第75話

「えっと…ノスク、アリス、二人とも空に…」

「ここは僕に任せて!」

 ノスクは傘のような剣を抜き構えた。親玉はニヤッと笑い、子分たちをノスクに向かわせた。

「ほう…。やるってのか…。…いけっ! 子分ども!」

 戦力も見たいし、少し様子を見てみるか…。危なくなったら、逃げればいいし…。

 なんてことを思っていると、華麗な剣技であっという間に三匹を倒してしまった。


「すっ、すごいな…」

「いや…実は…」

「くそっ…覚えてやがれ…! 逃げるぞ!」

 バタッと倒れていた黒猫達は捨てゼリフを吐くと、あっという間に消え去り何処かにいってしまった。

「実は…なんなんだ?」

「実は…この剣のおかげなんだ」

 ノスクは青い傘のような剣を空に向かって掲げた。

「どういうこと?」

「この剣には三つの能力があって二つは知ってる通り空間移動能力と察知能力なんだけど…」

「うん」

「実は剣を持ってるだけで、僕の意思とは関係なく勝手に戦ってくれるんだ」

「なるほど自動戦闘か…。もしかして、雨の日とかは、すごく強くなったりするのか?」

「いや…恥ずかしい話なんだけど雨の日は逆に弱くなるんだ」

 ノスクは剣を降ろして、急にモジモジし始めた。

「…ん? なにが恥ずかしいんだ?」

「その…剣の動きに体がついていけなくて戦えなくなるんだ」

 まあ、それはそうか…。自分自身が強くなるってわけじゃないし…当たり前か…。

「でも、筋トレとかすればいいんだよね?」

 ノスクは急にうつむいて小さな声で何かをつぶやいた。

「……ないんだ」

 …ないんだ? …なんていったんだ? もう一度聞き直すか…。

「ごめん。聞こえなかっ…」

「僕は…僕は…働きたくないんだ!」

 突然大きな声をだして、拳を握りしめて猫は下を向いた。

「…えっ?」

 ……急にどうしたんだ?

「子供の時は毎日修行ばっかりで全く遊べなかった…」

「……」

 猫は暗い顔になり、拳を更に強く握りしめていた。

「兄さんみたいな剣のセンスも、姉さんみたいな魔法のセンスもない僕を何故かこの剣は選んだんだ。正直恨んだよ…。剣に選ばれてからは、更に酷い修行で毎日泣いていた…」

「……」

 なんか…かわいそうだな…。

「でもね…剣に選ばれて一つだけいいことが起きた」

「…いいこと?」

 虎柄の猫は拳を緩めて、明るい顔をあげた。

「毎月、補助金がでるんだ…。働かなくても! 僕は…補助金がでたとき決めたんだ。絶対に働かないって!」 

「……」

 こいつ…クズ猫じゃねえか!

