第48話
「じゃあ、まずはこの部屋から…。…すいません。椅子ありますか?」
「ああ。ちょっと待ってくれ…」
シオンさんは背もたれのない椅子をどこからか持ってきた。
「あの…意識がなくなるんで、できれば背もたれのある椅子ってないですか?」
「…意識が? …この教会にはないかもしれないな。…買ってこようか?」
流石に買ってくるまではしなくてもいいか。…仕方ない。
「いや、床に寝るんでいいです」
僕は腰を下ろし床に寝ようとするとシオンさんがしゃがみこみ上半身を支えた。
「流石に床に寝てもらうのは申し訳ない。私が支えておこう」
「じゃあ、お願いします」
僕はステータス画面を開きプレイデッドを発動し幽霊化したが、やはりここにはいないようだったのですぐに解除した。
「…本当に死んでるんだな。…驚いたよ」
「ここにはいないみたいです」
「そうか…」
さて、次はどこを探そうか…。まあ、ゲーマー予想でいえばあそこだな…。
「シオンさん、黒猫亭へ行ってみましょう」
「…黒猫亭?」
僕達は王国を探し回り黒猫亭についた。本当に王国は広く宿屋の数も沢山あったので探すのに苦労したが、なんとか聞き込みの末に見つけることができた。
「あのー…」
宿屋の中に入るとそこには高い柱で心地良さそうに寝ている黒猫がいた。
「…ん? …お客様かい? …すまない。今は満室だよ」
「聞きたいことがあるんですけど…。部屋に幽霊がでたとかそんなことはないですか?」
そういうと上空からカウンターに、ぱっと降りてきて黒猫は僕を睨みつけた後、全身の毛を逆立て威嚇してきた。…当たりみたいだ。
「客人…なぜそう思った?」
僕は鈴を見せた後に事情を説明する事にした。鈴を見せると顔が穏やかになり警戒を解いてくれたみたいだった。
「…って事なんです」
「…なるほど。確かに208号室にいるよ。そこまではっきり見えないが、最近なにかいるのは感じててね。…一室ダメにされるし、近隣の宿屋に呪いかなんかで営業妨害されてるのかと思ったよ。…っほい、これやるよ」
黒猫は尻尾でなにかを掴み投げてきた。それをキャッチすると小さな黒色の鈴と部屋のカギが手のひらにのっていた。
「…あの、まだなにもしてないですけど?」
僕は小さな鈴を手からぶら下げて、おじさんっぽい黒猫に見せた。
「どうせ解決してくれるんなら先にやっとくよ。鈴の数は信頼と実績の証だからな」
「アル、早く行こう!」
シオンさんは僕の手を力強く引いた。
「じゃあ、鈴もらっときます」
僕は手のひらの鈴を大事にポケットにしまった。部屋につくと波打つようなふかふかのベッドに横になり天井を見つめた。
さて、プレイデッドを発動するか…。全く…全クリまで相当かかるなこれは…。
「…アル。…シルフィ様を頼む」
「…うん。任せてよ!」
僕はステータス画面を開きプレイデッドを発動した。
「…ん? …あれは?」
窓際の方を見ると、白いボンボンのついている冬服を着たアリスと変わらないくらいの女の子が思い詰めた顔でじっと外を見つめていた。
「…シルフィ、なにしてんだ? こんな所で…」
シルフィは振り向き僕の姿を見ると驚いていた。
「えっ!? …まっ、また、あなたなの? …じっ、実は俺、やっぱり死神なんだ…って、落ちじゃないわよね?」
「どっちかっていうと生神だよ。君を生き返らせにきたんだ」
…このセリフどっかで聞いたことがあるな。…まぁそんな事よりも、こんなことを急にいってもシルフィは信じてくれないだろうな。
シルフィの方を見ると予想通り信じてなさそうな顔をして、溜め息をつき曇った窓の方を見た。
「気持ちはありがたいけど、そんなの無理よ…。私、ここにきて思いだしたの…。私の目的やなぜ死んだのかもね…」
「でも、身体は生きてるよ。だからっ…」
「身体はね。教会にあるんでしょ?」
「知ってるのか? てっきり知らないのかと…」
「…思いだしたのよ。…私は死ぬ瞬間にリカバリーを使ったの。…それに失敗したのよ。身体は戻ったけど、魂が離れるまでに終わらなかった…。ああ、ちなみにリカバリーってのは回復魔法ね…」
つまり、リカバリースリーに失敗してこんな状態になっているのか…。
僕はゾッとした。
「でっ、でも魂があるなら身体の近くに行けば戻れるかもしれない!」
「それならもう試してダメだった! もう帰って!」
シルフィが怒ると近くの花瓶がガタガタと揺れだした。
「…でも、なにか他に方法があるかもしれない」
「そんなのないわよ! …もし、方法があるとすれば私の魂と身体に直接触れてリカバリーを使えばできるかもしれないけれど…。幽霊になんて触れられないし、そんな達人クラスのリカバリーができる神族なんて生きていない。もう全員殺されちゃったのよ!」
「…リカバリーなら一応できるけど君に触れることはできないみたいだ。…少し相談してくるよ」
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