第129話
「…いたっ! …ここは?」
僕はガタンっと体が揺れ起きた。起き上がると硬いベッドの上に寝かされていた。
…どこだここ? …揺れてる? なんか馬の鳴き声が聞こえる…。そうか…。馬車の中か…。
「…おきたかい?」
声のするほうを向くとランプの光に薄っすらと照らされてシオンさんの姿が見えた。
「シオンさんか…。ごめん…。なんか色々と迷惑かけて…」
「まぁ、気にするなよ」
「…城に向かってくれてるの?」
シオンさんは少し間を開けて答えた。
「行く気は全くなかったんだけどね…。ただ、実はあれから色々と動きがあって…。君も行きたがっていたから仕方なくだよ…」
「…動き?」
「手紙がきたんだ。国王から君あてにね。悪いとは思ったけど、君も寝てたし読まさせてもらったよ…」
シオンさんはポケットから封の空いた手紙を取りだして僕に手渡した。
「別にいいですよ…。…それで、なんて書いてあったんですか?」
「どうやら…君が王国会議にでなければ竜人達は帰らないといいだしたらしい…。それも割と早い段階でね…」
「なんでそんな事に…。…っていうか、その王国会議ってなんなんですか?」
僕が尋ねるとシオンさんは頭を掻きながら少し困ったように答えた。
「うーん…。まあ私もよくは知らないんだが、同盟国どうしで国の約束事なんかの取り決めを行うんだろう。…後は新しい同盟国の可否とかかな」
「…聞いてるだけだと、王族以外は関係ない話じゃないですか?」
「いや、大アリだよ…。まずい事に君の強さが伝わっているんだ…。要はエルフの王国…いや、エルフの国にいる君がドラゴンの王国にとって脅威となるか見定めたいんだろう…」
「そういうことですか…」
「ああ…。まあ、よくよく考えればあんな田舎の村に竜人がいた事自体がおかしかったのかもしれないな…。君を探しているんだろう…」
「なるほど…」
竜族が僕を…。僕のせいで…。
僕は拳を握りしめて下を向いた。なんともいえない気持ちを僕はどうすればいいかわからなかった。
「だから、王国に近づけば引き返すことも難しくなる…。手紙には、来る来ないは君に任せると書いてあった。今ならまだどこかに引き返してどこかに隠れることもできるけど…どうする?」
「…いきます……。時間がないんです…」
僕がそう答えるとシオンさんは椅子から立ち上がり隣に座った。
「…いいたくなければいわなくてもいいけど、時間がないっていうのはどういう事なんだ? それに、私の顔を見て驚いていたけど…。…もしかして、私のコピーに酷い事されたのか? それとも…私がなにかしてしまったかな?」
シオンさんは苦笑いをしながら聞いてきた。
「シオンさんは悪くないですよ…。悪いのは…俺なんです」
「…どういう意味だ?」
「……」
「ごめん…。止められてたんだ…。やっぱりこの話はやめ…」
「…俺が殺したんです」
いうつもりはなかった…。だってこんな事いっても信じてもらえない…。でも、それでもいいから誰かに聞いてほしかったのかもしれない…。
「…誰を?」
「シオンさんを…。いや、シオンさんだけじゃない…。俺が皆を殺して、それからっ…!」
僕は感情が不安定になり、何も考えず言葉だけを声に出していた。シオンさんはそんな僕を急にベッドに押し倒して、ギュッと抱きしめてきた。
「……落ち着いたかい?」
「……うん」
なんていえばわからないけど…とっても暖かかった…。
「こういう時は落ち着くまで抱きしめる事がいいらしい…。…白猫がいってたよ」
「…そうなんですね」
「……突然だけどさ。…実は私、女なんだ」
「えっ!?」
僕が驚いているとシオンさんは目があった途端に笑いだした。
「プッハッハッハ…。…って、いわれた方が君は嬉しいかい? それとも…男なんだって言われた方が嬉しいかい? …それとも…どっちも嬉しい?」
「まっ、前から気になってたんですけど、一体どっちなんですか?」
シオンさんはゆっくりと起き上がり隣に寝ころんだ。
「まっ、それは秘密だよ…。…でもさ、どっちにしても幽霊だったら抱きしめられないだろ?」
「…確かにそうですね」
「…君は悪夢を見てたんだよ。きっと…」
「いや、あれは夢なんかじゃなくてほんとに…」
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