「…でも、ネズミの王が復活してこのままこの国が滅んでしまったら、ニャート生活がもうできなくなるんだ。だから…僕は戦うんだ! この国を守る為に!」

 いいこと言ってそうで、全然いいこと言ってないな…。まあ、子供の時に遊べなかったってのは少し同情するけど…。

「わっ、わかったよ」

「ごっ、ごめん…。突然、変なこといって…。軽蔑したよね…」

「いや、気持ちはわかるよ。俺も毎日遊んで暮らしたい」

 虎柄の猫は笑顔が消えて、少し冷静になったようだったが、僕の言葉で再び元気を取り戻したようだった。

「そっ、そうかにゃ!? なら、僕達は種族は違えど、心が通じ合った親友だにゃ! そういえば、なんて呼べばいいかにゃ?」

「えーと…アルってよんでくれ…」

「私はアリスでいいわ…」

「わかったにゃ!」

「君は…ノスクでいいかな?」

「うん…。さて…そろそろ酒場に戻ろう」

 ノスクは手を振りながら、先頭を元気よく歩きだした。


「ねぇ…あの子…大丈夫かな?」

 アリスは僕に小声でつぶやいた。

「まっ、まあ、悪いやつじゃないさ…。困ってるんだから、助けてあげよう…」

「そっ、そうね…」

 僕達が酒場を目指し歩いていると、誰かの悲鳴か突如聞こえてきた。



「ぎゃぁああああ」

 路地裏から聞こえてきたな…。確認した方がいいか…。

「一応…」

「いってみよう!」

「即答するなんてニャートなのに正義感はあるんだな?」

「私も驚いたわ…」

「あっ、当たり前さ! …っていうかニャートは関係ないだろ! さあ、静かにいくよ」

 僕達は悲鳴が聞こえた路地に入り、壁からこっそり見るとそこにはさっきの黒猫達が今度は白猫にやられて倒れていた。どうやら黒猫達の悲鳴だったんだろう。

「なんだ…。心配して損した…」

「…だね。…っていうか、彼女はもしかして!?」

「そこにいるもの両手をあげてでてきなさい!」

 白猫は声を上げ、僕はノスクとアリスと目をあわせた。

「…どうする? …逃げる?」

「まあ悪い事はしてないし…ここはでておこう」

「そっ、そうよ…」

 僕達は両手をあげ、ゆっくりと猫達の前まで歩くと赤い帽子を被った猫が話しだした。

「止まりなさい! あなた達はそこでなにをしていたのかしら?」

「酒場に行こうと思ったら、悲鳴が聞こえてきたからさ…」

「そうだよ。心配してきたんだ!」

「怪しい…。こんなところにエルフと人間がいるなんて…。壁に手をつけなさい!」

「おっ、俺!?」

「私も!?」

「彼等は…」

 ノスクがなにか言おうとすると白猫の剣が壁に突き刺さった。

「貴方には質問をしていない…!」

 ノスクは白猫に睨まれ、ヘナヘナと腰が抜けて座り込んだ。

「こっ、攻撃するなよ。おとなしくするからさ…」

「うっ、うん…!」

 やはり、逃げておいたほうがよかったか…。仕方ない…。壁に手をつけよう…。

「身体検査をするから動かないでね…。少しでも怪しい動きをしたら…。…わかるわね?」

「わかったよ」

「はっ、はい!」

 白猫はアリスのポケットから、猫柄のハンカチを取り出した。

「…これは、私のっ!? 私の部屋が荒らされてると聞いてましたが、貴方達が…」

「えっ、えっと、そっ、それは…。私の…」

 アリスはなんとか嘘をついて誤魔化そうとしていた。

「…ちなみに貴方の名前は?」

「アリスですけど…」

「このハンカチには私の名前…ルナと書かれていますが? …なにか申し開きはありますか?」

「…ありません。でも、盗んだわけじゃなくって…。多分、タンスの中に入ったとき、たまたまポケットに……。すいません…」

 白猫はギロッした目をすると、アリスは謝った。いくら本当のことでも、信じてもらえないと思ったのだろう。一度、嘘をつくというのはそういうことだ。

「はぁ…。それにしても、エルフでアリスという名前ですか…。おてんばで有名なアリス姫といえど、こんな犯罪は犯しませんよ…。貴方はエルフの王国と姫に泥を塗ったんです…。恥を知りなさい…!」

 猫の王国にもアリスの事が広まっているとは…。しかも、本人にそんなこと言うなんて…。

「はっ、はい…」

 僕は泣きそうなアリスを見て、吹いてしまった。

「ぷっ…。あっ…」

 僕は二人から物凄く睨まれた。

「アル…。後で…覚えてなさい…」

「ちっ、ちがう…! 今のは…!」

「笑ってるとは余裕ですね…。それとも、貴方は無関係だとでもいうのですか?」

 白猫は僕のポケットに手を突っ込み、マタタビの葉をだした。

 大丈夫…。僕のポケットにはなにもない…。葉っぱぐらいしか…。あっ……。

「…これはなに? …こっ、これもしかしてオウネコマタタビの葉!? まさか、これも盗んだの!?」

「ちっ、違う! 王様から貰ったんだ!」

 

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