第47話

 教会の中に入ると外ほどは酷くなく綺麗に整備されていた。シオンさんの後についていき、そのまま奥に進むといくつかの部屋があり僕達は一番奥の部屋に入った。そこは小窓がある小さな一室でまるで病室のようだった。

「こっちにきてくれ。多分ないと思うけど…。この方に…見覚えはないかな?」 

 知り合いなんてこの世界にいるはずないんだけど…。

 部屋の角をみると白色のベッドで誰かが寝ていた。僕はベッドの近くに行き顔を覗き込んだ。

「…シルフィ? いや、違うか? でも…似てるな…」

 そう…。それはあの宿で見た黒髪のエルフにそっくりだった。ただ僕が会ったときと違い大人びていた。

「なっ、なぜ、君がシルフィ様を知っているんだ!?」

 シオンさんは僕に詰め寄り襟を掴んだ。

「あのっ、ちょっと…襟を…離してっ…」

「すっ、すまない。驚いてしまって…。…説明してくれないか?」

「じっ、実は…」

 僕はアリスと泊まった宿の黒髪の幽霊の事を話した。


「…って事なんだ」

「そんな…ずっとあの場所に…」

 シオンさんは急に泣き崩れ、僕は膝をつき様子を伺った。

「だっ、大丈夫?」

「ああ…大丈夫だ。…ずっとシルフィ様をこんな状態にしたやつを探していた。やっぱり…あいつがそうだったのか…。君が…君が…敵を討ってくれたんだね…。本当にありがとう…」

「…シルフィは生きてるの?」

 僕とシオンさんは立ち上がりシルフィの方を向いた。

「…わからない。…でも、なにを言っても言葉を発しないんだ」

「……」

「…ただ、先日叫び声をあげたと連絡がきてね。心配になって様子を見にきたんだ」

 なるほど…。用事があるというのはこの事だったのか。…というか、叫び声をあげたのは僕のせいかもしれない。

「…ごめん。悪霊だと思ってシルフィを驚かしたんだ。…そのせいだと思う」

「いや、気にしなくていい。…それで教会にきてシルフィ様にあったら君の名前を…。でも、本当に関係あるなんて思わなかったよ。…シルフィ様は、今どこに!?」

「いや…それがわからないんだ」

「そう…なのか…」

 シオンさんはとても落胆していたようだった。

「…とりあえず、リカバリーで様子を見てみるよ。もしかしたら、なにかわかるかもしれない」

「ああ! よろしく頼む…」

「ふぅー。…リカバリー!」

 …ん? …なんだ? …これ? 真っ白なパズルだ。…ただ、見かけ上は問題なく全部揃ってる。

 僕はリカバリーの発動を止めた。

「…どうだ?」

「…わからない。…僕じゃ治せないのかもしれない」

「そうか…」

 なにか治す方法がないのか。…そうだ! 神様に聞いてみよう。ちょうど教会だしすぐに聞ける。

「ちょっと待ってて! 回復魔法に詳しい人に聞いてくるから…」

「えっ! …驚いたよ。君以上に詳しい人がいるんだね。…わかった。私はシルフィ様の様子を見てるよ」

 僕は部屋を出て神様の銅像が置いてあるフロアについた。

「おーい、神様。聞こえる?」

「はい。聞こえてますよ。なんですか?」

「実は魂と体が離れちゃってる人がいてさ。その人を助けたいんだけどどうすればいいんだ?」

「うーん。魂は近くにあるんですか?」

「…わからない」

「そうですか…。じゃあ、まずは幽霊を体の近くに連れて来てください。それで戻ることもあります。確か幽霊になれるんでしたよね?」

「ああ、なれるよ。じゃあ、探してくる」

「ちょっ、ちょっと待ってください! 近況報告してください!」

「面倒くさいなあ…。えっと…」

 僕はエルフの王国にきた後に牢屋に閉じ込められ、その後によくわからない魔物を倒して、エルフ達を助ける為にリカバリーを連発したことを伝えた。


「…いろいろツッコミたい所が多々ありますけど…。まずは無事でよかったです…。ただ、あなたがさらに化け物みたいなステータスになった事に驚きを隠せません。…確認なんですけど、俺はこの世界の王になる!…ドン!とか野望はないですよね」

「ねえよ! …っていうかなんなんだ? あの変な魔物…」

「正直わかりませんが、ただの魔物ではないと思います。…少し体を見せてくれますか?」

「見せるっていってもどうすればいいんだ? …服脱げばいいのか?」

「そんなことしなくていいです! しばらくじっとしてて下さい!」

 神様が妙な呪文を唱えると銅像の中から小さな金色に光る球体がでてきた。それは段々と僕に近づき体内にヒュっと入ると、しばらくして銅像に戻っていった。

 …なんかくすぐったかったな。

「…どうだった?」

「……」

 …返事がない。聞こえなかったのか?

「…ねえ、神様? どうだったの?」

「…私は生まれて初めての感情に戸惑っています」

「…初めての感情?」

「…恐怖です」

「…神様が恐怖ってどうしたんだよ」

「…わかりません。私も混乱しています。ただ、これは私の恐怖というより…。…すいません。先に幽霊を探してきてくれませんか? …それまでには整理しておきます」

「…ああ、わかったよ。大丈夫なのか?」

「はい、大丈夫です。では…」

 …どうしたんだろう? なんか様子が変だったけど…。

「……」

 …まあ、いいか。…神様にいわれた通り、先にシルフィを探しに行こう。

 僕は部屋に戻りシルフィの幽霊を探すことをシオンさんに伝えた。

 

 

 

 

 

 

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