第105話

「はあー…。悪魔と契約でもするかな…」

「…ったく、気になるワードいいやがって!」

「なっ!? だっ、誰かいるのか!」

 …しまった。つい声がでてしまった。

「おっ、俺以外に誰もいないよな…。まっ、まさか、悪魔と契約したいとか馬鹿なこといったから…。いや、きっと空耳だ。ねっ、寝よう…」

 牢屋の中にいるドワーフは震えながら毛布の中に入り込んだ。

 なるほど…。悪魔か…。ちょうどいい…。その手でいこう…。

「おきろ…」

 僕はドスをきかせた低い声でドワーフに話しかけた。

「……」

「おきろ…!」

「ひぃ!」

 ドワーフはビクッとなった後、毛布から顔をだして震えていた。

「私を呼んだのはお前だな…」

「まっ、まさか…。ほっ、本当にいるなんて…!」

「…おい、聞いているのか!?」

「…っひぃ!」

 男は情けない声をだして更にブルブルと震えていた。僕はその姿をみてこいつではない事を複雑な気持ちで少しだけ祈った。

 はぁ…。聞いているのは聞いてるようだな…。

「…いくつか聞きたいことがある。戦闘用の補助魔法器具を作れるのか?」

「…え? まっ、まあ、作れるけど…。それがどうしたっていうんだ?」

 ということは…本人か…。

「…それはすぐに作れるのか?」

「まっ、まあ、家にあるやつを使えばすぐに作れるけど…」

 こいつをここからだす必要があるな…。

「わかった…。ならばお前をここからだしてやろう…」

「ほっ、ほんとか!?」

「ああ…。契約成立だ…」

「ちょっ、ちょっと待ってくれ! 俺はなにを払うんだ? いっ、命とかなら断るぞ…」

 ドワーフは毛布に包まったまま立ち上がり、慌てた様子でキョロキョロと僕を探していた。

「…いや、少し協力してほしい事かあるだけだ」

「協力してほしいこと?」

「ああ…。お前に作ってほしいものがある。別に無理ならそれでもいい…。…どうする?」

「それくらいなら…。わっ、わかった…。契約する…。…あんたの名前は?」

「…俺?」

「ああ…」

 なににしよう…。まあ、逆でいいか…。

 僕は安易な考えでもう一つの名前を決めた。

「我が名は…ルア…。…お前の名前は?」

「おっ、俺は、エリックだ…。よろしく頼む…」

「ああ…。それでいくら負けたんだ?」

「一億だ…」

「すまない…。聞き方が悪かったな…。今回はいくら負けたんだ?」

 はぁ…。通算でもなかなかすごい額だけどな…。…ん?

「……だから一億だ」

「バッ、バカなのか!?」

 僕はその金額に驚いて、つい素の声がでてしまった。

 一億の借金って…。いや、逆にいえばすごいのかもしれない。このドワーフには一億貸しても元が取れるんだ…。つまり…こいつは本物なんだ…。

「むっ、無理なのか!?」

「まっ、まあ…善処する。待っててくれ…」

「たっ、頼んだぞ…」

 さて、どうするかな…。

 僕は部屋をでようとすると足になにかが当たり転がっていった。

「…ん? …なんだこれ?」

 拾ってみると銀色のコインだった。

「ああ…。多分…俺のだな…。まあ…今更ワンコインあってもなにもできないけどな…」

「カジノのコインってことか?」

「そうだけど…。なあ、あんた…さっきから、声変わってないか?」

「ごっ、ごほん! かっ、変わってなどない…。そんなことをいうなら帰るぞ…」

 僕は咳払いして精一杯の低声ボイスで怖がらせた。

「すいません…。冗談です…」

「わかればいい。じゃあ、いってくる…」

 僕は地下室からでていき、一階の端にあるトイレで透明化を解除した。


 問題はここからだな…。そこらへん歩いてみるか…。みんな勝負に夢中だし、顔は隠さなくていいだろう。

 僕はトイレからでて、カードゲームをやっていた場所に戻り、しばらく辺りを眺めていた。


「うーん…」

 ルールがわかりづらいな…。

 ポーカーに近いルールだったが、こういうゲームはルールを完全に理解していなければカモにされる。他にもブラックジャックみたいなものもあったが、どちらにしても退散だ。僕はポーカーフェイスはできない。あまり僕向きの勝負ではないだろう。

「次だな…」


 今度はルーレットの周りを歩いてみた。くるくると玉が回っている。この一投に全てをかけているやつもいるのだろう。

「うーん…」

 僕は目をぐるぐるとさせて玉の行方を見ていた。

 でも、掛け金が少なすぎてなにもできないな…。

「なにより…」

 このトリプルゼロ…。どう見てもボッタクリだよな…。

「やはり…スロットか…」


 最後にスロットコーナーをみてみることにした。こっちのルールは簡単だ。コインを回して、レバーを押すだけ…。でも、勝てる感じはないな…。

 どれもこれも勝てるようには作られてはいない。負けるようにうまく作られているシステムだ。

「はぁー…。歩き疲れたし、ちょっと座るか…」

 僕は目の前のスロットの席に座った後、試しに銀色のコインを入れてみた。すると、左側の画面に1と表示された。

 なるほど…。この柄を揃えればいいのか? これで千倍…。一千万か…。 

「…ん?  …この文字少しカタカナに似てるな…。…なんてよむんだ? ヴォ…ル…ト?」

 僕がそうつぶやくとあたりの光が一斉に消え停電になった。

「えっ!? なっ、なんだ!?」

 前をみると目の前のスロットの画面から、紫色に光る可愛い球体がでてきてヒョロヒョロと僕の体に吸い込まれていった。

「おっ、おい!?」

 特になんともない…。でも、なんだったんだ…。…いまの? …あれ? 停電も戻ってる…。 

「…ん? なんかスロット回ってるぞ!?」

 

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