第128話

「やっと笑ったね…。辛い事あったんだろうけど、落ち着くまでここにいたらいい…。宿代はお姫様につけとくから…」

「ありが…。…って、タダじゃないのか!?」

 僕はシルフィを追い出した報酬の事を思い出していると、白猫はニヤッと笑った。

「…あんたはタダだよ?」

「いや…そうだけど…。確か…好きなだけ泊まっていいって…」

「ああ、好きなだけ泊まっていいよ…。有料だけどね…。……嘘はついてないだろ?」

「あっ、あんまりいたら、アリスに怒られそうだな…」

 アリス…。そうだ…。アリスに謝らないと…。酷い事いっちゃったし…。

「はははっ、冗談だよ、冗談…。でも、真面目な話をするとね…。あんたはしばらくここにいたほうがいい…。今は…」

「…ん?」

 開きっぱなしの扉の方からチリンチリンと呼び鈴を鳴らす音が聞こえてきた。どうやらお客さんが呼んでいるようだ。

「下に誰かきてるみたいだねぇ…。…あんたのお見舞いだったら入れてもいいかい?」

「…ああ……」

「変な客じゃないといいけどね…」

 僕が返事をすると白猫は憂鬱そうに部屋をでていった。

 …そういえば、なんで宿屋にいるんだろう? 僕が気を失ってからなにがあったんだ…。…まっ、まさか、黒騎士に!?


 僕が不安に駆られていると、扉がゆっくりと開いた。そこには、見たこともない可憐な乙女が凛と立っていた。

「…誰?」

「だっ、誰って…。わたしだよ、わたし…。シオンだ…」

「…シッ、シオンさん!? …その格好は一体?」

 僕がまじまじと見ると、シオンさんは少し気まずそうにしていた。

「変な格好だろ…。変装だよ…。今、エルフの国に厄介な連中がきててね…」

「…厄介な連中?」

「竜人たちだ…。あいつらには顔を覚えられたくない…。外をみてみろ…」

「…外?」

 僕はカーテンを開けようとするとシオンさんに手を抑えられた。

「そのままみるんだ…」

「ああ…」

 僕がカーテンの隙間から外を見ると、でかい竜が村の真ん中に立っていた。辺りの住人は下を向きながら、そのドラゴンを避けて歩いていた。

「竜の頭の上をみてみろ…。…尻尾と羽が生えた人間のようなやつがみえるか?」

「…あれが竜人?」

「あれはかなり強い…。絶対に喧嘩を売るなよ…」

 相手のステータスを確認すると、HPは軽く十万を超えていた。今の僕なら瞬殺されてしまうだろう。

「確かに強いな…。…ん? ステータス画面になんか変な項目が…。…スキル画面?」

 僕がそういうとその竜人の持っているスキル名がリストでポンっと表示された。よくわからないが、どうやら僕もシャルと同じように相手のスキルがわかるようになっていた。他にも追加機能が増えているようだ。

「…どうした?」

「いや…なんでもないです…」

 ただ…そんなことを知ったところで今の僕にはなんの役にもたたないのは明白だった。

「そうか…。…まっ、わかったろ? 君がこの宿にいるのは、そういう理由なんだ…。みんなで…なんとか君の事を隠してるんだ…」

「そうだったのか…。…そうだっ! シオンさん、みんなは無事なのか!?」

 僕はシオンさんのバッと肩をつかんだ。シオンさんは目を丸くして驚いていた。

「ぶっ、無事だけど…。…そんなに焦ってどうしたんだ? …君が倒したんだろ? …忘れたのか?」

 僕は胸を撫でおろすと、シオンさんは心配そうに僕を見つめていた。

「いや、無事ならそれでいいんだ…。…それで、みんなは今どこに?」

「安心しなよ…。みんなは無事だ…。私以外はエルフの城にいるよ。ああ、そうだ…。君にいい忘れてたんだ…」

 シオンさんは何故か困った顔をしていた。

「…いい忘れてた?」

「ああ…。その…シャル姫を説得したんだが聞かなくってね。危ないからルア君を城に連れていくなっていったんだけど…」

 僕は無意識にシオンさんの肩を揺さぶっていた。

「…ルア!? ルアがいるのか!?」

「揺らすにゃって…! そっ、そりゃあいるよ…。ドワーフの王国に置いてけぼりにするわけ無いだろ?」

 僕はシオンさんの肩から手を離すと、頭を抑えながらベッドに座り込み考えた。

 どういう事だ…。スキルが消えてない? あいつ、確か封印したって…。

「いや、待てよ…」

 そもそもなんでこんなに強いスキルなのにあいつ奪わなかったんだ? …まさか、通常のスキルは盗めないのか?

「…おっ、おい、どうしたんだ?」

「少し考え事をしてて…。…シオンさん、ルアに会えないですか?」

 ルアに聞けばなにかわかるかもしれない…。

「城にいると思うけど、今はいかないほうがいい…。奴らが帰るまで待つんだ…」

「...いつまでここにいればいいんですか?」

「一週間くらいかな…。長くて一ヶ月とかって…。おっ、おい…! どこいく気だ!?」

 僕は剣を手に取りフラフラになりながら扉を開けて階段を降りた。気をつけていたが案の定、足がついていかず転げ落ちた。

「…あっ、あんた、大丈夫かい?」

 白猫はカウンターから降りてきて近寄ってきた。

「…っ! 大丈夫だ…」

 早く…いかないと…。

 降りてきたシオンさんは僕の体を抱きかかえて起こした。

「一体どうしたんだ…。…そんなに急いで?」

 ふと顔をあげて、シオンさんの顔を間近で見ると、突然あの映像がフラッシュバックした。

「シオンさん…大丈夫だから、離し…。…うわぁあああああ!」

「…おっ、おい! どっ、どうしたんだ!? あっ、暴れるなって!」

「やっ、やめろ…。…やめてくれぇえええ!」

「やりたくないが、しょうがないねぇ…」

「…うっ!」

 僕が取り乱していると、後ろの方で白猫がなにか呪文のようなものを唱えたあと恐ろしいほどの睡魔が襲ってきた。そのせいで全身の力が抜けてしまい、僕の意識はまた暗闇に戻った。

 

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