第74話
「勇者って…」
「実際、君に会ったら剣が光りだしたんだ。間違いないよ…。…君は勇者だ」
「まっ…。確かにアルは勇者かもねっ!」
アリスは僕の方をみてニヤッと笑った。
まっ…いわれて悪い気はしないな…。
「…まあ、そういう事にしておこう」
僕はスパゲッティをクルクルと巻いて口の中に入れた。
「それで、君を連れて帰ってきたら…王様がエルフの王国に応援を求めてた事を知ってさ…。その応援が君達だったとは思わなかったよ」
「なるほどな…。…そういえば、アリスは今までどこにいたんだ?」
アリスはリスのようにミートボールを口に蓄えていた。
「…私? 私はお城の部屋のタンスの中に入ってたわよ…。気がついてからは王様と話をして、アルのあとを追ったってわけ…」
「また、すごいとこに入ってたな…」
「通りで見つからなかったわけだにゃ…」
「でもね…。城にいる皆の様子がおかしかったの…。アルの名前をだすと、皆が笑うのよ…」
アリスは不思議そうな顔をして目線を上にやった。
「俺の名前って…やっぱ変なのか?」
「ちっ、違うにゃ…。それは…多分、そうじゃなくて…。…うっ、ううん、なんでもない」
猫は話を急に止めて、なぜか言いづらそうにしていた。
「…なんだよ。気になるじゃないか?」
「いや、あの…王様達は、君を見たら勇者じゃないって笑ってたんだ…」
「…笑ってた?」
「なによ、ひどいじゃない!」
アリスは口を膨らませて怒っていた。
「君が床で寝てるからだよ…」
猫は少し呆れているようだった。僕はちょっと文句を言った。
「だって、仕方ないだろ? 急に連れてこられたんだから…。床じゃなくて、ベッドに寝かせてくれればいいのに…!」
「いっ、いや…。そうじゃなくて…」
「俺が寝たいって言ったなら、まだしも…」
「…君がいったんだよ」
「…はい?」
虎柄の猫は椅子に座ったまま、バタバタと手足を動かした。
「おっ、おぼれる! イカダから離さないでーって…。君…床から全然離れようとしないんだ…。仕方ないから、床に…」
僕は無意識に出た言葉に自分でも驚いていた。
「そんなこといってたんだ…」
「うん…」
…全然覚えてない。
「はははっ…。…なによ、それ! 私も見たかったー!」
「……」
アリスは涙を流して、爆笑していた。僕は少し情けなくなった。
「…そっ、そうだ! …そういえば、君の仲間はこっちに向かってるらしいよ」
「そうか…。まあ、ちゃっちゃと片付けておこう。…で、仲間は集まったの?」
僕は周りを見渡すと、誰一人話を聞いていなかった。虎柄の猫は首を横に振り、落ち込んでいた。
「だめみたいだ…。まあ、この僕でも剣が光るまで嘘だと思っていたから仕方ないよ。王様も嘘だと思っているくらいだし…。まあ、一応記録には残ってるから協力してくれてるけど…」
「なるほどな…。でも、仲間を集める意味なんてあるのか? 二人しか空間移動できないのに…。…っていうか、誰か複数で空間移動魔法テストしてみたのか?」
「うん…。その…友達と旅行にいくとき…ね。ごめん…」
虎柄の猫は目をつむり、申し訳なさそうな顔をしていた。
「まあ…便利だもんな…」
「でっ、でもね、仲間を集める事には意味があるんだ。空間移動を使うには移動先の場所がイメージできないとダメなんだよ。だから、一回は自力で行かないといけないんだ…」
「ふーん…」
僕は目の前に置かれた香ばしい匂いのするパンを手に取ってかじった。
でも、なかなか面白い魔法だな…。一回いけば雨の日なら何回でも行けるのか…。まぁ、MPは消費するのかもしれないけど…。
「それで…今からいくところは本当に恐ろしいところでさ…」
「…どこにいくんだ?」
猫はさっきの本を開いて指差した。そこには遺跡のような絵が書かれていた。
「…闇の王の墓場さ」
「…闇の王の墓場?」
「今まで倒したネズミの王の尻尾を封印しているのが…。ここ…闇の王の墓場ってわけなんだ…。まぁ、そこにいってもなにもないかもしれないけど…。現状、なにもヒントがないんだ…」
「なるほど…。でも、なんで尻尾だけなんだ?」
「確かに不思議ね…」
「僕も倒した事はないからよくわからないけど、倒したら尻尾だけになるらしい…。本当に不気味で…呪いみたいだろ?」
キノコのモンスターみたいに増殖するタイプだと厄介だな…。…でも、復活って事は増殖じゃないのか?
「…なんとなくわかったよ。でも、ギルドみたいなとこに協力してもらえば早くないか?」
「それがここなんだよ…。あそこに貼ってあるだろ?」
虎柄の猫は張り紙が沢山貼ってある壁を見た。僕達は立ち上がり移動して確認すると、確かに書いてあった。
〈依頼 ネズミの王の討伐〉
〈危険度 S〉
〈期間 ネズミの王を討伐するまで〉
〈報酬 不明〉
「…報酬不明?」
「…ひどくない?」
「仕方がないだろ…。実際…僕が報酬払うわけじゃないし…。討伐したら王様に払って貰わないと…」
僕は猫の足跡がついたその依頼書をみて考えた。
「うーん…」
こんな報酬じゃ誰もよってこないだろう…。なにかいいものは…。…そうだ!
「そういえば、ちょうどいいものがある」
「どうしたの?」
「王様にオウネコマタタビの葉っぱを貰ったんだ。これを報酬にしよう」
僕がそう言うと周りの猫達が立ち上がり虎柄の猫は焦って誤魔化し始めた。
「おっ、お酒の飲み過ぎだにゃー! ほらみっ、水、飲むにゃー!」
急に焦ってどうしたんだ? なにかまずい事でもいってしまったのか? …まあ、話をあわせておこう。
「うっ、気持ち悪くなってきた…。ちょっと、外の空気を吸いたい…」
「そっ、そうだにゃ! よし、外に行くにゃー!」
僕は千鳥足で虎柄の猫とアリスに抱きついて、人気のない路地まで運んでもらった。
「…さて、ここならいいだろ? なんで焦ってたんだ?」
「下手な芝居に付き合ってあげたんだから教えなさいよ!」
「あっ、当たり前だにゃー! …まあ、君の国じゃ当たり前じゃないのかもしれないけど、世の中には悪い猫もいるんだ。あの酒場にだって盗賊みたいなやつだっているんだよ!」
虎柄の猫は僕達に向かって大きな声をだした。
「確かにそうね…。私達が悪かったわ…。アルも謝って…。…どうしたの、アル?」
「…いや……」
なんだろう…。今、変なフラグたった気がするな…。
「ぐへへへへ…。話は聞かせてもらったぜ」
僕が振り返ると僕の身長と変わらないくらいの大柄な黒猫とニ匹の猫がいた。
「…なんの話だ?」
「そっ、そうだにゃ! 僕達はオウネコマタタビの葉っぱなんて持ってないにゃー!」
「そうよ! そんなの知らないんだから!」
なんで、こいつらはいらない事をいうんだろう…。こんなにでかい声で否定したら持ってますって言うようなもんだろ…。はぁ…。まっ…俺もか…。
「おとなしく渡せば命までは取らねえ…。だが、抵抗すれば命はねえぞ!」
厄介な事になったな…。おとなしく渡せばそれで終わるが…。…そうだ! 空に逃げればいいのか…。
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