒヒヒ、君のそういうところも好きだよ…。まあ、今日は挨拶にきただけだからすぐ帰るよ」

「…吐き気がするな」

 僕は目の前の相手に警戒しながら赤髪の男に尋ねた。

「…あいつは誰なんだ?」

「あいつは最後の四天王…サーティスだ…。…私が最も殺したい男だよ」

 赤髪の男が名前を告げると死神のような男は笑いながら否定した。

「ノーノーノー! 残念! 名前はあってるけど僕ちゃんはもう四天王じゃないんだよね…。魔王サーティスさ…。以後よろしく…」

 …こっ、こいつが魔王!? でも、いま変なこといってたな…。もう、四天王じゃないって…。…どういう意味だ?

 僕は無言で敵を見つめていると、殺気を放ちながら赤髪の男は口を開いた。

「…お前が魔王だと? おかしな事を…。…本物の魔王はどうした?」

「だからね…。僕ちゃんが今の魔王なんだよ…。その意味…わかる? フフフッ、ヒヒヒッ、ゲャハハハハハハ…」

「……」

 こっ、こいつが魔王を倒したのか!? あの魔王を!?

 目の前の不気味な男は黒いマントをヒラヒラさせながら腹を抱えて笑っていた。

「まさか、お前ごときがあの化物を倒したのか?」

「あれは僕ちゃんでも倒せないよ…。だから、二度とでてこれない空間に閉じ込めたんだ…。あいつの最後の顔、君にも見せたかったよ…。全て君のおかげさ…」

 男は鎌の先についた小さな槍を赤髪の男へ向けた。

「…私のおかげだと?」

「ああ…。邪魔な四天王を排除してくれた…。君の…もしくは君の…だね」

 死神は気持ちの悪い笑みを浮かべ僕の方を見ていた。僕は油断していた赤髪の男の手を振り払い空中に浮いて剣を抜いた。

「…挨拶が終わったんなら、とっとと帰れよ」

「…君もいいね。コレクションに加えたいな。おっと…そうだった…。今日は、君達二人にお礼のプレゼントがあるんだ…。きっと気に入ってくれると思うよ。グヒヒヒヒヒヒッ」

 死神のような男はポケットからカードのようなものをとりだし僕達の方に投げつけてきたが、赤髪の男は赤い火の玉を放ち即座に焼き払った。

「...お前の茶番に付き合う気はない」

「リアヌスーひどいじゃないか! せっかくプレゼントしたのに...僕ちゃん、泣きそうだよー。グヒ... グヒヒヒヒヒヒ...なんてね、君達のポケットに入ってるよ」

 死神のような男はわざとらしく泣き真似をしたあと僕の胸ポケットを指差した。

 …ポケット? …なんだこれ?

「…ジャックのカード?」

「…私はキングか」

 死神のような男はゲラゲラ笑い焦点のあってない目をしていた。

「ゲヒヒヒヒ…。リアヌス、あの時の事は悪かったよ。仲直りしよう…。君には僕が作る軍の幹部になってほしいんだ」

「断る…。こんなカードなど燃やして…。…ちっ! だめか…」


 

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