第106話

 レバーも押していないのにスロットがグルグルと周り、よく見るとさっきの柄がボンッと音とともに二つ揃っていった。

「…ウッ、ウソだろ!?」

 僕は子供のように興奮していた。僕はハラハラしながら、真ん中の柄が揃うのを見守った。

「…こい! こい! こいーーー! きっ、きた…! ……えっ!?」

 僕は真ん中の柄が揃ったかと思うと、下に一段ずれて違う柄が揃った。僕はガクッとなってもう一度確認した。すると、画面の端から神様のようなキャラクターがでてきて舌をペロッとだして笑っていた。僕は久々にイラッとした。

「うっ…! はっ、はずれたのか…。くっ、くそ〜…。もっ、もう一回…。…ん?」

 …と思ったその時、画面の中の神様が急に慌てだした。そして、グルグルと真ん中のリールが回りだし、気づけばすべての柄が揃っていた。

「……よっしゃぁあああああ!」

 パレードのような音楽とともにコインが大量にジャラジャラとでてきた。

 やばい…。ハマりそう…。最高の気分だ…。

 僕は一旦移動しようと立ち上がると一人の黒服が近づいてきた。

「…おっ、お客様すいません。お話があります。停電のせいで機械が故障してしまったようなので、今の当たりはなしということに…」

「はぁあああああ!?」

 僕はつい声を荒げてしまった。

「こちらの不手際ですので本当に心苦しいのですが…。今…支配人がきていますので、もう少し待っていてもらえないでしょうか?」

「そんなこといわれても困る!」

「そうはいわれましても…。ああ、支配人…。この方です…」

 黒服が声をかけたほうを見ると裕福そうなドワーフが立っていた。

「この度は本当にすいません。私達も本当に心苦しいのですが…」

「心苦しいなら今の当たり認めてくれよ!」

「私達でできる事ならいくらでもしますが…。…どうでしょう? 美味しいディナーでもご馳走させていただけませんか?」

 こいつら、今の当たり完全になしにする気だな…。

「断る!」

 いや、待てよ…。

「そうですか…。それではこういうのは…」

 僕はそのドワーフの声を遮り、ダメ元である提案をしてみることにした。

「待った…。地下に友人が閉じ込められているんだ…。そいつの借金をチャラにしてほしい」

「…どなたでしょうか?」

「エリックだ…」

「ほう…。彼に友人が…。いいでしょう。エリックを部屋からだしてあげなさい。私は帰ります…」

「……」

 いっ、いってみるもんだな…。こんなにあっさり通るとは…。

 僕を含めて予想外の答えだったのだろう。黒服達はその発言に戸惑っていた。

「よっ、よろしいんですか?」

 裕福そうなドワーフは振り返り不気味な笑みを浮かべた。

「ええ…。彼はいいお客様ですからね…」

「確かにそうですね。すぐに連れてきます…」

 なるほどな…。ギャンブルをやめなければまたすぐに戻ってくるってことか…。


 しばらくすると黒服が灰色の髪の少年を連れてきた。青紫色の瞳がじっとこちらを見つめていた。

「…あんたがルアか?」

「やあ、エリック…。…ここじゃあれだし外にでようか? 君の家にいこう…」

「ああ…。そうだな…」

 僕はガシッとエリックの肩を掴んで、エリックの目をギロッと見つめた。

「じゃあ、いこう…。その前にちょっとついてきてくれるかな」

「ああ…」

 僕とエリックはカジノからでて人気のない路地裏に入った。


 ここならいいだろう…。

「おっ、おい! …こっ、こんなところにきて、なっ、なにする気なんだ!」

 エリックは恐ろしいことをされると思っていたのだろう。僕の事をかなり警戒していた。

「ごめん、ごめん…。特になにもしないよ。用事があってね。先に自宅に帰ってくれるかな…。でも、絶対に寄道はしないでね…。約束を守ってもらうまで後ろにピッタリついてるから…」

「わっ、わかった…」

 エリックが見えなくなる手前で、僕は周囲に誰もいない事を確認し、ゴミ箱の影に隠れ透明化した。

「よし、ついていくか…」


 僕は後をついていき、街外れというか街から遠く離れた不便そうな場所にあるエリックの自宅についた。お世辞にも綺麗とは言えないそのボロボロの家には、荒れ果てた畑があるだけで他にはなにもなかった

「ついたぞ…。…あれ、どこにいるんだ?」

「…どうやら…追っ手はきてないみたいだな…」

「いっ、いたのか!? …あんた、どこにいる!?」

 エリックはキョロキョロと周りを探していた。

「まあ、家の中で話すからさ。早く鍵開けてくれ」

「あっ、ああ…」

 鍵を開けて中に入ると、驚いたことに本だらけの部屋だった。別にギャンブル雑誌とかそういうのではなく、色々な本が無造作に置かれて本の柱ができていた。

「本…好きなんだね」

「好きっていうか…。まあ…座ってよ…。おっ、お茶でいいかい?」

「なんでもいいよ」

 僕は透明化をといて古びた硬い木の椅子に体重をかけると、ギィギィと壊れそうな音がなったので僕は慎重に座った。

 大丈夫かな…。この椅子…。

「すまん…。お茶が腐って…。うぉおお! ビッ、ビックリした…」

 僕の姿をみると、腰を抜かしてエリックは座り込んだ。目を丸くしていた。

「…大丈夫か?」

「実は幻聴とか幻覚の類とかだったってオチではないよな…」

「そうだとしたら、牢屋からでれてないだろ?」

「いや、まぁそうか…。そうだな…。で、なんなんだ? 頼みたいことがあるって?」

「…実は魔法やスキルが使えるようにしてほしいんだ」

「…はぁ?」

 エリックは、すごく不思議そうな顔をしていた。なにか変なこといったみたいだが、心当たりがない…。

「…魔法はわかるけどスキルってどういう意味だ?」

「…使えないんだろ? この国?」

「スキルは使えるさ…。俺も剣を打つとき使ってるからな…」

「そうなのか?」

 …どういうことだ? じゃあ、なんでステータスが使えなかったんだ…。…ってことは、ステータスは魔法? でも、それならスキルポイントは触れないはずだ…。うーん…。

「…なぁ、ルア?」

「…ルア?」

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