幻想の猫王国編

第73話

 …ん? …ここは? 確か、水の中に落ちて…それから…。

「ようこそ、勇者よ。ワシがキングだにゃ…」

 起き上がり前を見ると豪華な装飾がついた椅子に白いデブ猫が座っていた。周りには剣をもった猫達がいる。レトロなBGMが聞こえてきそうなところだった。

 …ここはどこだ? さっきまで森の中にいたのに…。…どういう事なんだ? 目の前の王様っぽいデブ猫に聞いてみるか…。

「あの…王様ですか?」

「そうじゃ、わしがキングだにゃ。しかし、勇者よ…。空間移動で気絶してしまうとは情けないにゃ…」

 …空間移動? そうか…。段々と思いだしてきたぞ…。…って事は……。

 僕はよろめきながら、立ち上がった。

「もしかして、ここ…猫の国ですか?」

「そうだにゃ。ようこそ、勇者よ。我が国へ…。まずはこれを授けよう」

 王様が指示すると、きれいな黄金に輝くお盆を兵士が持ってきた。

「…これは?」

「それはオウネコマタタビの葉だにゃ。売ればそれ一つで家が建つであろう…。受け取ってくれ。まずは前金だにゃ」

「はっ、はい。…ありがとうございます」

 お盆の上にはキラキラと輝く緑色の葉っぱが三枚のっていた。僕はそれを受け取ったが、お盆の方がよっぽど高級感に溢れているように見えた。

 これで家一軒…。ただの葉っぱにしか見えないんだけどな…。

「さて、エルフの王からは話を聞いておる。見事、ネズミの王を倒した暁には…」

 …ネズミの王? 

「…黒い魔物じゃないんですか?」

 王様が妙な事をいったので、僕はもう一度尋ねると、王様は不思議そうな顔をしていた。

「…黒い魔物? …まあ、詳しいことは酒場にいるお主を連れてきたノスクに聞いてくれ。では、健闘をいのるぞ」

 …どういうことだ? うーん…。状況がいまいち飲み込めない。

「…あの、そういえば他の皆は?」

 誰かいた気がするんだけど…。

「…他の皆? …まあ、詳しいことは酒場にいるお主を連れてきたノスクに聞いてくれ。では、健闘をいのるぞ…」

 くっ、繰り返しやがって…。なんだ、この初期のRPGゲームみたいな展開は…。まあいいか…。城をでよう…。

「では、王様…。失礼します」

 僕は城をでて周りの猫達に酒場の場所を聞きながら辺りを探すと、ニャンダーの酒場と看板にかかれている場所を見つけた。


「…ここか?」

 酒場に入ると、僕を連れてきた虎柄の猫がいた。

「…みつけたぞ! おい、いきなり…!」

「きっ、君か! 急いでいたんだ…。本当にごめん…」

 虎柄の猫は何度も頭を下げて僕に謝ってきた。

 こんなにぺこペこ頭を下げられると流石に怒りづらいな…。

「うーん…。…で、なんでいきなり連れてきたんだ?」

「君の仲間も連れてきたかったんだけど、この魔法剣には厄介な制約があって…」

 虎柄の猫は傘のような青い剣を僕に見せた。

「…厄介な制約?」

「…一人しか別の場所に連れてけないんだ」

「…一人?」

「うん…」

 …あれ? 誰か一緒にきた気がするんだけど…。気のせいか…?

「そうか…。でも…だったら、何回か発動すればいいんじゃないのか? ちょっと、面倒くさいけど…」

「うん…。そうなんだけど…。二つ目の制約が更に厄介で…。基本的に雨が振らないと使えないんだ」

「…雨? …でも、雨なんて降ってなかったよな?」

 僕は後ろを向いて窓から外の景色を見てみると、窓持ちのいい青空が見えた。どうやら、こっちも降ってないようだ。

「実は例外があって…。この剣には…意思みたいなものがあるんだ…」

 意思を持つ剣か…。

「つまり…機嫌がいいときは雨が降らなくても使えるってことか?」

「そう…。君を見つけたとき…何故かこの剣が反応したんだ…」

 虎柄の猫は傘のような剣をジッと見ていた。

「…でも、剣が反応したからって俺なんか連れてきても、役に立たないかもしれないだろ?」

「過去にもあったんだ…。似たようなこと…。まっ、ここじゃなんだし…あそこのテーブルに移動しよう」

「ああ…」

 僕は猫の後について行き椅子に座り、メニュー表をとって、ウエイトレスを呼ぶといくつか料理を注文した。


「それで…さっきの話の続きなんだけど…」

「うん…。この剣が反応するときは、本当にろくでもないことが起こるんだ…。そして、従わないと…。もっと…とんでもないことになる…」

 危機的状況ってことか…。…ん?

