第122話

「おっ、お前、名乗っただろ! ほらっ、アルだよ!」

「ああ…お前か…。まさか、お前が四天王の一人だったとはな…。仲間割れしてくれて助かったよ。次はお前の番だ…」

 黒い剣を向けてゼロはキメラの体からスタッと降りた。

「ちっ、違うって俺は四天王じゃない! …って、あっ、危ない!」

 壁をえぐりながら襲ってきた首の無い魔物の鋭い攻撃を僕は剣で弾き飛ばした。僕の手はキメラのバカ力でしびれていた。

 ぐっ…。こいつまだ生きてるのか…。

「ちっ…。今は信じてやる…。先にあいつを片付けるぞ」

「ああ…。でも、どうやって?」

「あれはキメラだ…。頭を潰せば倒せるはずだ…。お前はそいつの相手をしておけ…。…あいつはどこにいった?」

 僕は攻撃を防ぎながら辺りを見渡すと、地面に転がった首が話し始めた。

「ふっふっふっ…。今日は最高の日だ…。私にもここまで感情があった事をわからせてくれる…。まさかあの時の塵がまだ生きてるとはな…。…なあ、失敗作よ?」

 …失敗作? どういう意味だ。

「……」

 ゼロは頭の方へスタスタと歩いていき、冷酷な目をしてキメラに剣を向けた。

「その名で呼ばれるのは久しぶりだな」

「忘れもしない。私がお前のシリーズを作り続け…やっと…やっとだ…。やっと、私の体に相応しいものができたというのに…。お前は! お前はぁあ! なぜ殺したぁああああ! しかも、データを全てぶっ壊しやかってぇえええ!」

「あいつの願いだったからだ…」

 ゼロは心なしか悲しそうな表情をしていた。

「私の願いはどうなる!? お前が勇者の…あのスキルを持っている可能性があったとはいえ…。お前を処分しておけばこんな事には…。…クソぉおおおお!」

 やっぱり、ゼロはシオンさんのコピーなのか…。…って、まずい!

 首のないキメラは僕の足を掴み、身動きできないようにして僕に雷の魔法を浴びせ続けた。

「ぐっ! …ぐぅぁあああ! ゼッ、ゼロ、早く!」

「殺しておかなくて残念だったな…。さて、おしゃべりはここまでだ…。さっさとお前を殺して……」

 ゼロは剣を大きく振り返り、キメラに振り下ろした。

「まっ、まて! 私に協力してくれれば寿命をやる!」

 その言葉にゼロは寸前のところで剣が止まった。

「寿命だと…」

「そこにいるヤツを消せ! そうすれば、お前に命を…」

「お前たちを殺した後は元より生きる気はないさ…。せいぜい、苦しんで死ね…」

 右手から放たれた火の魔法が、敵の頭を包みこみキメラは断末魔をあげた。

「ぎゃあああああ! クッ、クソォオオオ! おっ、お前たちも、シネェエエエエ! 道連れだぁああああ!」

 その言葉の後、なにかが張り裂けるような音が聞こえた。

「なっ、なんだ? このフロア、縮んでないか!? それに出口が消えてる!」

「ちっ…。この空間に入ったのは失敗だったな。まあいいか…。一番殺したいやつは殺せたんだし…」

「おっ、おい! 諦めてる場合じゃない! はっ、早く、この空間からでるんだ!」

 ゼロは諦めた様子で地面に座った。僕は慌ててゼロの腕を引っ張ったが、起きようとしなかった。

「…どうやって?」

「どうやってって…。それは…」

「お前も諦めろ…。あそこで火だるまになってるやつが解除しなきゃ無理だ…」

「そっ、そうか! その手があった。まだ、間に合うか!?」

 僕はすぐに断末魔をあげている魔物へ大剣を振りかざし頭を叩き斬った。

「ぐへっ…」

「トドメを刺しても無駄だ。こいつがそんなヌルい魔法を使うわけない…」

「違うさ…。そうじゃない。僕がこの姿になった理由を教えてあげるよ」

 僕は急いでステータス画面を確認して、とあるスキルを探した。

「HP…また凄い事になってるな…。まあ、そんなことは後だ…。どこかに……。……よしあったぞ! …空間操作のスキル!」

 僕は地面に手をつくとモグラのように地面から少年が出てきた。

「おいっ、相棒! 早く逃げないとヤバいぞ!」

「大丈夫さ…。少し静かにしててくれ…」

 リカバリーに似てるな…。この感覚…。

 僕は感覚を研ぎ澄まし迫りくる空間を解除した。目を開けるとガラス細工が壊れたように空間が崩壊し元の空間に戻っていた。

「なっ…!? …一体…どうやって?」

「これが俺のスキル…。倒した相手のスキルとかHPを無条件に吸収できるんだ」

「まっ、まさか、お前が魔王か!?」

 ゼロは不安定な体勢で起き上がり僕に黒い剣を向けた。

「ちっ、違うよ…。それなら、四天王が攻撃してくるわけないだろ?」

「確かに…そうか…」

 ゼロは体勢を整えながら、黒い剣を鞘にしまった。警戒を少し解いてくれたようだった。

「…ん? 怪我してるな…」

 腕からは血が流れて、地面にポタポタと落ちていた。

「…気にするほどじゃないだろ? おっ、おい! …私に触れるな!」

「いいから、みせてみろって…。回復してやるからさ…。…リカバリー!」

 僕は元の姿に戻り、少し強引にゼロの体に触れた。

 …なんだ? 他の人と違って組み方がなんか変な感じだな…。色々と治しておこう…。

「…おっ、おい! くすぐったいからやめろ!」

 ゼロは軽く腕を振りほどこうとしたが、僕はその腕を離さなかった。

「動くなって……。よし…終わった…。なんとなくだけど、多分…寿命も伸びたんじゃないのかな?」

「そんなわけ…。HPの最大値がもとに戻ってる!? わっ、私は死なないのか?」

「いや、まあ…。いつかは死ぬけど人並みには生きれるんじゃないのかな?」

 僕は感謝されると思っていたが、予想外のセリフを吐かれて震えた手で胸元を掴まれた。

「…なぜ、治したんだ! 元に戻せ! こっ、これじゃ、私は…。私は…。奴らに復讐しないと…」

「元に戻せっていわれても形覚えてないし…。…というか、そんな事しなくてもいいよ。俺が最後の四天王と魔王を倒してやるからさ…」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る