第121話
僕は尻もちをついている少年の方に近づき問い詰めた。
「なっ、なにもしてない…。俺がやったのは剣の強化とチャージ量がわかるようにしただけだ。ホントはやろうと思ったけど元々そういう術式が組まれてたんだ…」
「つまり…もともとこの剣にはそういう事ができたって事か?」
「そうなる…」
「……」
あっ、あの…駄女神がぁああああ! なんでこんなチャージ機能があるっていわなかったんだ! いっ、いや、待てよ…。そうか、僕が魔法をここまで使えると思わなかったのか…。
「…後は単純に忘れてたってのが濃厚だな。よし…。まあ、なにはともあれ…。ボスも倒したし、ここからでよう…」
「そうだな、相棒…」
僕達は魔法を発動して土の中を移動しながら、先程までいた灯りのついた空間に戻った。
「やっとついた…。なんか、モグラみたいだな」
「たしかにな…」
僕達が顔を見合わせて笑っていると、憎しみと怒りの入り混じった声が聞こえた。
「ぎっ、ぎさまらぁああああ!」
「おっ、お前は!?」
それはカジノのオーナーだった。ただ、それは僕の知っている顔ではなく、ひび割れて崩れたその奥には魔物の顔が覗いていた。
「そこの小僧…。色は違うが確かエリックといたやつだなぁあ!?」
その魔物は片目を抑えながら少年を指差した。
「知らねぇ…。お前みたいなやつ…」
「とぼけるなぁあああ! あと…もう少しだったのに…。お前ら…三十年…この数字がなにかわかるか? あぁあ!?」
僕はゆっくりと剣に手をかけた。
「…なんだっていうんだ?」
「私がこの国の悪魔を呼び覚ます為に費やした時間だぁあ! わかるか!? お前らは殺す…。絶対に殺す! いや、殺すだけではダメだ…。怒りが収まらない。毎日地獄のような生きていて後悔するような痛みを与えてやる」
少年は退屈しそうな顔をして欠伸をしながら口を開いた。
「はぁ〜。なんかうるせぇやつだな…。いかにも雑魚キャラみたいなやつだし…」
その言葉で完全に敵はブチ切れたようだった。
「ぐぁああああ!」
そこにはカジノのオーナーだった姿はなく巨大で緑色をした全身棘まみれの魔物がいた。僕は素早く剣を抜き構えた。
「…なっ!?」
「なぁなぁ、相棒!?」
「…どうした?」
「あいつ、ハリセンボンみたいだな」
ルアが笑いながらそんなことを言うと、敵の棘が萎んでいき人形の体型になっていった。
「ああああ…。久しぶりだこの感覚。いつ以来だ? あの塵を逃した以来か…。この私が直接手をくだすところだったよ。全く…今の一言で完全に我に帰ることができた。少年、ありがとう…」
「えっ、どういたしまして…」
「ぐぅぅぅ! 下僕よ、こいつ等を皆殺しにしろぉおおおお!」
魔物は空間を歪め何十体もの大きなゴブリンと犬のような魔獣をだしたあと消えていった。
「これはきついな…。まあ、お前がいれば大丈夫か…」
「なにいってるんだよ、相棒…。俺はMPほとんど使っちまったよ」
「…つまり?」
「役立たずだ」
僕はその言葉にサーと血の気が引いた。
「よし、逃げよう…」
「うーん…。無理っぽいぞ…。さっきのやつ出口塞いだみたいだ」
僕は少年を抱きかかえて出口を探したが、確かにどこにもなかった。少年は僕の腕を解いて、地面に降りた。
「なっ、なにいってるんだよ。さっきみたいに土の中を移動すればいいじゃないか?」
「そうじゃなくてさ…。空間ごと隔離されてるんだ。まあ、こいつ等を全員倒せば嫌でもでてくるさ。相棒なら余裕だよ余裕…」
「余裕っていっても…」
まあ、裏スキルなんて気にしてる場合じゃないか…。
「じゃ、そういう事で俺は隠れとくよ」
ルアはスッと地面に入っていった。
「おっ、おい! お前達…。一応聞いとくけど、やめないか?」
敵達はヨダレを垂らしながら武器を抜き、僕の周りを徘徊し一斉に飛びかかってきた。やめる気はないようだ…。僕は神様の剣を抜き、風の魔力をチャージして周囲を振り切った。
「…おらっあああ!」
攻撃したのにも関わらず敵達は僕の方へ近づいてきていた。
チャージ量、少なかったか!? HPは…!?
