第49話

 念の為に僕は透けた彼女の身体に触れようとしてみたが、まるで煙のようで触れられなかった。

「ちょっと待って! あなた、リカバリー使えるの!? 神族なの? 何段階まで使えるの!?」

「いや、神族じゃないんだけど…。…使えるんだ。一応、リカバリースリー…。三段階目まで使える」

「…信じられない。でも、よくよく考えれば幽霊になれる人間なんて今まで聞いたことないし…。…一体何者なの?」

「まぁ、話せば長い話になるんだけど…。まあ、神の使いかな…」

「勇者の末裔とかではなくて、本物の勇者ってこと?」

「一応…そういうことになるかな…」

「どっ、どういう事…。もう…頭パンクしそう…。頭ないけど…。…って、あれ!?」

 シルフィは驚いた声をだして、シオンさんの所に移動し顔をまじまじとみていた。

「どうしたの? シオンさんがどうかした?」

「…シオン!? この子、シオンなの!? 確かに面影があるわ…。生きていたのね…。本当によかった…。涙でそうよ…。でないけど…」

「知り合いなんでしょ?」

「ええ…。この子を逃がす為に、私達のパーティーは戦ったの…」

 この子を逃がす為? どういう意味だ?

「勇者のパーティーがシオンさんを助けたってことか?」

「違うわよ。…敵は私が珍しいリカバリーを使えるから正統な勇者の末裔と勘違いして私を消しにきたけど…。私はそもそもエルフとのクォーターだから違うわ…。この子こそ…神族の王の子…正統な勇者の末裔…。…つまり、勇者なの」

「…えええっ!? …シッ、シオンさんが勇者!? …えっ、ちょっ、ちょっと待ってくれ」

 いや…そうか…そうだったのか…。

 僕は王道RPGのやりすぎで盛大な勘違いをしていた。

「つまり、君達勇者のパーティーは魔王を倒す為にエルフの王国にきたんじゃなくて、魔王から逃げる為にきたってこと?」

「ええ…。恥ずかしい話だけどそうね…。ただ、あんな化物相手に勝てる奴がいるなんて思えないけど…」

 シルフィは身体を震わせていた。

「…そんなに強いのか?」

「…正真正銘の化物よ。あいつは…倒した敵を吸収するの。初めは気持ちの悪い…ただの醜い化物だった。でも…神族を一人殺すたびに醜い化物は人間に近づいていったわ。…そして、同時に神族の強さも吸収していった」

 まさか…僕と同じスキルを持っているのか? だとしたら…。

「一体…何人殺したんだ?」

 僕は恐る恐る尋ねた。

「わからないわ…。私達は逃げるので必死で…。ただ、当時神族は末端まで入れると百万人くらいいたといわれてるわ。平均ステータスはHPだけでいえば一万程度っていうところかしら…。その内、数の多い竜族に九割やられていたとしても…」

 十万かける一万は…。…いくらだ?

「…十億? そっ、そんな馬鹿みたいな数字…。…計算間違いか?」

「いえ…あってるわ。ただ、魔王は値踏みするように神族を殺していったから、実際にはそこまではないかもしれないけれど…。最低でもHP一億はあるかもしれない…」

 HP一億…。恐ろしい化け物だな…。僕の一千万超えのHPが可愛く思えてきたぞ…。

「…よくそんな化け物からシオンさんを守りながら逃げ切れたね」

「ええ…。まあ、シオンの顔が広まってなかったから助かったのかもしれないわね」

 そういうとシルフィは右手をシオンさんの頬に嬉しそうに置いた。

「そうなの?」

「ええ…。宗教的な理由でね。神族の王の子は成人するまで民衆に絶対顔を見せないの。…なぜかわかる?」

「うーん。…全然わかんない」

「答えはね…。神様だから」

「神様?」

「つまり、人間じゃないから最初は現世には存在してないってことね。成人したら顔を見せるの。現世に現れた神、現人神としてね。…っていってもお世話係の私は知ってたんだけどね」

「なるほどな。なかなか興味深い話だな。…じゃあ、俺は話も終わったみたいだしそろそろ戻るよ」

 僕がプレイデッドを解除しようとすると、シルフィは慌てて声をかけてきた。

「ちょっと、待っててば! 身の上話ばっかりしてて本題忘れてた。私がした話、覚えてる? 宝具の話…」

「…祭壇の横の石像に隠し通路があるとかってやつ?」

 シルフィはシオンさんから離れ僕の方に近づいてきた。

「ええ、エルフの王国のどこかにあるらしいの。もしかしたら、それなら私に触れられるかもしれない。お願い…。探してきて…」

「わかった。すぐに知ってそうなやつに聞いてくる。…だから諦めるなよ」

「わかったわ。あなたが諦めない限り、私も諦めないわ!」

 僕はその言葉を聞くと安心してプレイデッドを解除した。


 

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る