第123話

「…最後の四天王?」

「ああ、二体はここにくる前に俺が倒したんだ。だから、もう一体で最後だ」

「まさかっ、そんなっ…。…くそっ!」

「…っ! なにするんだ…!」

 僕はゼロに思いっきり壁に突き飛ばされた。

「たっ、助けてくれたのには礼をいう…。今回は見逃してやるが、私の獲物を狙えばお前は殺す…。…いいな!」

「おっ、おい! 復讐なんてやめろって! 聞いてないか…」

 ゼロはそう言い残して、どこかへ消えていった。

 なんか…可哀想なやつだったな…。できれば復讐をやめさせたいけど…。

「相棒…いこうぜ…。…ここにいても仕方ないだろ?」

 少年はヒョコっと、また地面の中から現れた。

「そうだな…。みんなの様子が心配だ…」


 こうして僕達は外にでた後、みんなと集合して船に戻った。どうやら大した怪我もないようだ。

「みんな、無事でよかった…」

 シャルは肩を落として疲れ切った顔をしていた。

「無事だけど、想像以上に疲れたよ…。…ところで、なんでアルが二人いるの?」

「こいつか…こいつは…」

 僕が答えようとすると小さな僕が自己紹介を始めようとした。

「俺か? 俺の名は…モゴモゴ…」

 僕は即座に彼の口を封印した。

 危ない…。黒歴史を放出するところだった。

「本当の名を知られるのはまずいから偽名を使ってくれ…。君はルアだ…。…いいね?」

 僕はみんなに聞かれないように小さな声で耳打ちすると、少年はコクっと頷いた。

「俺の名はルアだ。よろしくな」

「…それで、誰なの?」

「まっ、まあ、色々とあったんだよ…。仲良くしてくれ…」

「うーん…。まあ、いっか…。ほら、私の部屋にお菓子あるからおいで…。それに、アルにもらったコーラもあるよ〜」

「…えっ? そうなのか? 仕方ないな〜」

 ルアとシャルは手を繋いで仲良く広間をでていった。僕はウィンディーネに、この国の現状について尋ねた。

「そういえば、ウィンディーネ…。…この国の封印はどうなったんだ? まだ、尻尾が消えてないみたいだけど…」

「尻尾はいずれ消えるわよ。なにしろ、本体、倒したんだし…。まあ、貴方の話が本当ならね?」

 ウィンディーネは僕の肩に乗り、チョンっとほっぺをつついた。

「本当だって…。それなら、いいか…」

「まあ、ついでにいうと…封印はかなり解けてるわね…。…特にこの付近なんて普通に魔法が使えるんじゃない?」

「…大丈夫なのか?」

「まっ、悪魔の力も完全に停止したみたいだし…。もう、封印も必要ないでしょ? …どうする? せっかくだし、解いちゃう? まっ、デメリットもあるけど…」

「…デメリット?」

 ウィンディーネはヒラヒラと飛んで目の前に立つと、僕のペンダントを指差した。

「当然、貴方の持ってる魔石のMPが回復しなくなるわね…。それとつなげてるし…」

 この魔石のMPが回復しなくなるのは痛いな…。まあ、でも仕方ないか…。

「よし、解除し…」

 僕は封印の解除をウィンディーネにお願いしようとすると、エリックが急に話を遮った。

「ちょっと待ってくれ! …悪いんだけど、このままにしといてくれないか?」

「…どうしてだ? みんな、魔法が使えるようになるのに…」

 エリックは下を向いて、考え込んでいるようだった。

「なんていうか、これでいい気がするんだ…」

「でも、不便じゃないか?」

「確かにな…。でも、この国は魔法の使えない国だから、別の新しい可能性を見つけようとしてる…。そう、思うんだ…」

「…新しい可能性?」

 僕が尋ねるとエリックは僕の目をまっすぐ見た。

「ああ…。ドワーフの国がここまで発展できたのは、きっと魔法が使えなかったからだ。初代ドワーフ王もそれを望んでる気がするんだ…」

 なるほど…。僕達の世界もそうなのかもしれないな…。

「わかったよ…」

「そうだ! 船を俺の家におろしてくれないか? 取ってきたいものがあるんだ!」

「いいけど…。…なんなんだ? 取ってきたいものって?」

「それはみてのお楽しみだ!」

 僕達の船がエリックの家の近くに着陸すると、エリックは船から降りてどこかへ急いで向かっていった。

 あいつ、あんなに急いで…。一体、どこにいったんだろ? 


 しばらくすると、エリックはなにかをかついで戻ってきた。

「ただいまー。いやー、なかなか大変だった…」

「…たっ、宝箱?」

「ああ…。カジノから盗…。ゴホンっ…。今までの退職金をもらってきた。まあ、文句いうやつもいないし…いいだろ?」

「…なんなんだ、それ?」

 エリックな装飾のされた豪華な宝箱を開けようとしていた。

「こいつは俺が長年手に入れることを夢見てきた伝説の国宝初代ドワーフ王の剣だ…」

「この中にそんなものが…」

「全く…こいつのせいで、人生狂わされたよ…。……よし、あいたぞ! これが正真正銘鑑定書付き初代ドワーフ王の…。…って、あっ、あれ?」

 大きな錠をテーブルに置いて、エリックはゆっくりとその宝箱を開けた。そこにはノスクが持っていた剣と全く同じ傘状の青い剣が入っていた。

「同じ剣だな…」

「わっ、悪い…。期待させちまったな…。こいつは偽物だ…。…ったく、まんまとやつに騙されたってわけか……。情けねえ…」

 エリックがガクッと落ち込んでいると、ウィンディーネはその青い剣を宙に浮かばせてジロジロと見ていた。

「なにいってるのよ…。正真正銘初代ドワーフ王の剣よ…。…私がいうのよ? 間違いないわ」

「慰めはよしてくれ…」

「…私が慰めるキャラにみえる? 本当に本物よ」

 エリックはウィンディーネの言葉を聞くと宙に浮かんだ剣を握った。

「そんなはずない! 温度管理も材質管理もイマイチだ。こいつは偽物だ…。こんなポンコツなら俺の家にゴロゴロ転がってるぞ…」

 エリックが話し終わると、なぜかウィンディーネはなんの反論もせずにクスッと笑っていた。

「今の言葉を聞いたら初代ドワーフは喜んでるでしょうね…。ふっ…。まあ、ポンコツまでいわれるとは、思ってなかったかもしれないけど…」

 初代ドワーフ? なんで、ここで初代ドワーフが…。でも、今の聞かれたら普通怒るんじゃ…。

 僕はウィンディーネが不思議な事ばかりいうので、少し尋ねてみることにした。

「…なぁ、ウィンディーネ? …今のどういう意味なんだ?」

「ああ、簡単なことよ…。今の時代の技術が初代ドワーフ王の技術を遥かに越してるのよ。まあ、あいつも夢が叶ったし…いいんじゃない?」

「…夢?」

「ええ…。彼の夢なのよ…。かつて…ドワーフ王がこの剣をみながら、こんなこといってたわ…。いつの日か…これを出来損ないといってくれる時代がくれればいい…ってね……」

 

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