「じゃあ、既にとんでもないことに巻き込まれるってことなのか!?」

 僕は椅子から立ち上がった。周りの猫達は僕達の方を向いた。

「…本当にごめん……」

 猫は下を向いて、しょんぼりとしていた。僕は席に座って、ドリンクを口に入れた。

「…でも、船とかでもこれたんじゃないのか?」

 戦力的に少し不安なんだけど…。

「船だと一週間以上かかる…。もうそんなに残された時間はないかもしれない…。だから、君を…。本当に…ごめん…」

「なるほどな…。ところで、こんな酒場でなにしてるんだ? 遊んでるってわけじゃないんだろ? さっき、誰かと話してたけど…」

 猫はバッグの中から、小汚い本を取り出した。

「仲間を探しているんだよ。伝説によるとネズミの王はとんでもないやつなんだ」

「…そんなに危ないモンスターなのか?」

「うーん…。モンスターじゃないみたいなんだ。どちらかというと呪いに近いらしい…。僕も詳しい事はわかんないよ…」

 やっぱり、黒い魔物じゃないのかもしれないな…。でもまあ、困ってるみたいだし、協力してあげるか…。

「…伝説ではどうなっているんだ?」

 猫は説明しながら本を開いた。そこには青く光り輝く剣を持った猫と、黒い線のような雷雲が描かれていた。

「僕のご先祖様の本には…蒼き剣が光る時、闇の王が復活し、全てを滅ぼすだろう…。滅びの道から逃げるには、蒼き剣の意思と勇者を繋ぐ事…。…って、かかれてたんだ」

「なかなか、物騒だな…。この闇の王ってのが、ネズミの王の事なのか?」

「うん…。過去にも何回かあったなんて、僕も冗談半分に聞いてたけど…。まさか、僕の代のときに光るとは思わなかったよ…。…あっ、料理がきたみたいだね!」

 ウエイトレスはミートボールやパン、スパゲッティなどのいくつかの料理を運んできた。僕はテーブルに運ばれた料理を眺めていた。

「なかなか、おいしいそうだな…」

「うん。ここの料理はおいしいんだ。冷めないうちに食べよう」

「わぁ…。これなんて、すっごくおいしそう…。いっただきまーす!」

「…おい、ちょっとまて……」

「…どうしたの、アル? 早く食べないと冷めちゃうわよ」

 テーブルには気づかない内にもう一人着席していた。そいつはバカみたいに大きな口を開けてスパゲッティを口に入れ、モグモグと食べていた。

「…なんでお前がここにいる?」

「なんでって…。…一緒にきたじゃない? 私がアルをおって空を飛んでたら、制御できなくなって…」

「……」

 僕は頭を押さえた。

 そうだ…。思い出した…。

「…どういうことなんだ! 一人しか連れてこれないんじゃなかったのか!? こいつは連れてきちゃダメだ!」

 僕は虎柄の猫に大きな声をだして追及すると、首をブンブンと横に振った。

「ぼっ、僕は知らないよ…! どうやって、きたの!?」

「だから、あの水たまりの中に入ってよ…」

「……」

「…そんなバカにゃ!? ははっ…はははは…。…食べて、食べてっ! ここは僕のおごりだよ!」

 戦力的にかなり不安になってきた…。

「…アリスだけ返すことって……」

「はい…。あーん…!」

 アリスは強引に僕の口にスパゲッティを入れ込んできた。

「ふぐっ…! うっ、うっ…」

 うまい…。

「…おいしいでしょ?」

「はぁ…。先に食べるか…」

 僕は不安な気持ちを押さえて、とりあえずはお言葉に甘えて料理をいただくことにした。


 それにしても、ネズミの王…ネズミの王か…。ミッ…。ふざけてる場合じゃないか…。

 僕はミートボールを食べながら質問した。

「…それで、どういう状況なんだ?」

「最初に剣が光った後、すぐに王様に報告してさ…。それから、僕はご先祖様の資料と王宮にある資料を読みあさってたんだ…。でも、時間だけが過ぎて…なんにもわからなくってさ…」

「…それで?」 

「そしたら、また剣が輝きだしてね。雨が降ってないけど、試しに剣を握って地面をつついてみたら…。空間移動でコビットの王国付近にきたんだ。まあ、キノコになってて最初はどこかと思ったけど…」

「なるほど…」

 僕はスパゲッティの中にあるキノコを食べた。

「そして…僕は、君があの黒い魔物を倒したところを見たんだ…。それでわかったんだ…。剣が光った理由…。君を…勇者を連れてく為に、ここにきたんだって…」

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