第134話

「…よしっ、完成だ! ポテチも、もう少ししたらできるぞ…。楽しみだなー…。よし、先にハンバーガーを…。…あれっ? そういえば、さっきの人どこにいったんだろう…」

「…ここにいるぞ」

「わっ! びっくりした」

 声のする方を向くと、赤髪の男が入口付近の床に座っていた。

「君が実に料理を楽しそうに作るから邪魔しちゃ悪いとおもってね…」

 赤髪の男は足に手を当てて、ゆっくりと立ち上がった。

「そうだったんですね…。でも、なんで床に? ここに椅子ありますよ?」

「その椅子じゃ、少し強度がたりなさそうでね…。自分の部屋まで取りに帰ろうとしたんだが…。…迷子になりそうで戻ってきたんだ」

 強度か…。割と丈夫そうにみえるけど…。

「そうだったんですね…。こっちに入ってください。できましたよ」

「まぁ、壊してしまったら弁償すればいいか…。…どれどれ? 確かに見たこともない料理だ…。…もう食べてもいいかい?」

「待ってください! もうひとつドリンクがあるんです。コップをお持ちしますのでもう少しお待ちください」

 僕はコーラをバックから取り出したが、一つ困ったことに気がついた。

 そっ、そうだ…。忘れてた…。魔法うまく使えるかな…。いや、いけるはずだ…。なによりあそこにはコーラがないとダメだ!

 僕はいつも飲んでいるあの黒くて炭酸まみれの美味しいコーラをイメージして魔法を発動した。


「……」

 できてるかな…。

 僕は恐る恐る瓶のフタを外すとシュワシュワと泡が飛びだしてきた。

「…よかったー」

 どうやら簡単な魔法は問題なく使えるようだ。まあ、神様の装備のおかげだろう。

「なにがよかったんだ?」

「いやーこのドリンク、魔法を発動して作るんです」

「ほう…。それはまた新しい…」

「少し刺激があって、おいしいんですよ」

 僕はそう言いながらコーラをコップに分けた。

「…ん? 君も食べるのか?」

「はい、毒味です」

 早く食べたかったのでサラリと僕は嘘をついた。

「なるほど…。では、いただこう…。そういえば、この料理名は?」

「これがハンバーガー、これがフライドポテト、そしてこれがコーラです。そうですね…。テーマは三種の神器です」

「ほう、三種の神器か…。なかなかすごそうなな名前だ。それではいただこう…」

「パクっ…。……うみゃい」

 僕は一口それを入れるとあまりのおいしさに感動していた。料理漫画だったら体中から光が飛び出ているだろう。

 こんなに美味しいハンバーガー食べたことない…。この肉…口の中でチーズと一緒にとろけてるし…。このふんわりと焼けたパンの焼き加減…。そして、カリッカリッの手の止まらなくなる塩味のきいたフライドポテト…。キンキンに冷えたシュワシュワのコーラ…。生きてて良かった…。

 僕はあっという間に完食してしまい、お腹を触りながらふと隣をみた。


 この人、どうしたんだろう…。黙って…。

「……」

 その人物は一口だけ食べて、固まったようにハンバーガーをみつめていた。

「あの…おいしくなかったですか?」

「すまない…。少し静かにしてくれないか…。本当においしいものは静かに食べたいんだ…」

 赤髪の男はそれから本当に一言も話さず、ムシャムシャ料理を食べ始めた。

「……」

 まあ、それならいいか…。僕もそういうタイプだし余韻に浸っておこう…。…っといけない。忘れるところだった。そろそろポテチができあがる時間だ。

 僕は立ち上がり厨房の方にいくと、ポテトの香ばしい匂いが広がっていた。 


「もうちょっとかな…」

「…次はなにがでてくるんだ?」

 赤髪の男は背後に立ち鍋の中を覗いていた。

「…うぉっ! …びっ、びっくりした…。いや、これは個人的なものなんでだすつもりは…」

 赤髪の男は僕の肩を抑えてモミモミしだした。

「そんな事をいうもんじゃない…。…一口くらいいいだろ? …なっ?」

「いえ、その一口が命取りなんですよ。これには中毒性があるんです…」

 僕は悪い顔をしながら鍋の中を掻き混ぜた。

「なにっ!? 毒なのか!?」

「いえ…そうじゃないですけど、あまりにおいしすぎて止まらなくなるんです。しかも、さっきのコーラと飲むと最高に美味しすぎて…。まさに悪魔のコンボですよ…」

 赤髪の男は顎の辺りを触りながら言った。

「うーむ…。そういう事か…。…ちなみにさっきのと、どっちがおいしいんだ?」

「甲乙つけがたいですね…」

「うーむ…うーむ…。困ったな…。本当に食べたいなー…。食べれなかったら会談中、気になりすぎてボッーとしてしまうかもしれないな…。とんでもないこといいそうだな…」

「…きょっ、脅迫ですか!?」

「脅迫ではない…。事実だ」

 赤髪の男は笑いもせず真面目な顔をしていた。

「じゃっ、じゃあ、ちょっとだけですよ…」

 僕がそう答えると目をキラキラさせながら子どものように無邪気に笑った。

「ほっ、ほんとうか! 君はなかなかいいやつだな。ちなみに、なんて名前のお菓子なんだ?」

「名前ですか? ポテトチップスですよ。よし、そろそろできたかな…。後はこれをすくい上げて、調味料をかければ完成です」

「そっ、そうか! …むっ!」

 

 

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