第131話

「……」

 ステータスをルールとするならばルール自体には良いも悪いもない。だから、表示されてないのか?

「…ん?」

 違うな…。そういえばシャルがスキルとして持っていたし、僕自身もあの姿になった時、ステータス可視化のスキルが表示されていた。って事は、あの女魔人も通常のスキルで持っていたって事になる…。

「うーん…」

 良い悪いというルールでいけば、ステータスは僕にとって良くも悪くもない能力? でも、単純に良い悪いってことならレベルの上がり辛いスキルは裏スキルに表示されてないとおかしい…。なら、ルールは……。

「…そっ、そうか! わかったぞ!」

「にゃっ、にゃにが!?」

 シオンさんは驚いたような声をだした。勘違いさしてしまったのだろう。

「ごっ、ごめんなさい。考え事をしてて…。つい、独り言が…」

「そっ、そういうことか…。びっ、びっくりしたよ…。そっ、それで、なにがわかったんだ?」

「実は…」

 いや…やっぱり違う…。それだとおかしい…。

「…どうしたんだ? …っていうか、誤魔化すためにいってるんじゃないよな?」

「ちっ、違いますよ。猫柄のパンツなんて見てないですって…」

 僕は冗談をいうと、しばらくしてカチャンと剣を抜く音が聞こえた。

「ほう…」

「シッ、シオンさん冗談ですよ…。こっ、こっち向いて布団かぶってどうやって見るんですか!?」

「君なら見れるだろ…。幽霊になれるスキルで…」

「本当に見てないですって! 証拠に…」

 そうだ…。シオンさんにいわないといけない事があったんだ…。

「ははっ、冗談だよ…。君がからかうからいけないんだぞ…。…って、黙ってどうしたんだ? ごっ、ごめん、ちょっとやりすぎたかな…。もう、布団取っていいよ」

 僕は重たい布団をゆっくりと外して、正座してシオンさんに謝った。

「ごめんなさい…」

「ほっ、ほんとにみたのか!?」

「ちっ、違います! …そうじゃなくて、シオンさんに伝えないといけない事があったんです」

 唐突にシオンさんと目を合わせたくない気持ちになったが、胸が締め付けられるような思いを我慢しながらシオンさんの目を見て真剣に話した。

「…なんだ? そんなにあらたまって…」

「…裏スキルが全て盗られてしまったんです。幽霊になれるスキルも…。もしかしたら、シルフィを救えないかも知れない…。いや、シルフィだけじゃない…。みんな…」

「……君が謝ることじゃない。でも、どうしてそんなことに? 君に一体なにがあったんだ?」

「…隠しても仕方ないし、この際だから全部いいます。皆にも後で…。こんな事、信じられないかもしれない。でも、聞いてください…」

 僕は全てを話した…。僕が破滅に向かうこの世界を救いにきた転生者であること…。なにかに裏スキルを奪われ、更に悪魔のスキルも封印されてしまったこと…。そして、あの残酷で地獄のような消えてしまった未来のことを…。


「…それで…君の裏スキルを奪って、黒騎士はなにをするつもりなんだ?」

「…えっ? 信じてくれるんですか?」

 僕はあまりのひどい内容に殴られても仕方と思っていたので驚いていた。

「当たり前だろ…。まぁ、君じゃなければ信じてないけどね…。…というか、シャル姫がボソッといってたんだ……。君の裏スキルが全部消えてるって…。嫌な予感がしてたけど、やっと意味がわかったよ…」

「……あいつは、多分…竜族を皆殺しにするつもりです。その後は…」

 僕は下を向くと、シオンさんは優しく背中に手をおいてくれた。

「その後の話はいいよ…。なんとなく想像がつく…。でも、おかしいな…」

「…おかしい?」

「もし、そんな事になっているのなら竜族だって、こんな会議に参加してる場合じゃないはずだ。あれから一週間以上たっているのに、まだなにも起きてないんじゃないのか?」

「確かにそう…ですね…」

「…どういう事なんだろうな?」

 僕は馬車に揺られながら、あいつがこれからする行動を考えた。僕と同じ道を踏襲するというなら、あの思い出したくもない未来と近い行動をするはずだが…。

 確かにおかしい…。できるならもうやってるはずだ…。もしかして、まだできないのか? それとも…。

「…神族の国って、竜族と魔族が支配しているんですよね?」

「いや、今は竜族だけのはずだ…。魔族にはもう価値のない国になっているからね…」

「…勝手に入ることって、できるんですか? 例えば飛空艇に乗って行けば、ばれませんか?」

「それはやめておけ…。竜族には空を飛べる種もいる…。…みつかれば面倒くさいぞ」

「でも、あの夢の中では飛空艇に乗ってました…。それにみんなの様子を見ると密航ってかんじじゃなかったんです…」

「じゃあ、竜族の許可を取ったって事になるな…。…でも、どうやって?」

 僕はあの消えた未来のことを最初から思い出していくと、抜け落ちたピースに気がついた。

「……そうか…そういうことなのか? もしかして、竜人達が俺に会いたい理由って…」

「…ん? 馬車が止まったようだな。どうやらついたようだ…」

 シオンさんは立ち上がり小窓から周りを覗いていた。僕は準備をしたあとに声をかけた。


「降りましょう…」

「ああ…。でも、降りる前に聞かせてくれ…。…強いから竜族達に目をつけられてるんじゃないのか?」

「それもあると思います…。でも、その強さが伝わるとしたらあの件しかないんです…」

 恐らく間違いはない。そう…エルフの城が大きく破壊されたあの一件…。あの事件を竜族達が見ていたんだ。

「そうか…。黒い魔物か…」

「黒い魔物が他にいてもおかしくない…。竜族達は…俺に黒い魔物を倒させたいんです」

 僕は奴らの事を考えるだけで虫唾が走り、歯を食いしばった。

「なるほどな…。エルフの国が交渉を有利にしたいのなら十分ありえる…」

「きっと…あいつも先に黒い魔物を倒す気なんです…。更に強くなる為に…」

「…なら、私達が先に倒せばいい」

「…えっ?」

「…だってそうだろ? 私達ならできるさ…」

 シオンさんは少し笑いながら言ったが、そのシンプルな答えに僕は納得してしまった。

「確かに…そうですね…。あいつを止めないと! 城に急ぎましょう!」

 僕達は馬車から降りると兵士達に連れられ、窓もない頑丈そうな部屋に案内された。

 

 

 

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