第54話
アリスの様子を見るとやはり不思議そうな顔をしていた。
「私じゃなくって…。…どういうこと?」
シオンさんはなんとか誤魔化そうとしていたが、なかなか苦しそうな表情をしていた。
「あっ、あれはだな…。その…うーにゅ…。ごっ、ごっほん! うーん…。なんというか…」
仕方ない…。助け船をだすか…。
「シオンさんの言いたいことわかるよ。みんなの力で倒したんだって言いたいんだよね!」
「あ…ああっ! そう、そうだな! そういう事だ」
「ふーん。…そういう事ね。シオンさんって、慎ましいのね。…さて、お城の中に入りましょう」
僕達が城に入ると貴賓室に案内され、美味しい夕食の後に大臣が報告しにきてくれた。僕のゲーマー予想通りそれらしい物があったようだ。ただ、それとは別に厄介な話もあったようで…。
「…ということなんじゃ」
「…つまり、あの黒い奴がその国で暴れているから倒して欲しいって事ですね。それが渡す条件だと…」
…ちょうどいい。…一石二鳥だ。
「本当に申し訳ない。我が国の外交に巻き込んでしまって…」
「いえ、気にしないで下さい。そもそも、エルフの王国の後ろ盾がなければそんな話にすらなっていなかったでしょう。…それで場所は?」
「鍵はコビットの国に…。道標は猫の国にあるそうで…。まずはコビットの国に行って見て下され。北の港町に船を停めております」
船旅か…。…ん?
ふと、シオンさんの顔を見ると少し不安そうな顔をしていた。
「コビットの国か…」
「どうしたの? シオンさん?」
「いっ、いや、なにゅ…。…なんでもない。明日の朝から出発しよう…」
「はい…」
なにかありそうけど、今は教えてくれなさそうだな。…って、あれ? アリスがいない…。さっきまでいたのに…。
「あの…アリスは?」
「姫様はお疲れとの事で先に部屋にお戻りになられました」
「そうですか…」
…まあ、結構歩いたから疲れたんだろうな。
「なにか用事でも?」
「いっ、いえ…特には…。あの…さっきの話の続きなんですけど…」
結局、その後は大臣とシオンさんと明日の出発について詳しい話をした後、シオンさんも旅立つ準備があるという事で帰っていった。僕も疲れたので部屋に戻り、灯りを消して月明かりを頼りにベッドに入った。
「長かったな…」
「なにが?」
「そりゃあ…。…って、アリス!? なんでベッドの中に!? …あっ、あれ? …へっ、部屋、間違えた?」
驚いた事にアリスがベッドに寝ていた。
「あってるわよ…。…ねえ…アル?」
「…なんだ?」
「…私もいっちゃだめかな?」
…ったく、こいつ。答えるのに困るようなこと聞いてきやがって…。はぁ…。
「まぁ、正直いうときてほしい…」
「…え!?」
「…でも、アリスにはアリスの役目があるだろ?」
僕がそう言って断ろうとすると、アリスは怒ってしまった。
「やっ、役目なんていわないでよ! 確かにやらないといけない事はあるわ…。でも、好きでやってるわけじゃないの! …じゃあ、逆に聞くけどあなたの役目ってなに!? 教えてよ!」
…僕の役目? 考えたこともなかったな。会社で働くこと? いや、これは違うか…。日々生きていくこと? これも違うか…。この世界を救うこと? これも…違う…。
「……」
「ごっ、ごめんなさい。こんなこという為にきたんじゃないのに…。部屋に帰るね…」
僕は帰ろうとするアリスの手を強く握って引き止めた。
「ちょっと待ってくれ…」
「…どうしたの?」
「なにか…上手く説明できないけどさ…。本当にアリスがきたいんならきてもいい。…でも、ただ遊びできたいんなら、連れてくことはできない。…アリスはどっちなの?」
「私は…」
「確かにアリスの言う通り、役目なんて誰かが決めただけなのかも知れない。やらなければならない事を誰かに押し付けてるだけなのかも知れない!」
「……」
「でも、アリスが本当にしたい…誰かがやらなければいけない事をやる為に旅にきたいって言うんならくればいい。…アリスはどっちなの? 遊びなの? 本気なの?」
「私は…」
少し大人げなさすぎたか…。なんかアリスが自分と少し重なってしまった…。こんな説教できる立場じゃないのにな…。自分でさえわかっていないのに…。本当…大人ってずるいよな…。
「…ん? …アリス?」
何故かアリスはプルプルと震えていた。僕は心配して覗き込むと次の瞬間、強烈なパンチがとんできた。
「ばっ、ばかー!」
「ぐほっ…」
アリスは自分の部屋に帰ってしまったようだ。
子供ってずるいよな…。本当に…。
「俺も寝よう…。…ん?」
僕はベッドに潜り込むと少し濡れていることに気付いた。
きてほしいけど…危ないからだめだよ…くらいがよかったのかな…。
そんな事を思いながら僕は眠りについた。
次の日の朝、僕は王様の計らいで港町まで馬車で送ってもらえることになった。
「…ということで、アル殿。船は用意したから後はじゃ…。本当によろしく頼む…」
「はい…。ありがとうございます」
大臣に挨拶を終えると僕は王様にも船と馬車を用意してもらった事を感謝した。
「王様、ありがとうございます」
「ああ、気にしなくていい。本当に…本当に…よろしく頼むよ…」
「はい、王様。…あれ? 少し顔色が悪いですね? …リカバリーかけましょうか?」
「ああ…。頼む…」
「では、リカバリー!」
王様の顔を見ると顔色が悪くげっそりしていたが、リカバリーをかけてあげると少し良くなったみたいで喜んでいた。
「ありがとう…」
「いえいえ…。あの…アリスはまだ寝てますか?」
周りを見てもそこにはアリスの姿はなかった。まだ、昨日の夜の事を怒っているのかもしれない。
「ああっ、まっ、まだ寝てるみたいだね。本当に…本当にすまない…。あっ、あの子もまだ子供だから、その…朝が苦手なのだろう」
「そうですか…。じゃあ、帰ってくるときには、お土産沢山買ってくるからって伝えておいて下さい」
「あっ…。あぁ、伝えておくよ!」
僕は馬車に乗り込み港町に向けて出発した。グラグラと揺れる室内の中、僕はマリシアウルネクストを確認した。
反応はしていない…。まあ、エルフの王国でのイベントは現状ないんだろう。
しばらくすると馬車の揺れが止まり、なにかの鳴き声がどこからか聞こえた。
「…ん? どうやら、ついたみたいだな…」
馬車から降りて空を見上げるとカモメのような青い鳥が気持ちよさそうに飛んでいた。
「さて、いくか…。船旅なんて初めてだな…」
白い石段を踏みながら街に入ると門の近くに立っていたエルフに声をかけられた。
「…アル様ですか?」
「…はい」
「…私の後についてきてください。船まで案内します」
武器を隠し持っている。どうやら変装した兵士のようだ。
「…はっ、はい」
「こっちです」
僕は兵士に案内されて白塗りの壁の家がズラリと建ち並ぶ通路を抜け、細い階段を下ると港についた。
エルフの兵士によると今から乗る船はエルフの王国が所有している戦艦ではなく一般的な商船らしい。まあ、非公式とはこういう意味なのだろう。
「では、私はこれで…」
「はっ、はい。ありがとうございました」
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