第132話

「誰もいないな…」

「…みたいだな。うーん…。まだ、みんな寝てるんだろう…。起きるまで、この部屋で待ってよう」

 僕とシオンさんが椅子に座って待っていると二人してお腹が鳴った。

「お腹が減ったな…」

「確かにな…。白猫にお弁当をもらったんだが、全部食べてしまったし…」

「…全部?」

 僕はジーとシオンさんの顔を見ると、焦っているようだった。

「いっ、いや…。のっ、残そうと思ったんだけど…。君も起きないし、お腹が減って力がでないと困るし…。なんか腐りそうだったからさ…。その…ごめん…」

「…食いしん坊だなー」

「くっ、食いしん坊などではにゃい! …ん?」

 シオンさんの目線の先を見ると一人の可愛いメイドがたっていた。

「…君はアナスタシアさん?」

「おっ、覚えててくれたんですね!」

 そういいながら素敵な彼女は僕に抱きついてきた。僕はちょっとだけ抵抗した。流石に突き飛ばしたりしたら危ないと思ったからだ…。

「…ちょっ、ちょっと!?」

「ごっ、ごめんなさい!」

「いやっ、あのっ…。まあ、いいんだけど…。…アナスタシアさん、俺達になにかようなの?」

「あっ、忘れるところでした。皆さんにお食事を持ってこようと思ったのですが…。なにかに食べたい物がありますか?」

「食べたい物か…」

 食べたい物といっても…。なんていったらいいかわからないな…。

「もしかして…わたしですか?」

 彼女はそんな冗談をいった後、上目遣いで僕の頬をつついた。

「ちっ、違うよ! ついていっていいかな…。食べたい物、思いつかなくて…。メニューがみたいんだ」

「あっ! すいません。持ってくるの忘れてました。じゃあ、一緒に行きましょうか…。…あっ!」

「…どうしたの?」

「ちょっと待っててくれますか? 変装してもらわないといけないので…。なにか借りてきます。…すぐ持ってきますね!」

 彼女は僕から離れると早歩きで変装道具を取りにどこかへ行ってしまった。


「ちょうどよかったよ…。ねっ、シオンさん?」

 シオンさんの顔を見ると頬に手を置きながら、ジトッーとした目で僕を見つめていた。

 聞こえてなかったのかな…。

「シッ、シオンさん、なにが食べたい? 持ってきますよ」

 僕がもう一度問いかけると、シオンさんは僕のモノマネをしながら答えた。

「いやっ、あのっ…。まあ、いいんだけど…か…。君、すごい嬉しそうだったね…。それに私についてきてほしくないみたいだ…」

「そっ、そんなことないよ!」

 僕は片手で横に手を振りながら否定したが、全然信用してくれている目ではなかった。

「はっ、離れて!とか、いうのかと思っていたんだけどな…。本当に君は見境なしのニャッツリだよ…。…本当にニャニャニャーナーニャッナニャッツリー」

「シッ、シオンさん、最後なんていったの?」

 シオンさんは聞いたこともない猫語を話した。きっと悪い意味だろう。

「別にーなんでもないさ…。ほら、来たみたいだよ…」

「えーと…シオンさんもくる?」

「…いや、いいよ。なんでもいいから大量に持ってきてくれ。邪魔はしないからさ…。ごゆっくりー…」

 シオンさんは呆れて反対側を向いてしまったようだった。

「お待たせしましたー! あれー? どうかしましたか?」

「いっ、いや、別にって…。…なに、その服?」

 アナスタシアさんは僕の頭に白い帽子を乗せて衣装を広げた。

「見てのとおりコックさんです。厨房に行っても怪しまれませんからね。服の上からでいいので着てください」

 僕は白い服に袖を通すと、少しだけコックさん気分になった。


「…どっ、どうかな?」

「すっごい似合ってますねー! なんか威厳があって、かわいいですー」

「そっ、そうかな?」

 僕がそんなことをいうと、こっちをみてシオンさんがボソッと呟いた。

「…やっぱり私もいこうかな?」

「…シオンさんもきます?」

「…いや、やっぱりやめとくよ。でも、お腹がすいてるから早めに持ってきてくれ。…早めにな!」

「わっ、わかってますよ」

 僕は薄暗い城内をアナスタシアさんと共に歩いていった。


「…ねえ、アナスタシアさん? その…変な事聞いてもいいですか?」

「うーん…。…えっちなことですか?」

 アナスタシアさんは笑いながら冗談のようにいったが、僕は声をつまらせてしまった。

「ちっ、違うよ! ごっ、ごほん…。あのさ、アナスタシアさんは人間とのハーフエルフなの?」

「そうですよ…。ですから、人間との恋愛も全く気にしません…」

「へぇー…」

 やはりそうだったのか…。シルフィと同じ黒髪のエルフだったからもしかしてと思ったけど…。……え? 最後なんていいました?

「あのー…。…最後、なんて?」

「…こっち、きてくれますか?」

 僕は手を引っ張られドキドキしながら暗い部屋に入った。

 …なにをする気なんだ。もっ、もしかして!?

「アッ、アナスタシアさん!?」

 アナスタシアさんは僕の口を人差し指で抑え、耳元にささやきながら部屋の扉を締めた。

「シッー…。静かにしててくださいね…。あんまり大きな声だしたら、怒られちゃいますから…」

「えっ、なっ、なにを!?」

「静かに! この部屋勝手に使うだけでも怒られちゃうんですから…。こっちきてください」

「…えっ?」

 アナスタシアさんの顔を見ると暗がりだが、赤く照れていた。

「…あと…その…初めてなんで…わっ、笑わないでくださいね」

「ちょっ、ちょっと待って…。まっ、まずいって! 流石に…」

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