「…残りHPは…ゼロ?」
僕の羽から風が放たれると、モンスター達は崩れさり先程の声が聞こえてきた。
「私が品種改良したゴブリン達を一撃で…。なかなかやるようだな…。そうだ…。いや、それがいい…。このまま、魔王城に帰り魔王様に献上しよう。私の手で殺せないのは残念だがな…」
なっ!? まっ、まずいぞ! さっ、流石にまだ魔王は早い。…どうする? かっ、考えろ……。よし、あの手でいくか…。
「…おい、俺が誰だかわからないのか?」
「あぁあ?」
僕はスネークイーターを解除して黒騎士の姿になった。
「おっ、お前がなぜここにいる!?」
「魔王様に命令されたのだ…。お前を手伝えとな…。せっかく人間の姿に化けてあのガキを捕まえたのに…。早く解け…」
「お前…死んだんじゃ…。いや、それよりも私の手伝いだと?」
「ああ…」
「よくもそんな嘘を…。私の邪魔をする為に…。そうか…。サーティスの奴め…裏切ったのか…!? まとめて…殺してやるぅうう!」
「なにっ!?」
まさか…この展開は…。
前を見ると空間がひび割れて中から恐ろしい形相をした巨大なキメラが立っていた。ムチのようにしなる尻尾が僕に襲いかかった。
「…シネェエエ!」
「…ぐぁああああ!」
僕は瞬時に剣でガードしたが、あまりの威力に壁まで吹き飛んだ。壁は変形して崩れ落ち、僕はよろけた。
「ハハハッ…」
「ぐっ…! どこだ…!」
前を見ると巨大なキメラは四足で走って突っ込んできた。続けて恨みをはらすように鉄のこん棒を身動きの取れなくなるほど打ち込んできた。
「…シネシネシネシネシネェエエエエ!」
…ぐっ! まずい…。逃げ場がないぞ…。この猛攻撃をなんとかしないと反撃ができない…。これじゃあ、防ぐのに一杯一杯だ。
僕はやつがこん棒を振り上げた瞬間に火の魔法を使って顔面めがけて発動した。
「…くらえっ!」
……しまっ…!
予想以上に爆炎があがったせいで死角ができてしまい、そこから強烈な一撃が僕の脇腹にはいった。
「…オラアアアア!」
「かはっ…!」
まずい…。息が…。立てない…。
「ふぅ…。こざかしい真似を…。これでも喰らぇええぇ!」
僕はリカバリーをかけながら立とうとすると、電撃がはしり僕は膝をついた。
「ぐっ…!」
「…おやっ、おやおや? 効いたようだな…。私の得意ワザがぁああ! …シネェエエエエ!」
クソッ…! 体の身動きが取れない…!雷魔法か…。相性が悪い…。なんとかして逃げないと…。
「っ…!」
僕が逃げようとしていると、雷魔法を何度も何度も打ち込んできた。
「くらえ、くらぇえええ! ハハハハッ…! …ハ?」
突然、攻撃が止んだ。僕は急いで顔を上げると、黒い姿をした何者かが敵の首をはねていた瞬間だった。
「…なっ!?」
「ぐへっ…」
「だっ、誰だ? 助けてくれたのは…。って、あれ? …シッ、シオンさん? …いや、違う……。おっ、お前は…ゼロ!?」
「…ゼロ? 誰だ、それは?」
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