第55話

 僕は案内された大きな木造船を見た後、振り返って後ろ側に停まっている格好いい豪華客船と見比べた。

「……」

 うーん。負けてるな…。この船…。造りはしっかりしてそうなんだけど…。見た目のカッコ良さが負けている。まあ、これはこれでカッコ良いと思うけど…。商船だから仕方ないか…。

「うーん…」

 でも、ゲームだとあの豪華客船以上の乗り物を最終的にはゲットできるんだけどな…。この世界では、やっぱりとてつもない値段なんだろう…。

 僕はそんな事を思いながら、目の前の船員に話しかけると木造船の甲板に案内され、そこにはシオンさんが立っていた。


「…やあ、シオンさん。おはよう」

「ああっ、おはにょ…。ごっ、ごっほん…。おはよう…」

 最近、わかってきたが…どうも動揺しているとシオンさんは妙な言語がでてしまうみたいだ。もしかして、船旅が苦手なのかもしれない。もしくは、今からいくコビットの王国になにかまずいでもあるのかもしれないな。

「……」

「……にゃっ、にゃぁ…」

 …おっ、船が揺れだした。どうやら出発みたいだな。…ん? …今、シオンさん…話しかけようとしてきた?

「……」

「……」

 気のせいか…。…そういえば、コビットの王国まで一体どのくらいかかるんだろう。ゲームだと目的地に二、三分でつくけど…。聞いてみるか…。

「…シオンさん、目的地までどのくらいかかるのかな?」

「…大体、一日くらいだよ。明日の昼にはつけるさ…。ところでその…」

 シオンさんの様子を見るとなんだかモジモジしていて様子がおかしかった。

「どうしたの?」

「こっ、これ、見てほしいんだ!」

 シオンさんは手を震わせながら白い手紙を手渡してきた。

 まっ、まさかっ…。ラッ、ラブ…ラブレターな訳はないか…。なんだろう…。

「シオンさん、これは…。…あれ?」

 もうそこにはシオンさんの姿はなかった。どこかに隠れてしまったようだ。

 …すごいスピードだな。

「まぁ…開けてみるか…。…ん?」

 手紙を見ると蝋で封がしてあり、よく見るとアリスのペンダントに描かれてたものと同じ王家の紋章だった。

 …王様からの手紙か? …それとも、アリスの?

 中を開けるとこう書いてあった。

「なになに…。アル殿へ…まず始めに謝っておく。本当にすまない…。本当にすまない…。本当にすまない…」

 なっ、なんだ、この謝罪文は…。

「今、これを読んでいるということは船が出航しているのだろう。本当にすまない…」

 …なんなんだ、この手紙? 謝ってばかりだぞ…。まぁ、続きを読むか…。

「えーと…。…アル殿に頼みがある。本当に申し訳ないんだが、私も寝ずに悩んだ末の決断なのだ。もし、どうしてもダメなら断ってくれても構わない…」

 それで顔色が悪かったのか…。…って、事は差出人は王様か。でも、決断って…。…一体、なんの話なんだ?

「えーと…。アリスを旅に連れてって…。なにっ!? アッ、アリスを…アリスを旅に連れてってくれだと!?」

 僕が急いで続きを見た。

「…たっ、旅に連れてってくれ。…宜しく頼む。…本当に宜しく頼む。…なっ、なんなんだよこれ!? …って事は、もう乗ってるのか!?」

 僕は振り返って辺りを探してみると、そこには見慣れた赤い服を着たエルフのお姫様が立っていた。

「手紙…みた?」

 アリスの顔を見ると王様に負けず劣らず顔色が悪かった。もしかしたら、王様と朝まで話しあったのかもしれない。

「アリス…お前…」

「私さ…アルに言われた事…。あの後、考えてもわからなかった…」

「…うん……」

「でも、一つ思ったの……。やっぱり、やってみなきゃそんな事わかんないって…」

「…ったく、アリス。こっちにこい!」

 アリスは叩かれると思ったのだろう。ゆっくり歩いてきて僕の前に立つと目をつむり手を震わせていた。

「……」

 確かに…遊びか本気かなんてやってみなきゃわかんないよな…。

「リカバリー!」

「…あっ、あれ!? なんだか気持ちいい…。疲れがとれてく…」

「はい、おわり!」

「ええっ!? もうちょっとやってよ」

「ダメ! 勝手についてきたバツだ。せっかく、お土産沢山買って帰ろうかと思ったのに…」

「現地でいただきます」

「こっ、こいつは…。そういえば確か…王様の手紙には断ってくれても構わないって書いてあったな…」

 僕は手軽をヒラヒラと揺らしてアリスにアピールした。

「ええっ!? てっ、手紙みせてっ!?」

「ほらよ! …書いてあるだろ?」

「えーと…」

 僕は手紙を渡した後、しばらく海を見ていた。

 まさか、アリスがついてくるなんて思いもしなかったな…。…ん? …ビリビリってなんの音だ。…変な音が聞こえる。

「…って、アリス!? おっ、お前!?」

 アリスの方を見ると手紙を破りファイアーボールを当て消し炭にして海に捨てていた。

「アルッ! これは非公式の任務なの。こんなもの持ってちゃダメでしょ」

「…いっ、いやっ!? …まっ、まあ、そうなのか?」

「はははっ…。一本取られたのかな、アル?」

 声のする方を見るとそこにはシオンさんが立っていた。

「…シオンさんも知ってたの?」

「まっ、まあ、そのなんとなくだがな。…でも、王様の依頼なんだ。君とは違って断れないだろ? …それで、どうする? どうしてもダメなら帰りの船で帰ってもらう方法もあるが…」

 アリスの顔を見ると不安げに僕を見つめていた。

「…シオンさん、コビットの国って安全な地域なんだよね?」

「ああ、穏やかな地域だ」

 ここまでついてきたんなら仕方ないか…。全く僕もあまちゃんだな…。なかなか大変な冒険になりそうだっていうのに…。

「まあ、そうだな…。たまには社会見学も悪くないだろ…」

「ってことは…。やったぁー!」

 こいつ…。本当にわかりやすい性格してるな…。

「さて、そうと決まれば船室にいこう。みんな、作戦会議だ!」

「うん!」

「ああ!」

 それから僕達は船室で作戦会議を行い、その後はお魚いっぱいのご飯を食べ海の幸に満足して船旅をしばらく楽しんだ。そうこうしていると、あっという間に時間が過ぎ気付けば日が落ちていた。

僕達は船員達に任せて次の日に備え眠る事にしたが、航海の方はとても順調で目的の大陸まで嵐にもあわず無事にたどり着く事ができたようだった。


「…ん? 朝か…」

 僕はこの時…大変だと思いながらも、心のどこかで冒険を楽しんでいた。まるで、買ってきたばかりのゲームを遊ぶ子供のように…。



本当は始まっていた…。

あの黒い魔物を…。

いや、この世界にきた時点で…。


運命という名のシナリオ…。


そんな…とんでもないものに巻き込まれているなんて、この時の僕は思いもしなかった…。


本当に…本当になにも知らなかったんだ…。

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