第133話
「…じゃあ、つけますね」
「つけるのは、まずっ…。…つける?」
部屋の明かりがつくと、周りには調理器具と食材が沢山置かれていた。どうやら目的地についたようだ。
「さて、初料理頑張りますよー! って人に注意して大声だしちゃうなんて…。って、あれ? …どうかしましたか?」
「いえ…」
ほんとすいません…。私の心は汚れていました…。
「そうですよね…。ごめんなさい…。私、浮かれちゃって…。実は連日の会談でコックさん達が疲れ果てて、私が作ろうと思ったんですけど…。やっぱり…。グスッ…。私なんかの料理食べたくないですよね…。起こしてきます…」
「ちっ、違うよ! めっちゃ食べたいよ」
「そっ、そうですか!? じゃあ、作りますね」
彼女は食材を不器用に切り始め、鍋に水を入れて食材をどんどん入れていった。料理があまりできない僕でもわかる。かなりとんでもないものができそうだった。
「こっ、これは…」
「さあ、食べてください!」
その後、食べた料理は満腹感のある個性的な味がした。けっして…まずいわけではない…。本当に…。
「…どうですか?」
「おっ、おいしいよ…」
「そっ、そうですかー。よかったー…。まずいって、いわれたらどうしようかと思ってました。私、もしかしてセンスあるのかなー。料理人目指そうかな〜」
「がっ、頑張ればできるかもね…」
裏スキル…個性的な創造…っとこかな……。そうか…。あいつが言ってた否定できるってそういうことなのか…。確かに裏スキルのように決まっているという認識さえしなければ、努力次第で料理だって上手くなれるんじゃないか…。
「…じゃあ、私はシオン様のところに行ってきます! ゆっくり食べてくださいね」
「うっ、うん」
アナスタシアは大量の料理を持った後、大きなカートに乗せてシオンさんのところへ向かっていった。
「…とめなくてよかったよな」
そんな事を思っていると急に扉が開き、声をかけられた。
「…なあ、君?」
振り向くと赤い髪の男性が眠そうに立っていた。金色の腰帯をしていて、高そうな服を着ている。もしかして、貴族なのかもしれない…。
「はっ、はい」
「…君は料理人かい?」
「いや、俺は料理人じゃ…」
まずい…。この格好をしているのに料理人じゃないって言ったら怪しまれるんじゃないか? みたところエルフではないし…。どうしよう…。
「おっ、俺、料理人じゃなくて見習い…。そう…。料理人の卵なんです」
「…そうなのか? まあ、見習いでもいいか…。…多少なにか作れるんだろう? もう一眠りしようかと思ったんだが、腹が減ってしまってね…。悪いんだけど、なにか作ってくれないか?」
まずい事になった…。でも、断れないし仕方ないか…。
「ええと…。…味はそこまで保証できませんけど、よろしいでしょうか?」
僕が尋ねると赤髪の男はあくびをしながら答えた。
「ふぁ〜…。まあ、こんな時間に作ってもらうんだ。食べれれば気にしないよ…」
「難しいものとかできないんですけど、一応リクエストとかありますか?」
「うーん…。見たこともない料理かな」
…さっき、あったんだけどな。
「わっ、わかりました。では、あそこの席に…」
「ここで見ていたいんだ…。こういう経験はあまりないんでね…。まあ、立ってるのもだるいし、椅子だけその辺から持ってくるか…。ふぁ〜…」
赤髪の男は眠そうに厨房からでていった。
…今なら逃げれるか? うーん…。貴族っぽいし、後でまずい事になるかもしれないな…。
「仕方ない…。なにか作るか…」
でも、レシピもないし、見たこともない食材ばかりだし、なにをどう作ればいいんだろう…。見たことない料理か…。僕にとっては、この世界の料理全部見たことないんだけどな…。
僕は辺りを確認しながら、小声でステータスを呼んだ。
「ステータス…」
「はい」
「…一応聞くんだけど、料理のレシピってだせる?」
「解析中…。今まで食べた事のある料理であれば表示可能です…」
「まじか! 有能だな…」
「ありがとうございます」
今まで食べた料理か…。この世界に来て食べた料理、なにがあったかな…。…ん? いや、待てよ…。それって…。
「ハンバーガーとかフライドポテトとかも作れるのか!? あっ、あと、ポテトチップスも!」
「代用品を使用しての作成になりますが、可能です」
「そっ、そうなのか!? いや、でも確かパンの発酵って時間がかかるんだよな…。別のにしないと…」
「すでに誰かが仕掛けてあるようです。三十分程度あれば作成可能です」
「えっ?」
「下の方です」
僕は食材が置いてある場所をくまなく探すと、大量のパンの種を見つけた。
「…あっ、あった! よっ、よし! 作るぞー」
僕はテンションマックスでポンポンポンと作っていった。自分の分と共に…。
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